第3話 自分なりの
街から離れた草原にシャムと二人でたどり着いたのはお昼の少し前といったところだろうか。
まだ登り切っていない太陽の温かさと、草原を駆け抜ける風が体に心地よい。
予想通りの気持ち良さで私もシャムも体をぐっと伸ばして深呼吸する。
「そろそろ草原狼のテリトリーだね、さち。」
手足をブラブラとストレッチしながらシャムが呟く。
「シャムと僕なら6匹までなら無理をしないで狩れるかな?」
「そうだねー。でも群れに突っ込みたいとも思わないし。できれば群れから離れている個体を狙いたいね。特に納品数も決まってなかったよね?」
「うん、じゃあシャムの言うとおりにしますか!」
「準備しちゃうからちょっと待ってね」
そう言いながら静かに金属製のガントレットとレガースを身に着けるシャム。
金属製なのにガシャガシャと音がしないのは接続部分に色々と工夫がされているから・・・らしい。
自分が使っているわけではない武器に関してはそこまで詳しくはない。
「じゃあ風上だけ意識しながら行きますかー。」
草原狼は非常に好戦的なため、気付かれても逃げられるということは無いのだが、
私とシャムのコンビなら先に敵を見つけるという事が非常に大きい。
まぁ、どんな戦いでも先手を取ることは大概重要なことではあるが。
「じゃあ、さち。いつもの様に位置取りと索敵は任せたよ。」
「おっけー。シャムも転ばないように気を付けてね。」
「もぅ。準備完了したから、そんなヘマはしないよ。」
結局多少の軽口は続けながら二人は草原を進む。
・・・そして20分程経った頃。
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「シャム。目標見つけた。3匹。あの木陰。食事中かな。」
私はかなり先に見える木を指差しながらシャムに簡素に伝える。
「了解。2匹受け持つから、最初で1匹よろしくね。」
「うん。任せて。」
そして私はずっと背中に背負っていた自分の身長の長さ程もあるロングボウをつがえる。
3匹の内の一匹、一番体の大きい狼を狙う。
自分の見た目からしてそんな弓が引けるのかとよく揶揄われるが、そんな言葉を蹴散らすかのように最大限まで弓を引き、・・・矢を放つ。
「シャム!」
私が声を上げたと同時に一番大きい狼の胴体に矢が刺さり、そしてその勢いのまま狼の体が数メートル吹き飛ぶ。
それと同時にシャムが残りの狼二匹に向かって駆ける。
「うらああああああっ!!!」
狼は大声で吼えて向かってくる彼女に注意を向け、二匹とも牙をむき出しにして駆け出す。
接敵したシャムは狼の牙をガントレットで受け流しつつ、そのガントレットの重さの遠心力を利用した円を描くような蹴りを放つ。
金属製のレガースによる蹴りが狼の首に入り、その狼はたたらを踏んで少し先で倒れる。
もう一匹の狼はその動きに警戒したのか、唸りながらシャムと距離をとる。
彼女は一切の油断なくその狼に向かい構えをとる。
それを確認した私は首に蹴りを入れられた狼にとどめを刺すべく再びロングボウを構えようとした。
その時。
予想外の場所に敵が現れる。
虫だ。
もちろんただの虫ではない。
人の頭をひと回り程大きくしたサイズ。テントウムシに凶悪な角と牙を持たせたような形。
戦闘が起こった場所に漁夫の利を狙い急襲をかけてくる虫。
キラーバグ。
それが2匹、私の数メートル程先に突然と現れる。
ロングボウでは弓を引くのに時間がかかる。例え間に合って一匹落とせたとしても、もう一匹の攻撃に次の矢は間違いなく間に合わない。シャムは離れたところで狼と対峙している。絶対的な危機・・・
だが、私は
ロングボウから手を放す。
ロングボウが地に落ちたと同時に既に私の手によって構えていた弓は、腰に帯びていたショートボウ。
つがえられた矢は3本。
それを放つ。
放たれた矢は2匹のキラーバグの羽を貫く。
1本は残念ながら外したようだ。
そしてすぐさまショートボウ用の2本の矢をつがえて放ち、よろめいたように旋回しているキラーバグの体を貫く。
「さち!!」
息をつく暇もなく遠くのシャムから声がかかる。
彼女と対峙している一匹の狼の方に新たな狼が2匹向かってきている。
近くにいた群れの仲間だろうか。
私は足元に落ちているロングボウの先を足にかける。
そしてショートボウを手放しながら、足を振り上げる。
その勢いで手元に収まるロングボウ。
既に矢をつがえた状態でロングボウを構える。
そしてシャムへ向かっていく二匹の内の一匹に狙いを定め・・・放つ。
二刀流ならぬ二弓流。
ショートボウによる連射とロングボウの長距離狙撃を絶え間なく切り替えて矢の砲台となる。
双弓術が私の戦い方だった。
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