第2話 ネタバレ▶︎スイーツの犯人は駄女神です!

 目覚ましの音——

 妹と母の早朝の舌戦——

 鳥の鳴き声——

 心地良い布団の温もり——


 よし、今日はもう一度寝よう。


「お兄ちゃん! 寝るな!」


「スヤァ——……」


「だ! か! ら! 寝るな!」


 布団から弾き出されて、床の冷たさに触れる。優葉ゆらぎは朝から、何やら母と喧嘩をして、溜まった不満ストレスを俺にぶつけに来たらしい。


 先日俺を殺しそうになった事など、気にもしていない。


 喧嘩の原因は、冷蔵庫のコンビニスイーツを『食べた、食べてない』論争。


 知らん。

 その不満を俺にぶつけるな。


「お兄ちゃーん!」


「よしよし、俺が帰りにコンビニスイーツ買ってやるから、機嫌直して学校に行って来い」


「本当に?」


「あぁ……『パトラッシュ』に誓おう」


「やっっっ……——たぁ!」


 どうして、俺が妹にコンビニスイーツを買ってやらなければならないんだ。

 でも、妹に抱きつかれて頭をスリスリされる時の匂いって嫌じゃあ無いんだよなぁ。


 ちなみに『パトラッシュ』とは、俺の全財産を蓄えている『豚の貯金箱』の事だ。

 裏切れば、が妹に破壊される事になりかねない。


「よし、寝よう!」


「寝るな!」


 今度は、母か——


 布団の暖かさが心地良い、霜月だというのに、相変わらず大手衣料品製造小売業者の快適な部屋着に甘んじて、パンツ一枚で家中を徘徊している。


「今日は行きたくない気分なんだ……」


「そんな事はどうでも良い! 私の『秋の味覚盛り沢山、フランスの超一流シェフ——ハブラシ・ム・シバー監修モンブラン』食べたの優一ゆういちなの!?」


「何だよ、その虫歯一直線みたいなスイーツ……」


「答えて!」


もう既に泣いている。


 ——犯人は判明している。

 火を見るよりも明らかだ。


 なぁ、駄女神。


『どうひて、分かったぞよ!?』


 食べながら口を開くな。

 アレ以来、ちょくちょく顕現しては俺の周りで迷惑を振り撒く。


 あんた、ひょっとして邪神か?


『ちが、違うぞよ! 邪神な分けないぞよ? 愛と美の女神——』


 それ以上は口を開かなくて良い。

 母さんに、どうやって説明するんだよ。


 ——ったく。


「母さん……ごめん。実は、俺、病気なんだ」


「やっぱり優一が——って、病気?」


「そうなんだ。アレ以来、意識が無いまま行動する事があって、今も覚えて無いのに、口の中が甘いんだ」


「ッッ! 救急車はイチイチキュー……」


「ちょ、ま、母さん!?」


「病院行かなきゃ!」


 病院よりも、この邪神を祓ってくれる、神社とかの方が良いと思うなんて言えない。


 ——そして、検査を受けて、当然の様に異常なしと診断されたのは夕方付近になっての事だった。


 邪神の所為せいで、一日が無駄に過ぎて行った。


『何度も何度も誰が邪神ぞよ! 本当の邪神だったら、異世界死に戻りループ最弱物語にしたり。絶対にざまぁ出来ない、悪役令嬢に転生させるぞよ! 私は良い女神ぞよ』


 はいはい。


『何ぞよ! その怠惰な返事わぁぁぁ!』


 かしこまり。


「ぐぬぬぬぬぬゆ……——」


「ッ出た!」


「女神を夏の風物詩の様に言うなぞよ!」


「突然に顕現するからだろ!」


「そんな事よりも、どうして秒で妹が犯人だと気付いたぞよ? 前後の記憶は消しておいたぞよ? そろそろ、ネタバレを希望するぞよ」


「簡単な事だ—— 誰でも気付く事だ」


「誰でもって……女神が気付かないのに、人間が気付くぞよ?」


「…………駄女神……だから、な」


「ぐぬぬぬぬぬぬぬゆ……」


「何かがいつもと違う様に感じていた。そこに来て斜め四十五度——わかるだろ?」


「わーかーらーないーぞーよーーー!」


「神が駄々を捏ねるな、捏ねくり回すな!」


「もういいぞよ! 困っても助けてやらないぞよ!」


 ——消えた。


 本当に竜巻の様な奴だな。


 しかし、このままでは被害が増えるばかりだ。どうして俺が、こんな面倒な事をしなければならないんだ。


 ——って、あれ?

 さっきから人の気配がしない。

 病院の待合室付近で、あれだけ騒いでいたのに誰も来ないし、何かがおかしい。


——つづく——

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