遺影
深川夏眠
遺影
だから嫌だった、こんな田舎。でも、ママには新しい恋人がいるからパパについて行くしかなかった。割れたガラスで胸を切り裂かれるみたい。喉の奥に血の塊ができて声を塞いでしまったよう。
紫陽花も濡れそぼつ梅雨入り早々、奇妙なイベントがあった。いわゆる冥婚の儀式。未婚の若者が突然亡くなった場合、お葬式をしないで一定の期間、異性で独身の死者が出るのを待つという。期限までに適格者の死没がなければ一般的な葬儀を執行するだけ。但し、かわいそうに、そうなったら半端者の烙印を
従姉には媒酌人によって伴侶が宛がわれた。事故で重傷を負って一度は持ち直しながら事切れた青年。そんな不幸に小躍りしただなんて、人の心があるとは思えない、祖母や伯母たち。
指示に従って伏せていた顔を上げたら、新郎新婦の遺影が並んで掲げられていた。彼の寂しげな儚い笑顔に一瞬で心を奪われた私は、これからどうやって生きていけばいいのだろう。
【了】
*2022年6月 書き下ろし。
*縦書き版はRomancer『掌編』にて。
https://romancer.voyager.co.jp/?p=116877&post_type=rmcposts
遺影 深川夏眠 @fukagawanatsumi
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