第3話 異世界行って『秒』で死ぬ——完結——

 ——ガシャン


「巨大な身体に、下顎から伸びる牙……二本の角!? だと!?」


 鬼?

 なのか?


 ガラスを割って、入って来たかと思えば俺を睨んでいる。


 これも、あの駄女神の仕業か?


『違うぞよ! 私は知らないぞよ!』


 言い掛かりか……嘘を付いても仕方の無い事だ。この状況、可能性があるとしたら一つだけだな。


『何ぞよ?』


「光から出でる物は影——也。影魔法、光幻想斬りシャドウナイツ——」


 グゥォオオオオオ!


 ——予想通り。

 

 鬼らしき存在は、エフェクトを撒き散らして霧散した。


『おぉ! 凄いぞよ! 優一は、いつの間に魔法を——』


「消えろ、駄女神。神堕乱斬りヘブンズバースト——」


『どうひてぞよ!? 私が……』


 駄女神の声の出所も、斬り伏せた。

 これが全ての答えだ。


 駄女神は『前払い——』と、言った。

 駄女神は『今度は直ぐ死ぬな——』と、言った。


 この二つから導き出される答えは、俺は現世に帰っては来ていないという事だ。

 思い返せば、妹があんなに俺に懐いてくるのは可笑しい。

 俺の知っている母さんは、あんなにも友好的で愛情深い人では無い。何より羞恥心から、下着姿で歩き回るなど絶対に出来ない人だ。


 家族と最後に会話を交わしたのはいつだろう。連絡事項は、家の中に居てもSNSでやり取りしていた。

 妹が『お兄ちゃん——』なんて。そんな風に呼んでいたのは、小学校に上がるまで位の事で。父に至っては、顔さえもよく覚えていない。同じ家で暮らしている筈なのに。


 ————バチンッ!


 俺を縛り上げる何かが弾けた。


「貴様! 人間では無いのか!?」


「いいえ、お兄様。コイツは人間の臭い人間の匂いがします! 耐えれません!」


 そうか、俺はコイツらに囚われて幻想の中に閉じ込められていたのか。異世界に行った所までが真実で、その後は夢か幻か幻想か。その中に囚われていたんだな。


「貴様! 誰にこの場所を聞いた!」


「半分正解で半分不正解だ——」


「何だと!?」


「どうして、そんなに嫌う人間を殺さない? いいや、違うね。お前達は俺を殺そうとした。しかし、死ななかった。仕方が無いからこうやって情報を仕入れようとしたが、見た事も無い光景を見て驚きでもしたか?」


「何を人間の分際で!」


 ——シュコン!


 シュルシュルシュルシュル。


 エルフらしき男が放った矢は、俺の頭を突き抜けて壁に刺さる。

 矢尻や壁には、俺の血液が付着しているが、粉砕した筈の頭は、巻き戻す様に再生して、俺はそれを俯瞰的に眺めている。


 不死の力か、巻き戻しの力か、或いは超再生の力か。


 俺が死んで異世界に来て、即死したのは事実だろう。


 そして、今も生物的には死を迎えた。


 女神は言った。


『犯人と動機を当てたらチート能力をあげる——』と。『ぞよ』が、付いていたかまでは覚えていない。


 『少しだけ——』と、言っていた気もする。


 だとすると。


 これは完全な不死では無く、回数に制限があるのか、或いは時間に制限があるのか。


 何かの制約があるに違いない。


「俺は神の使いだ——」


 嘘は言っていない。

 そんなもんだ。


「貴様が神の——」


「訳あって人間の見た目をしているが、本来はもっと高尚な存在だ。聞いた事あるだろ? お前達、エルフなら」


「兄様、もしかして——」


「しかし、エルフの名を人間如きが口にすれば、頭を腫らして吹き飛ぶハズ……しかし、そんな……でも……」


 悩んでる悩んでる。

 良かったエルフ発言で死ななくて。


 そして、俺の言った事は全くの嘘では無いが、真実でも無い。


 可能性と現実を交錯させて、真実に辿り着く様にしているだけだ。


「もしかして、貴方は——」


 良いぞ。貴様が貴方に変わった。

 ここでもう一押し。


「俺を殺す事は叶わない!」


「もももももも申し訳ございませんでした!」

「申し訳無いですぅ!」


 二人揃って土下座。

 『ぞよ』の効果は絶大だ。


 コイツらの知る知識と、結果が交錯して、俺を実在する何かと融合させてくれた。


 これで、不死的な何かに制限があっても、コイツらは先に起きた事象で、満足してくれるに違いない。


「だったら、まずは茶でも出すぞよ!」


「かかかかかかしこまりました!」

「こしこまりですぅぅぅうう!」



——————

————

——


——完——




こうして、俺の異世界生活が幕を開けた。

しかし、この続きはまたの機会に。


どうして、俺がチート能力に目覚めたのか。

それは冒頭の九行で決まっていたのだ。

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異世界行って『秒』で死ぬ シロトクロ@カクヨムコン10準備中 @shirokumo776

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