第2話 犯人は揚げ物だ!

 お父さんに呼ばれて、お姉ちゃんと私はリビングへと駆け込む。

 心躍るような香ばしい香りが漂っている。

 ブルーとホワイトのストライプ柄のエプロン姿のお父さん。

 揚げ物をして暑かったのか、スキンヘッドの頭からはじんわりと汗がわき出ている。

 満面の笑みで大皿を運ぶ。


「今日はみんな大好きな若鶏の唐揚げだ。気合いを入れて、フライドポテトも揚げちゃったぞ。さぁ、たくさん食べてくれ!」


 ごろんと存在感のある、黄金色の唐揚げ。

 お父さんの唐揚げは、たっぷりのニンニクとしょうががもみ込んでいるのでパンチがあり、上にブラックペッパーがかかっている。


「わー、からあげうれしいっ!」


 喜ぶ私に、お姉ちゃんは困った顔をする。


「お父さん。作ってくれたの嬉しいし、からあげ大好きなんだけど……。一昨日はトンカツ、昨日はかにクリームコロッケだったよね」


「ああ、最近揚げ物にはまってね。それにみんな揚げ物は大好きだから、2人ともたくさん食べてくれるのが嬉しくてね。それに、お父さんのビールも進むだろ」


 ニコニコと天真爛漫てんしんらんまんな笑顔のお父さん。  

 幸せそうに、冷蔵庫から缶ビールを取り出す。

 お姉ちゃんは更に困った顔をして何か言おうとすると、スーツ姿に黒のハイヒールがぴしっと決まっているお母さんが帰ってくる。

 仕事終わりなのに、全く疲れを感じさせない。


「ただいま。お父さん、今日も作ってくれてありがとう。あら、今日も……また揚げ物なの! そして、今日もビールなのね!」

  

 お母さんの眉がぴくりと動く。

 

「いやぁ、揚げ物はみんな大好きだろ。できたてのからあげにビールは欠かせないし……。ははは……」


「お父さん、最近お腹にお肉が乗っかってきたでしょ。今年の健康診断もメタボギリギリの結果だったし。好きなもの食べたい気持ちは分かるけど、食生活気にしないと身体に良くないわ!」


 お母さんに凄まれ、ライオンに遭遇したシマウマのごとく縮こまるお父さん。

 机に置かれたビールも、水滴がわき出てお父さんと一緒に叱られているみたいだ。

 

「お父さんは今日はビール禁止よ!」


 さっとビールをしまうお母さん。


「唐揚げにはビールなのに……」


 しょんぼりと泣きそうなお父さん。


「お母さん、お父さんかわいそうだよ」


 私がお父さんの味方をするが、お母さんは容赦ない。


「めい。あなたもいくら成長期だからって、最近食べすぎよ。……ひょっとして、ちょっと太った?」


 ぎくり。

 ひょっとして、私が3キロ太った原因って、お父さんの作る揚げ物料理……?


「お、お父さんなんて大嫌い! なんでそんなに揚げ物作るの上手いの! もう夕ご飯いらないもん!」 


「めい! そんな! お父さんショックだ!」


 泣き叫ぶお父さんの声をBGMに、駆け足で部屋に入る。

 ぐーきゅるるる。

 部屋に空しく腹の虫が鳴く音が響く。


 唐揚げ食べたい。

 でも食べたら太る。

 一個だけならいいかな。 

 脳内が唐揚げ一色に染まる。

 もう唐揚げしか考えられない。

 でも食べたら、また太っちゃう。


 ジレンマに駆られながら悶々もんもんと悩んでいると、ドアがガチャリと開き、お母さんがやってくる。

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