旧都の結界
次の日、旧都へ向かうために四人は朝早くからクレイズの正門前まで集まっていた。
「それで、どうやって行く? 歩いて行ってもいいが二日は潰れるぞ」
「寵愛武装を使って走って行くわ。武装中なら疲れないし、そっちの方が楽だもの」
「お前が言うならそれでいいか」
「いつの間にか仲良くなってるし」
四人が相談の結果、旧都まで寵愛武装で行く事になった。そして、四人とも寵愛武装をするとヨゾラが自分とサキの足に風を纏わせた。
「何だそれ」
興味津々にジークが質問すると、ヨゾラは再び能力を発動させた。
「あー、今日は後二人分あるのか。《
ジークとマーガレットの分も足に風を纏わせた。すると、足が地面を滑るように移動することができるようになった。
「思いっきり、踏み込めば地面に足が着くからそれで走ってね。というか、慣れるの早くない?」
「学園にも似たような事をするヤツがいたからな。そいつの動きを思い出せば簡単にできるな」
「俺は初めて見るが、これは存外に楽しいもんだな」
ヨゾラが能力の説明をするより先に二人とも早くも慣れたらしく既に自在に滑っていた。
「遊んでないで早く行くわよ」
こうして、四人はサキを先頭に旧都へと向かった。
―――――――――――――――
日が頂点になる前ほどの時間が経つと、四人は旧都の正門へとたどり着いた。しかし、赤色の透明な壁が旧都を中心に半球体状に貼られていた。
マーガレットはその壁を両刀で思いっきり斬りつけた。しかし、結果は傷一つついていなかった。
「久しぶり来たが、相変わらず分厚い壁だな。俺の防壁能力とは全然硬さが違う」
「ジークさんもこの透明な壁みたいな能力を使えるの?」
「使えるのって、基本十神の能力者は寵愛能力が成長すれば全員使えるようになるぞ?」
「え?」
ヨゾラはサキの方を見るが、微笑むばかりで何も答えなかった。
「え、何で教えてやんねーの?」
「ヨゾラならその内使えると思ったわ」
「現に使えてねーなら意味ねーだろ」
「それより、私は一旦皆とは別行動よ。その間にどっちかに教えて貰うといいわ」
「お前、面倒事はいつもアタシに投げるよな」
「適材適所よ。その方が効率がいいわ」
「はいはい、そうですか。さっさと行っちまえ」
サキは旧都への結界に近づき、旧都の結界を触ったが何も起こらなかった。
「んあ? 一体どこに行くんだ?」
「最初に言ったはずよ、旧都への観光だと」
「おい、待て!」
すると、サキの身体が結界へ入り込むと、そのまま結界の内側へと入ってしまった。
「ヨゾラの事、任せたわよ」
そう言うとサキは壊れた門をくぐると正面から都市部へと歩いて行ってしまった。
ジークも後を追おうとするが結界は侵入者を拒むばかりで、入ることすら叶わなかった。
「マーガレット。あの嬢ちゃんが、何もしないってことはあるか?」
ジークは静かに焦っていた。ジークには龍の結界を守る重要な仕事があったからだ。そして、最悪の状況まで想像をしていた。
「アイツは何かするために来たんだから、それはねーだろ。けど、悪いようにはならねーよ」
「それで、龍の封印が解かれたらどうする?」
「大丈夫だって。そこまで、心配することはねーよ」
「なぜ、そこまで言い切れる!?」
「アイツがアタシの親友だからだ」
「理由にはならねぇだろ!」
「だけど、信頼には足りる」
ジークは大きな溜め息を吐くと、その場に座り込んだ。
「何かあったら俺が責任を取ってなんとかする。そいつの鍛錬はお前がやってやれ。能力の回復のために俺は寝る」
「全く、心配症の兄貴を持つと妹は大変だよ」
ヨゾラは会話の矛先が向かないように、事前に三人から離れており、その様子をじっと眺めていた。そこへ話が終わったマーガレットがやって来た。
「お前も何か言うことはねーの?」
「サキちゃんがやる事を僕は止められないし、止めないよ」
「だから、関係ないって?」
「別にそうは言ってないよ」
「顔がそう言ってんだよ」
「それより、サキちゃんの正体を知ったんだ」
「お前の正体もな」
「珍しい。でも、サキちゃんが言っても大丈夫って判断したなら言っていいのか。じゃあ、改めて自己紹介するよ。僕の名前はノクス・メギス・アレイシン。短い間だけどよろしくね。マーガレットちゃん」
「ちゃん付けはやめろ。その呼び方はあんまり、好きじゃねーんだ」
「それは失礼。じゃあ、マーガレットさん。僕も疲れたし、武装も出来ないから休んでていい?」
「駄目に決まってんだろ。寵愛武装無しでも鍛錬はできるんだ。サボる理由にはならねーよ」
「逃げようかな」
「逃げてもいいけど、捕まったらもっと厳しくするからな」
「結局、マーガレットちゃんに付き合わされるのか」
「ちゃん付けはやめろって言ってんだろ」
そして、ヨゾラはマーガレットの元で大人しく基礎運動に励むのであった。
死した令嬢の呪われた運命曲 漆山ネミル @nemil
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