番外編: よのりの夏休み
さてさて、夏休みのお話は沢山あるのでりーちゃんの話。
大分前にも話しましたが、ボクは私で、りーちゃんは僕と呼んでいる時期がありました。
りーちゃんが突然変わってしまったのはボクが小学二年生の夏休みの事。意気揚々とおじいちゃん家に向かって、久々の再会を喜んでりーちゃんに駆け出しますが、呼び方が変わっている事にどこか寂しさを感じます。
「りーちゃん、なんで…呼び方…ぁ…」
「まあ、ちょっとね。モデルになるには仕方の無い事なのかもね?」
ボクが呼び方を指摘した時の悲しそうな顔は忘れられません。
「でもよーちゃんはそのままでもいいと思うな。」
「や、でもボク…ボクりーちゃんと一緒がいいっ!ボクも呼び方変える!」
「よーちゃん…」
「ボクが真似したから…?ボクのせい…?」
「そうじゃないよ!でもちょっと…恥ずかしい、かなって…」
「ボクって呼ぶのは恥ずかしいの!?なのにりーちゃんはボクにボクって言わせるの!?りーちゃんだけカッコよく言うつもりなんだっ!」
「ち、違っ…!」
「もういい!もういいもん!」
そんなあやふやな事ばかり、お茶を濁すような言い方ばかりのりーちゃんにボクは怒りを覚えました。ボクが信じていたりーちゃんのかっこ良さが、なんだか壊れるような感覚を覚えました。
ボクは引き止めるりーちゃんを置いておじいちゃん家に入っていきます。
「よお、いらっしゃい。元気か?」
「…」
「何かあったのか…?」
「…ううん。大丈夫。ちょっと疲れちゃっただけ…」
「まあ長旅だしなぁ…ゆっくり休みな。まだまだ夏休みはあるんだからな。」
そうです。おじいちゃん家には1週間ほど滞在します。
初日からあんなの…酷いです。
おじいちゃんのアドバイスに従うふりをして、別館へと篭もります。
1人になると、だんだん涙が溜まってきました。
幸か不幸か、ボクの従姉妹はりーちゃんだけ。同年代とは言えなくても、誰よりもカッコいいお姉さんなのです。そして、ボクと唯一一緒に遊んでくれる。
ボクはあと1週間どうやって楽しめばいいのだろうか…
「…ひっく…すん……」
気づけばすすり泣きに変わっていました。
「…よーちゃーん、よーちゃーん…?いないのー?」
遠くから聞こえてきたのはりーちゃんの声。おじいちゃんに話を聞いたのでしょうか。
悲しいのと同時に残っていたいた怒りや落胆といった気持ちがボクを邪魔して、意固地にさせます。
意地でも出ない。自分からは絶対に出ない。
「よーちゃん、よーちゃん…ねぇ…んぐっ…」
りーちゃんの言葉の端には涙や引き声が混じるようになってきました。
「ごめんね…よーちゃん…わた……僕は弱いから、よーちゃんだけでも頑張って欲しくて…ひっ……ごめんね、弱くてごめんねぇ…だから僕を見捨てないで…」
足跡はすぐ隣まで来ていました。そして、通り過ぎていきます。
ボクの足は、自然と扉へと駆けていました。
扉を開けてすぐの所、りーちゃんは足を止めました。ボクも思い切って出たものの、その後の事なんて考えてないから動けません。ボクは、悪くない…はずだもん。
「…よーちゃん、そのままでいいから少しだけお話聞いてくれない?」
「……うん。」
「まあ…簡単に言うと僕っていうのは男の子が多いの。だけど、女の子が使っちゃいけないなんて決まってもない。だけど…僕は疲れちゃった。もう、面倒になっちゃった。何を言っても聞いてくれないし、僕が僕らしくあるのはみんなからみれば僕らしくないらしい。」
「…りーちゃ…」
「僕には諦めきれない夢がある。その為なら…僕は私にだってなれる。そして、夢を叶えたら…きっと、私は僕になれる。だから…その間、僕を預かっていて欲しい。よーちゃんは僕なんかよりもずっと、ずーっと強い。僕は産まれた時から僕だったけど、よーちゃんは産まれた時は私だった。けど、私からボクになれた。」
「うん…?」
「ごめんね、難しい話だよね…とりあえず、僕は私になるから、よーちゃんはボクであって欲しい。」
「うん…そうしたら、りーちゃん笑える?」
「うん。もう、泣かない。だから私と仲直りして欲しい。いいかな?」
「うん!ボク、りーちゃんが笑えるなら仲直りする!」
さてさて、仲直りしたボクらですが、やっぱり私と呼ぶりーちゃんに感じる違和感は取れません。
ご飯を食べてても、一緒に遊んでも、寝る前に布団でお話しても。次第にその違和感の原因たる夢とやらに不快感を感じてきます。りーちゃんをりーちゃんらしくさせていないのは、なんだ。
ボクは幼稚な感情のままついにポロッと言ってしまいました。
「さて、ぼ…私は外に出ようかな。よーちゃんは?」
「りーちゃん、そんな事するぐらいなら夢なんて諦めたらいいのに。」
「え、なんで…?ちゃんと説明したよね?」
「そうだけど…でも、やっぱりりーちゃんらしくないもん。りーちゃん無理して私にしようとしてるもん。」
「でも、それは夢を叶えるには必要な事だから。私はその為には努力は惜しまないよ。」
「そんなのりーちゃんじゃないもん!りーちゃん、さっきから全然笑ってないもん!もっとりーちゃんは笑ってたもん!りーちゃんが笑えなくなるような夢なんて、ボク要らないもん!」
「いい加減にして!私の夢は私の夢!よーちゃんには関係ないでしょ!?」
「……え、あぅ…でも…!」
りーちゃんがボクに怒ったのは初めての事でした。まさか怒られるなんて思ってなかったボクはしどろもどろになります。
「それと、なんで私が笑えないか教えてあげよっか…?」
「ちょっと?喧嘩しちゃダメよー?」
叔母さんの声。けど叔母さんがこちらに来る前に決定的な言葉をりーちゃんから聞いてしまいます。
「私がよーちゃんと同じ事しても楽しい訳無いでしょ。よーちゃんほど子供じゃないの。」
さっと踵を返して奥へと消えていくりーちゃん。ボクの見ていた憧れのお姉さんが、どんどん遠のいていきます。
程なくして叔母さんがやって来ます。そこに残っているのは唯一の遊び相手を失った哀れなボクだけ。まだ状況を理解出来ていませんでした。
「よーちゃん、大丈夫?璃乃が何かしたの?」
叔母さんに抱かれて初めて涙が零れてきました。ボクはりーちゃんを怒らせてしまった。りーちゃんに嫌われてしまったんだ。そう認識すると涙が止まらなくなりました。
2
しばらくして、叔母さんがりーちゃんを呼びに行きます。たいそう不機嫌そうにこちらへ来るりーちゃん。目は合わせてくれません。
「一体何をしたの?よーちゃん泣いてるじゃない!」
「別に…本当の事言っただけだよ。」
「…もう、璃乃も中学生なのよ?もっと小さい子を大切に」
「結局よーちゃんを見てるのは私だけ。ちょっとでも大人が見たらいいじゃない。私だって好きな事が出来なくて困るの。」
「璃乃!待ちなさい!…もう」
りーちゃんはまた何処かへと行ってしまいました。最初からボクなんて居なかったかのように、ボクへ何もリアクションしないまま。
「ごめんね、ここ最近璃乃ったら機嫌が悪くてね?急に僕って言ってたのに私に変えるし、何かあったか聞いても別にしか言わなくてねぇ…ちょっと反抗期みたいなものなのよ、少し見守っててあげてくれる?」
「……うん。」
りーちゃんはお母さんにあたる叔母さんにも学校での話をしてなかったようなのです。つまり、あの時ボクに話してくれたのは…
今じゃもう遅い話。言ってしまったことは取り返せません。
「おばさん、りーちゃんと仲直りするにはどうしたらいいのかなぁ…?」
「大丈夫よ、心配しないで。経験豊富な私達に任せておきなさい!」
りーちゃんの居ない中、お父さん、お母さんにおじいちゃん。そして叔母さん叔父さんが今に集まって来ました。
「よし、それじゃチビ乃とデカ乃の仲直り作戦について話し合おうか。」
「はい!そんなの簡単さ、一緒に協力して何か成し遂げる!夏らしい思い出作りにもなるしね!」
「ってもなぁ、そんな軽く済むもんじゃないんじゃないか?なんといっても璃乃はちょうど反抗期入りかけさ。1回突っぱねると全く聞いてくれやしないんだよ…」
「デカ乃にしたら中々難しい時期なのかもなぁ…チビ乃とは年が離れてるしワシらに合わせるにはちと小さい。それにデカ乃とチビ乃を一緒に考えとったとこもある。よもや一緒に考えるのをやめた方がいいのもなぁ…」
「じゃ、じゃあ…ボクはりーちゃんと遊べないの…?」
「簡単に言うなら二つに一つ。チビ乃が諦めるかデカ乃が折れるか。どうだ、この際デカ乃の事は忘れてワシと遊ぶか?」
「や!ボク、りーちゃんと遊びたい…もっと、もっと沢山遊びたい!ちょっと難しくてもいいからりーちゃんと同じがいい!」
「それじゃデカ乃に折れてもらうしかないなぁ。ま、任せなさい。明日は夏祭りがあるだろう。そこを狙う。チビ乃は少し休んでおきな。ここからは大人の会議だ。」
ボクはその部屋を出て、すぐの所で座り込みました。ボクは必要とされてないのだろうか。りーちゃんだって、ボクが居なかったらもっと大人と一緒の事が出来たのかもしれない。ボクがもっと年が近かったら、りーちゃんはもっと楽しめたのかもしれない。ボクにとってりーちゃんは誰よりもカッコいい理想のお姉さん。けど、りーちゃんからしてボクは?手のかかる妹、なんだろうか。それとも…
もうやめだ。こんなの考えたってボクが何か出来る訳でも無い。持ってきた人形を取り出して、1人遊び始めました。
日が暮れる位にはすっかりボクも疲れて、その場で眠ってしまいました。
夜。目が覚めると真っ暗。台所の方から微かに声が聞こえます。もう、ご飯なのかな…
行ってみるとまだ料理の準備中。りーちゃんの姿も見えます。
「あ、佳乃起きた?今準備してるんだ、手伝ってよ。」
「まだ佳乃は料理出来ないから食器運びねぇ」
「う、うん。」
いつもの倍近くの食器を運びながら、時折ちらちらとりーちゃんの様子を伺います。いつもと変わらないようには見えますが、必ず目を合わせてくれません。
「……」
やっぱり、ボクは…
今も昔も、ボクは変わりません。一つの事しか出来ないのです。思い切り床に躓き、食器を持つ手がグラグラと揺れます。あ……落としちゃ
結果的に落とす事はありませんでした。咄嗟にりーちゃんがお皿を抑えたから。
「…ちゃんと前見て。」
「うん…ごめん…」
「……」
……………………りーちゃん…
大人に励まされ、美味しいご飯を食べ、ゆっくりとお風呂に入っても気持ちが浮かばれません。だって、いつもなら隣にはりーちゃんがいたもん。
悔しい思いを残しつつ、夜を過ごして次の朝。
なにやら騒がしい…玄関に出るとお父さんと叔父さん、そしておじいちゃんが支度をしていました。釣りに行く予定のようです。
「おはよう!佳乃も釣り、行くか?」
…どうだろう。りーちゃんと一緒に居てもりーちゃんに迷惑かけるだけ。なら、行った方がお互い…
「…うん、行く!」
「よーし!いっぱい釣るぞ…!」
その時、ガラッと扉が開きます。そこには外出する為に着替えたであろうりーちゃんが。
りーちゃんと目が合います。りーちゃんの目には敵意に近い何かを感じ取りました。
「せっかくの夏休みだ。2人仲良くしないと」
「ぼ、ボク、やっぱりいいや…」
「佳乃?おーい!」
りーちゃんの隣を駆けて、家へと戻ります。何故か分からないけど、りーちゃんと一緒にいちゃいけない気がする。ボクの願いと反対に、ボクはそうするべきだと感じました。
家に駆け込んだボク。じんわりと涙が浮かんできます。ボクはりーちゃんを追いかけたいだけなのに。りーちゃんみたいになりたいだけなのに。肝心のりーちゃんはどんどん離れていきます。なんであんな事言ったんだろう…りーちゃんの夢はりーちゃんのもの…道理です。だって、それがりーちゃんの選んだ道だから。
気付けばボクは抱き締められていました。お母さんの匂い。
「佳乃。今とっても苦しいと思うの。だけどね、りーちゃんもとっても苦しいの。佳乃が泣いてるのを見ると、りーちゃんも泣きたくなるの。佳乃がいない間、りーちゃんずっと落ち込んでたわ。りーちゃんは隠してるつもりかもしれないけれど、私達には分かるの。」
お母さんと顔が合います。
「私達が仲直りしなさいって言っても、本当に仲直りは出来ないの。佳乃も、りーちゃんも悪い事しちゃったんだよね?ちゃんと2人で話さないと意味無いの。頑張って。」
「……ぅん…ぐす…」
「お父さんにはそのまま行ってもらうように伝えておくわ。1度ゆっくりと考えなさい?そして、お昼を食べたら一緒に浴衣、用意しましょ?」
「分かった…」
お母さんにひとしきり撫でられ、ボクは部屋へと帰りました。
ボクはりーちゃんに酷い事を言ってしまった。りーちゃんの夢を、思いを無下にするような一言を。
モデルになるっていう夢はとてもいいと思う。だけどりーちゃんの個性まで奪うのは違うと思う。ボクはどう伝えたら良かったのだろう。ボクは何が伝えたかったのだろう。
りーちゃんは、何を求めているのだろう。
「佳乃、ご飯よー」
「うん!」
「スッキリした顔ね。まとまった?」
「うん。」
「そう。じゃあ後で浴衣着ましょうね?」
もう迷いません。ボクはちゃんと向き合う事にします。
浴衣を着て、お小遣いも貰って。帰って着替えたりーちゃん含めてみんなでお祭りに向かいます。やはり振り向いてくれないりーちゃんですが、ボクはめげません。
会場に着くとなにやら騒がしいです。
「え、人数が足りない…?」
「ああ、町内会の人間が風邪引きまくっててね。運営するにも人が足らん。ちょっと手ぇ貸してほしい。」
「そういう事なら分かった。悪いが大人はここで手伝いをする。悪いが2人で回ってくれないか?」
「…私も手伝う。」
「チビ乃1人にするつもりか?」
「お守りってこと?……まあ、いいけど。」
珍しく顔を顰めたおじいちゃんを見てか、りーちゃんが折れます。
「ちゃんと楽しんでこいよ!」
「……」
ここからはボクが頑張らなきゃ…
歩き始めてもボクを一瞥もせずにどんどん歩きます。
「あ、わたがし…」
「……」
「…んぅ…りーちゃん、わたがしだよ?」
「全部見てからでいい。」
「…分かった。」
「……」
た、タイミングが無い…せっかくのお祭りなのに、気分が上がりません。その後もたこ焼き、焼きそば、唐揚げに金魚すくいと色々声をかけますが、無視か否定的な意見。ちょっと心が折れそうでした。
一通り回り終えそうで、ボクもすっかり沈んでいた頃…
「お、居る所には居るもんだな。おい嬢ちゃん。好きな物買ってあげるよ、ちょっと一緒に回らねぇ?」
ガラの悪い高校生ぐらいの3人組に声をかけられました。いや、正確に言えばりーちゃんが声をかけられました。
「…いえ、従姉妹と回っているので結構です。」
「そんな事言わずにさぁ…従姉妹ちゃんも色々食べたいよな?」
「…え…と…」
「俺達お金が沢山あるからさぁ…可愛い子達にちょっとでもいい思い出作って欲しいわけ。君、良く可愛いって言われるでしょ?めっちゃ可愛いよ!」
「お金なら充分です。お世辞も結構ですから、どうぞお引き取りください。」
実際おじいちゃんから結構な額を貰ってますし、りーちゃんも断り慣れてるというか。よく声をかけられるようなのです。
だけど、りーちゃんの足は僅かに震えているのをボクだけは知っていました。
「お世辞なんかじゃないよ、君となら誰も付き合いたいって思うんじゃないの?俺達も例外じゃないけどね?まあ遠慮しなくていいからさ。」
「…結構だと何度も言ってるはずです。」
「じゃあいいや。それじゃ、花火見たいでしょ?俺達特等席取ってんだよね。結構色々買い込んでるし、そこ行こう。」
「いい加減にして下さい!嫌だと言ってるんです!」
「俺達は親切に言ってるだけだからね?君くらいの子達なら二人で歩いてたら襲われても仕方ないんだからね?危ないから俺達の安全な所に連れてってあげようとしてるの。分かる?」
「やめて!近付かないで!」
「あのさぁ…こっちもわざわざ声掛けてやってるわけ。その反応は無いんじゃないの?」
「めちゃくちゃ傷付くよそういう反応さ…いいから大人しく付いてくればいいんだから…ね?」
1歩踏み出してくる3人組。1歩下がってボクにぶつかるりーちゃん。明らかに先程よりも震えていました。ボクはそれ以上に震えていました。だけど、りーちゃんとの約束…
体を無理やり間に割り込ませ、りーちゃんの前へと出ました。
「…どうしたの?別に君には用は無いんだけどな。お母さんの所へ帰りな。」
「ボク、約束したから…」
「はぁ?」
「ボクは僕だから、弱い私のりーちゃんを守らなくちゃいけないから!」
「何言ってんだこいつ…」
「ボ、ボクが強くなくちゃ、りーちゃんは弱くなれないの!だから、ボクが…!りーちゃんを守るの!」
「よーちゃん…」
「これだから言葉を覚え始めたお子様はやなんだよ、何言ってんのか分かんねぇ。1発殴れば嫌でも分かんだろ。」
「…やっ…!」
浴衣の襟首を持ち上げられて、宙に浮きます。襟で首の締まる感覚と、改めて感じる大きい高校生に涙が出ます。
意味の無い蹴りを繰り出し、少しでも抵抗しますが力の差は絶望的。振りかぶる腕を見るしかありませんでした。
「…ってぇ!?なんだっ!」
「よーちゃん、こっち!」
いきなり腕を離して地面に降り立つボク、そして引っ張られる左腕。苦しみ悶える3人は目を抑えていました。
りーちゃんが咄嗟に砂をかけたようです。
「おいテメェら!待て!」
「クソガキ共が!」
そんな声を背に思い切り逃げます。気付けば遠く、神社の階段を登りきった境内に逃げ込んでいました。
ふう…ふう…と2人で息を整える時間だけが過ぎていきます。
「…ふう…よーちゃん。」
「…んぅ…なに?」
「…ありがと。」
「…ん。」
その時、連絡が入りました。叔父さんからでした。
「璃乃、大丈夫か!?なんか怪しい3人組が子供二人に声掛けてたって通報が…!」
「うん。無事だよ。よーちゃんが助けてくれたんだ。」
「…後で詳しい話を聞かせてくれ。無事なら良かった、安心したよ…3人組なら捕まえたから、もう大丈夫だ。」
「うん。分かった。」
通話を切ってりーちゃんは立ち上がります。
「じゃあ、わたがし…買いに行こっか。」
「…うん!」
境内を降り、階段を降りる途中。
「あの…よーちゃんごめんね。よーちゃんに酷い事しちゃった。」
「ううん、ボクもごめん。りーちゃんの夢、やめた方が良いなんて言っちゃって。」
「…うん。せっかくの夏休みなのにこんな事してちゃ勿体ないよね…」
「そうだね…あの…りーちゃん。」
「うん?」
「明日はボクと…遊んでくれる?」
「…うん。もちろん。」
「やったっ!ありがと!」
「ほんと…よーちゃんは変わらないなぁ…」
その時夜の空に大きな花が咲きました。
「きれい…」
「うん…綺麗…」
「りーちゃん。」
「…うん。」
「夢、応援してるね。」
「ありがとう…よーちゃん。」
どーん…大きな花に負けず劣らず、りーちゃんは素敵な横顔でした。きっと誰よりもカッコいい従姉妹はボクのりーちゃんです。きっとあの花よりも大きく綺麗な花を咲かせるのも、もう時間の問題なのでしょう…
「佳乃、りーちゃん…なんだ、安心した。仲直り、出来たみたいだね。」
階段の下には大人達がずらり。ボク達を探していたみたいです。
「うん。ボク、今からりーちゃんとわたがし食べるの!」
「そうだね。という事で行ってきます。」
「行ってらっしゃい。楽しんで来てね!」
なにも言わずに見送ってくれました。ボクはこの夏休み、初めて笑えました。あんなに楽しかった夏祭りは未だにありません。
……そして、日を跨いで最終日。もう、帰らなくちゃいけません。約束通り一緒に遊び尽くして満足ですが、やはりお別れは寂しいものです。
「うう…りーちゃん、また遊んでねぇ?…うう…」
「今度はもっと沢山玩具持ってくるよ、もっともっと…今年の夏休みの分も楽しもう。約束するよ。」
「うん。…約束する!」
最後に手を握って、りーちゃんは振り向かずに車に乗り込みます。そして、やがて発車して、見えなくなり……
「…あああん!うわぁぁん…!」
恒例のお別れ後の号泣が始まりました。振り向かないりーちゃんの強さと、すぐに泣いちゃうボクの弱さ。お別れするならこれぐらい極端でもいいのです。だって、ボクがりーちゃんの分まで泣くのだから。
少し時間を置いて、ボクが疲れて眠くなると両親もボクをおぶって動き出します。
「佳乃、成長したね。」
「ええ。とてもいい夏になったわね。」
眠たい頭でその言葉だけはしっかり聞き取れました。確かにボクにとって試練でもあった夏休み。
だけど、おかげで最高の夏休みの思い出にもなった…そう思いながら駅へと歩く親の背中に体を預けるのでした…
短編・お題作品など 佳乃 @h-yono
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