異世界行って『秒』で死ぬ
シロトクロ@カクヨムコン10準備中
第1話 斜め四十五度の物語
晴れた空——
看板から落ちる雫——
頬に触れる風——
興奮している猫——
妹は寝坊して機嫌が悪く——
そんな些細な事が今日は気になる——
何かがいつもと違う様に感じて——
それでも少し嬉しい事があって——
だから、そんなことは気にも留めなかった。
世界が暗転したかと思えば、真っ白な部屋に導かれて自称女神と遭遇する。
「残念ね。もっと長生き出来ると思ったのだけれど、十五歳で死んじゃうなんて」
「死んだ?」
「そう。急性心筋梗塞——南無阿弥陀ぞよ」
学校の行事が楽しいと思った事など秒も無い。両親は共働きで、妹は学校では有名な才女で美人で、それでいて運動神経抜群の超絶チート生徒。
いつも妹と比較される兄。
楽しい分けが無い。
運動会も学祭も、妹目当てに両親は来るから、俺の写真など一枚も無い。
「ところで駄女神様は仏教なんです?」
「はぁあん? 誰が駄目神だって? 決めつけって良くないぞよ? 決まったぞよ、君は超絶凡人の現在そのままで異世界行きぞよ」
「ぞよ——って、異世界? 本当に? 嫌なんだけど」
「煩い! つべこべ言わずに行ってくるぞよ!」
「ちょ、せめて言語は共有でお願いします! 美人な女神様!」
「今……何と言ったぞよ?」
「超絶美人と申し上げましたぁあ!」
「分かったぞよ。君も少しは分かってる様だからヒントをやるぞよ」
「ヒント……ですか?」
「君は実は殺されたぞよ。犯人と動機を言い当てたら、ご褒美をあげるぞよ」
えっ?
俺、殺されたの?
これ、異世界ファンタジーかと思ったら、5分で読めるミステリー的なアレ?
「ぞよー!」
ドテン————
鳥の鳴き声——
木々の騒めき——
土の香り——
グルルルルルルルルルルル——
黒と赤の縞模様。
白熱電球の様に淡く光る瞳の
そして——
全裸で転がる俺。
武器は無い——
「こっちだ! ヤルバル虎が逃げたぞ!」
直後——
「キャーーーー人間の変態の人間!」
「メアロ! どうした!」
「兄様! こんなところに人間が!」
「貴様! どうやって侵入した!」
意味不明——
しかし、一目でここがファンタジーの世界だと理解した。
巨大な獣も去ることながら、突然に現れた兄妹の耳はトンガっていて、巨大な樹木を飛び移る筋力は人のそれでは無いし、構える弓からは魔力的な何かが迸っていて。
ガスッ————
そんな事を考えていたら、背中に獣から爪をくらい、激痛に耐え切れずに地面に臥した。
「気持ち悪い!」
「——と、妹が言っている。残念だが死んでくれ」
意味不明——
開幕四十五度の角度から放たれた、兄の矢で物語は終わった。
「——おや、さっきぶりぞよ。犯人は分かったぞよ?」
「忘れてた。というか、それどころでは無かった」
「だったら、このまま意味消失として終わるぞよ」
「ま、待ってくれ。答えなら出てる!」
「ほう、犯人が分かったぞよ?」
「犯人は妹で、動機は俺が邪魔だった」
そうだ、俺はずっと妹の脚を引っ張っていた。『
そして、あの日寝坊したのも、俺が遅くまでゲームをしていて、煩くて寝れなかったのだろう。大事な試験の当日だというのに。
「妹は殺すつもりなんて、無かったんだと思う。腹が立って背中を叩いたら、寝不足で栄養不良で不摂生が溜まっていた身体に異変が起きただけ! 事故だよ!」
「正解ぞよ。流石は我が見込んだ男ぞよ——」
って、言いながら。
女神が俺に濃厚なキスをした。
「何をするんですか!?」
「前払いぞよ。しかし、どうして気付いたぞよ?」
「物語は開幕四十五度で終わっていたんだよ」
「意味不明ぞよ。まぁ良い。今度は直ぐ死ぬなぞよ——」
今度は景色が暗転して、知らない天井が視界に入った。
「お兄ちゃん! 良かったよぉ。目が覚めたよぉ。ごめんなさいぃぃ」
「俺如きに謝るな。そうか、異世界じゃあ無くて、生き返らせてくれるのか。そうか——」
「お兄ちゃん?」
救急車のサイレンが響き渡る。
どうやら俺はまだ移送中らしい。
本当に物語は五分で終わっていた。
「気にするな、夢でもみていた様だ」
「うん」
『夢じゃないぞよ。次、死んだら本当に異世界に行って貰うから、それまで精々兄妹で仲良くやるのぞよ』
無理矢理『ぞよ——』を、付けなくても良いのに。やっぱり駄女神様だ。
——つづく——
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