第5話 食卓

夕方頃、草原狼の牙を組合に納品した私とシャムは[フリーウォーク]へと足を伸ばす。

エトーが食事を作っていてくれるという事を覚えていたからだ。

エトーは戦闘スキルに関してはからっきりだが、料理の腕前はなかなかのものなのだ。

それに他のメンバーがいるかもしれないし、そうであれば皆と食事をすれば賑やかで楽しいだろう。


「「ただいまあぁぁぁ、お腹空いた!!」」


シャムと二人で笑顔でホームの扉を開ける。


「おかえりです。」

「おかえり。」


椅子に座って事務仕事をしていただろう二人が挨拶を返す。


「いつも二人は元気で良いことです。」


そう言って銀色の瞳をこちらに向けるのは、

クピ・クル。

小人族の男性であり、このギルドの副リーダーでもある。

サラッとした銀髪の美少年といった趣だが、れっきとした成人男性。

小人族の年齢を見た目から把握するのは他の種族にはとても難しい。


「仕事中に二人が騒ぐのは困るんだが・・・まぁ俺は嫌いではないよ。」


そう言って少し斜に構えて話すのは、

メリス・クロニカ。

青く染めた髪を短く切り揃えた狐の獣人の男性だ。

このギルドには珍しく合理的な判断を是とするタイプなのだが、フリーウォークの事が大好きという気持ちが、そのポーカーフェイスからちょいちょい漏れてしまっている可愛い人だ。


「あれ、エトさんは?ご飯作ってくれるって言ってたんだけどー。」


私の疑問にクピが答える。


「エトさんです?先程組合に呼び出されて出かけていきましたです。多分いつもの依頼関連だと思うので、すぐに戻ってくると思うです。」


それを聞いたシャムはニカッと笑いながら


「じゃあ帰ってきたら皆でご飯食べようよ!エトさんのことだから料理の下ごしらえは済んでると思うし!あ、お酒も飲んじゃう?」


「いいねー、シャム。わかってるねー。エトさんの今日のご飯わかったら、それに合わせてお酒選んじゃおー。クピさんもメリスもそれでおっけー?」


「もちろんです。」


「やれやれ今日の夕飯は騒がしくなりそうだね・・・まぁ嫌ではないけど。」


「じゃあエトさん来るまでお仕事手伝うよー。シャムはそこで腹筋しててー。」


「よし、任せろ! 違う! なんでだ! 私も手伝う!」


シャムの天然の勢いにメリスが噴き出す。


「ぶふっ」


私はメリスのポーカーフェイスが簡単に崩れるのがとても好きである。


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4人で書類を分けて処理を続けること20分程。

書類の量も残りはそれほど多くなく、片づけをし始めたところで

ホームの扉が開き、エトーが笑顔で入ってくる。


「エトさん、おかえりー」


「シャムさん、ハルさん戻っていたんですね、おかえりなさい。そして皆さんただいま。」


「「おかえり」」


「ひょっとして食事を待たせてしまいましたか?温めなおせば良いだけですので、すぐに用意しますね。」


「やったー、今日の献立はー?」


「ビーフシチューですよ。」


「よし、シャム!ワインだ!赤ワインを用意せよ!」


「わかった!樽か?樽ごといるか!?」


「二人は元気なのが取り柄とはいえ・・・やはり騒がしい。

・・・樽は間違いなく飲みきれないから、ボトルを2本にしておいてくれシャム。」


文句を言っているように見えて、嬉しさを隠しきれていない表情のメリス。


「皆で食事は楽しいです。今日は私も飲むです。」


銀色の瞳を細めてニコニコするクピ。


「じゃあクピさん、一緒にテーブルの上片付けちゃおー。メリスはエトさん手伝ってあげてー。」


そうして楽しく賑やかしい食卓が作られていくのであった。


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「そういえば皆さんに報告することがありました。」


エトー特製のビーフシチューを食べ終わり、各々がワインを飲みながらテーブルで雑談をしている時、エトーが笑顔で口を開く。


「今日、組合からフリーウォークに新人研修のお話がありました。まだどういったギルドに向いているか、希望をしているかは決定されていませんが、明日から早速とのことでしたので、是非にと返事をしておきました。」


「おー!新人さんは久しぶりだねー!どういった子なんだい?」


「詳しいことは明日直接話した方が良いと思いましたので、深くは聞いていませんが獣人の二人組だそうですよ。ハルさんは明日空いていますか?」


「明日は予定もないし大丈夫だよー。シャムとクピさん、メリスは?」


「あたしも明日は大丈夫だよ。どんな子たちが来るのかワクワクするねえ。」


「僕は明日はラインさんとユキ君とお仕事の予定があるです。残念ですが明日はお任せするです。」


「俺は申し訳ないが新人研修には興味が無いな・・・。エトーとシャム、さちに任せる。」


メリスはさも興味が無い風を装って言ってはいるが、他の4人は気付いている。

彼は人見知りなので、いきなり新人に会うのが恥ずかしいだけということに。

きっと新人の研修が何日か進んだところで何食わぬを顔して、いつのまにか会話に合流しているに違いないと。


もちろんそれを口に出して指摘するなんて野暮なことはしない。

彼に気付かれない程度に生暖かい目をこっそり向けるだけだ。


あぁワインが美味い。


ちなみにクピの返事に出てきたラインとユキはフリーウォークのギルドメンバーである。二人の話はまたの時にしよう。


「わかりました。では明日は私とハルさん、シャムさんで新人研修の対応をしますね。お二方は明日早めにここに来てもらえれば助かります。」


「「了解だよ、エトさん。」」


「クピさん、ラインさんとユキさんに新人研修の話だけ伝えておいてください。どこかでお手伝いをお願いすると思いますので。」


「わかったです。」


「んじゃ、シャム。明日は早くなりそうだから、この残りのワインをパパっと飲んでしまおー!」


「そうだね、さち。明日に繋げるために早めに飲んでしまおう!。」


「普通、そこはお酒を控える流れだろう・・・。相変わらずだな君たちは。」


そう言いながらもやはり口角が上がっているメリス。


「ねぇ、シャム。今気付いたんだけど、僕が両手でこうやってコップを持ってちびちびワインを飲んだら可愛くない?」


「さち、飲んでる量が全然可愛くないことにも今気付くといいよ?」


こうしてフリーウォークのいつもの食事は過ぎていく。

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