第3話 犯人はお前だったのか!

 


「夕ご飯はちきんと食べなさい。あと、大輝だいき君来てるから会ってきたら?」


「大輝?」


 大輝は私の幼なじみで、近所のイタリアンビストロの息子だ。

 親同士も仲が良く、たまに新作メニューの試作品を我が家に持ってきてくれる。

 私達は子どもの頃からふざけて、冗談ばかり言い合っていた気楽な関係。

 中学に入学し、私より一回り小さかった大輝の背が急に伸びた頃から、少し気になる存在になりつつあるのは誰にも内緒だ。


 部屋から飛び出し、玄関へと軽い足取りで駆けつける。


「よっ、大輝。部活おつ!」


「おー、めい。今日もみっちり練習だったわ」


 小麦色どころか麦チョコ色に日焼けしている彼の姿に、トクンと胸が高鳴る。

 野球部のユニフォーム姿もかっこいい。

 大輝は平たい四角い箱を大切そうに抱えている。


「ひょっとして新しいメニューの試作品? 箱からしてピザでしょ」


「うん、当たり。ピザだよ」


「やったー! ピザ大好き! ついでにピザ持ってきてくれる大輝も大好き! あ、ピザ持ってきてくれるときだけなんだからねっ」


 両手を上げてはしゃぐ私に、大輝はぷっと笑う。


「お前の分なんて、ねぇよ。食い意地ばっかりはってるともっと太るぞ」


 普段は気にならない大輝のふざけた冗談が、胸に突き刺さる。

 私って、やっぱり恋愛対象外だよね。

 

「う……、そんな……」


 気が付くと、ほろりと涙が零れる。

 大輝はオロオロと慌てる。


「な、なんだよ! 突然どうしたんだよ、めいらしくないなぁ」


「だ、だって、もっと太るって……。最近太って気にしてたのに!」


「からかってごめん。別に太ったって痩せたってめいはめいだろ! どんなめいだって俺は……」


「え?」


「何でもねぇよ!」


 ぷいと横を向く大輝。

 顔が赤く見えた気がするは、きっと夕日ののせいだろう。 


「ところでさ、このピザは犬用のピザなんだ。ティクアウトにして、ペットも楽しめるようにしたんだ。ぽめちゃに食べさせてくれ。じゃあまた学校でな!」


 大輝が帰り、もらったピザの箱を見つめる。


「犬用ピザかぁ。確かに、飼い主だけ外出楽しんで、ペットはいつも通りのご飯じゃ嫉妬しちゃうかもね」


 独り言をつぶやき、くすっと笑う。

 

 リビングからお姉ちゃんが真っ青な顔をしてすっ飛んでくる。


「めい、大変! なんか静かだと思ったら、ぽめちゃが家にも庭にもいないの! 散歩から無事に一緒に帰ってきたんだよね?」


「当たり前じゃん! 夕方散歩に連れて行って、帰ってからは疲れて寝ちゃって」


「その後体重が増えたって叫んでたよね。その時から、姿を見てないけど……まさか、目を離したすきに窓から逃げちゃったとか?」


 すっと血の気が引く。

 ぽめちゃがいない生活なんて、考えられない。


「どうする? まずは警察? それとも近所探す? 貼り紙で捜索願かな」


 お姉ちゃんはうろたえながらも、冷静に解決方法を探す。


 犬用ピザの箱をぱかりと開けると、蓋の裏にぽめちゃの絵がマジックで書いてある。

 大輝がよく描いてくれたぽめちゃだ。


「ぽめちゃ……戻ってきて……」


 がっくりとしゃがみ込んで、目に大粒の涙が浮かべると、背中のあたりにもぞもぞという感覚。


「あっ! めいの後ろ!」


 お姉ちゃんが私を指差すと、着ていたフードから、ぽめちゃの頭がぴょこりと飛び出す。


「きゃおーん!」


 ぽめちゃは犬用ピザにダイブし、嬉しそうにパクパクと尻尾を振りながら食べている。


「お散歩から帰ってきてから、めいのフードに入って寝ちゃってたのね!」


 お姉ちゃんは目を丸くして頭を抱える。


「何事もなくて良かった」


 私はほっと胸をなで下ろし、上機嫌なぽめちゃの背中を撫でる。

 そして、脳内に花火が打ち上げられた如くのひらめきが過る。

 駆け足で体重計に乗ると、昨日と同じ体重だ。


「三キロ太った事件の犯人は、ぽめちゃだ!」


 ハフハフと無邪気に食べているぽめちゃを見て、様々な安心とともに唐揚げをお腹いっぱい食べようと決意した。

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恋する乙女のダイエット事件簿 うぱ子 @upaupa0810

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