第2話
シャッター通り商店街。
魔法屋の目覚まし時計。
売れ行き好調。
目覚めを促す?
いいえ。
眠りを誘う。
ベル。
ベッドに入るあなた。
目覚まし時計をセットしましょう。
心地良いベルが、あなたを夢の世界へ。
連れて行きます。
魔法屋の目覚まし時計。
案内する夢。
あなたの望みの夢。
見せてくれます。
将来の夢?
社長さん?
政治家さん?
スポーツ選手?
いえいえ…。
目覚まし時計の見せる夢。
あの人の、彼女?
お嫁さん?
そうです。
魔法屋の目覚まし時計。
案内をする夢は、あなたの愛しいあの人との、ひと時。
あなたの初恋を応援する目覚まし時計。
子供の時の終わりを告げる目覚まし時計。
恋のシミュレーション。
毎夜、毎夜の初恋のあの人との。
デ・イ・ト。
今のあなたには、手の届かない。
告白する勇気が、少しだけ。
足りない。
恋する乙女の必需品。
時には、男子だって買っちゃいます。
夢の中で、告白する勇気を育ててくれる。
恋する乙女の目覚まし時計。
魔法屋の人気商品。
私は、買ってみました。
高校生の私を悩ます。
受験。
と、
あいつ。
会えば、ふたりは、お喋りなのに。
何故か、あいつに、本当の思い。
話せません。
誰にも言えない。
あいつにも言えない。
仲の良いふたりの私の秘密。
ただの友達のふりで、過ぎていく高校生活。
ふたりの距離が変わることに、臆病な私。
卒業式までのカウントダウン。
本当は、焦っていました。
魔法屋の目覚まし時計。
私の勇気を目覚めさせて。
でも…。
私は、臆病者。
勇気なんて、心の中の何処にあるのでしょうか?
私の勇気は、迷子中?
それとも、何処かに落としてしまった?
机の引き出し?
制服のポケット?
「おーい。私の勇気やーい。そろそろ出番ですヨ。出てきて欲しいの」
目覚まし時計。
困っているのかしら?
告白の勇気。
恋する気持ち、打ち明ける準備。
出来ましたのベル。
鳴りません。
私の恋は、失恋までの一方通行?
打ち明けては、いけないのかしら。
心の奥の秘密の小箱に閉じ込めて。
涙の海に、沈めましょう。
恋とは、無縁の高校生活。
真面目な受験生。
一流大学、エリートコース。
私の前に広がる、バラ色の未来。
満たされる人生。
に…。
足りないピース。
あいつの姿が、足りない。
それは…。
私の本当の笑顔。
私の本当の喜び。
失った長い時を過ごす。
きっと、辛い人生。
鳴れ!
鳴れ!
ベルよ、鳴れ!
勇気なんて要らない。
欲しいのは、あいつの笑顔。
あいつとの時間。
私だけを見てくれる熱い視線。
目覚まし時計。
応援してね。
卒業までのカウントダウン。
あいつも、わたしも、始まっているの。
私は、カバンに目覚まし時計を押し込むと、その日、登校しました。
ベルは、鳴らないけど、勇気は、出来なかったけど、小箱にも入れる事が、出来なくなるけど、あいつに打ち明けます。
失恋消しゴム。
失恋の準備。
抜かりありません。
いつもより、少しだけ早い登校。
きっと誰もいない教室。
心の準備。
失恋の準備。
しておきましょう。
開く教室のドア。
意外な姿を発見。
あいつの姿を発見。
準備の出来ていない私の胸の高鳴り。
あいつに、聞かれてしまうかも。
カバンの中の目覚まし時計に、触れて。
『お願い。私に勇気を』
その時、ベルの音。
勇気を身につけたと、ベルの音。
私のカバンから。
と、
あいつのカバンから。
何故?
ダメ、ダメ。
余計な事を考えると、告白出来なくなる。
目を閉じて。
息を吸って。
あいつに。
聞こえるように。
間違えないように。
大きな声で。
「あなたが、好きよ」
「おまえが、好きだ」
あれ?
あいつ。
今、何と?
私の事を…。
私は、カバンから目覚まし時計を取り出して。
あいつも、カバンから目覚まし時計を取り出して。
いつものふたりは、あんなにお喋りなのに。
今は、お互い赤い顔。
無口なふたりの。
熱い、熱い、思い。
何故か、こぼれる私の涙。
オロオロしながら、抱きしめるあいつの大きい手。
シャツを濡らす、私の涙。
足音が、聞こえるまでの5分間。
ふたりは、そのまま。
それから…。
ふたりの時計は、たくさんの時を刻み。
私の苗字は、あいつと一緒に、成りました。
私とあいつのリビングルーム。
ふたつの目覚まし時計。
今は、隣同士で、同じ部屋。
おやすみなさい。
シャッター通りの雑貨屋さん @ramia294
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