第4話 双弓術

2匹と手負いの狼1匹であればシャムは十分に安全マージンを取りながら戦える。

私は余裕を持って、まずは手負いの狼の方にとどめを刺す矢を放つ。


その間にシャムは新しく向かってきた狼に再び見事なパリィを決めながら、その勢いを利用して狼を頭から投げ落とす。

落とされた場所でぐったりと動かなくなる狼。


残りは一匹。


私の視野にも他の増援などは見当たらなかった。

虫や鳥も近くにはいないようだ。


私の様子からそれを理解したであろうシャムはそのまま最後の狼に嬉々として向かっていく。


「おー、見事な飛び蹴りだー。」



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私が剣や槍。その他諸々の武器に全く向いていないと気付いたのは初めて剣を持った時だった。


怖い。

ただただ怖い。

こんなものを持って同じ武器を持った相手や獣と戦う?

すぐ目の前で?


無理。

絶対に無理だ。


私は臆病だった。


自分でもとても腰が引けているのがわかる。顔も引きつっているに違いない。

槍を持っても斧を持っても腰が更に引けていくだけだった。

そのまま私はへたりと座り込む。


しばらく呆けていたが、このまま下を見ていても埒が明かない。

どうしたものかと周りを見渡すと隅に弓が置いてあった。

何の変哲もない普通の弓だったと思う。


しかし・・・

私は弓から目が離せなかった。


子供っぽい理由であるのは重々承知しているのだが・・・


かっこよかった。

とてもかっこよく見えたのだ。


私は立ち上がり、弓の元まで歩く。

そして、その弓を手にして矢をつがえる。

先程まで腰の引けていた私の姿はどこにもなかった。


弓を引き矢が的に刺さる。

その一連の行動は自分の心にも刺さった。


とても・・・楽しい。


私は弓が好きなんだ。

私は弓を引き矢を放つという事がとても好きなんだ。


弓であれば訓練するのが滞ることは無いだろう。

単純に楽しいのだから。


と、喜んだのも束の間。


通常、弓を生業とする冒険者は敵に接近された時の用意を備えているものだ。

短剣を備え、それを使う術を習得するといったことが多いだろうか。


どんなに長距離狙撃に優れていようと、自分の身を守れないアーチャーなど戦術の幅が狭まるだけだ。

自分の身を守ってもらうように仲間が必ず近くにいるようにしてもらっていては、

当然位置取りも悪くなるし、視野も広く取れない。

離れて戦局を大きく見て指示を出すこともできやしない。

他にも言い出したらきりがないだろう。


さて、短剣を持った私など全く使い物にならない。

私は急な接敵にどう対応するべきなのか。


ならばと安直に考えたのが、速射性に優れ近距離に矢をばら撒けるショートボウを備えておくこと。そして、相手の攻撃を避けるということに特化すること。

臆病である分相手の攻撃や敵意には敏感だ。


だが一々弓を悠長に持ちかえていてはどんどんと変わっていく戦局に対応はできないだろう。


そうであれば・・・徹底的に二つの弓をスイッチして構えることを極めよう。

誰よりも速く弓を持ちかえる。

誰よりも速く矢をつがえる。


私は臆病だが器用さには自信がある。

足だってなんだって使う。

軸をぶらさずに弓を切り替えることを極めるのだ。


弓を楽しいと感じる大きな才能が自分には在ったのだ。


ならばそこに特化すればいい。


それが私の双弓術だ。

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