午前3時のティータイム

暗闇坂九死郎

午前3時のティータイム

 ――午前3時。


 珈琲の妖精と紅茶の妖精はテーブルを挟んで、それぞれ珈琲と紅茶を飲んで寛いでいる。


「なんかーアタシって周りから軽く見られてるような気がするのよねェ」

 愚痴をこぼしたのは紅茶の妖精。茶髪ロングヘアーの若いOLのような姿をしている。


「存在感がないというか、主役向きじゃないというか」


「いやいや、そんなことないでしょう」

 そう答えるのは珈琲の妖精。こちらは立派な口髭を蓄えた老紳士だ。


「珈琲より紅茶の方が、よっぽどオシャレな飲み物ですよ」


「そうは言いますけど、アタシってすぐ名前が消されちゃうし。この間うっかり牛乳と混じったときは『ミルクティー』だなんて呼ばれちゃって。アタシの名前ティー(茶)しか残ってないじゃない」


「まァまァ」


「珈琲さんは牛乳が入っても『コーヒー牛乳』もしくは『カフェオレ』で、ちゃんと名前が残ってるじゃないですか。やっぱりアタシって牛乳以下の日陰の飲み物なのよ」


「それは違いますよ。人々はティー(茶)といえばそれ即ち紅茶という認識を持っているというだけのことです。『ティータイム』と聞いて、緑茶や烏龍茶を連想する人がおりますか?『ティーカップ』に入れるのに相応しいのはやはり紅茶でしょう。紅茶こそがお茶の中の王様という証です」


「……そうかなァ?」

「そうですとも」


 何時の間にやら夜は明けて、人間たちが活動を始めるようになる。


「お~いお茶」


「ほら紅茶さん、お呼びですよ」

「……うん」


 紅茶の妖精は珈琲の妖精に背中を押されて、人間たちの方へと駆け出した。


 ――2分後。


「お呼びでないとさ」


                                   【了】

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午前3時のティータイム 暗闇坂九死郎 @kurayamizaka

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