第14話

【花】を始末した後。

 ジェシー達は貨物室に行き、他の【花】を調べた。

【花】は十輪全て揃っていた。

 つまり、この中のどれかにAは触れ、寄生されたというわけだ。

 その後、ジェシーはDとともにそれぞれの部屋で軟禁となった。

 寄生されているかもしれないからだ。

 けれど、それは杞憂に終わる。

 ジェシーとDは、規定時間を過ぎても体調不良を起こすことは無かったのだった。


 残りの二週間は穏やかに過ぎた。

 商会に提出予定の報告書も、この間に抜かりなく作成してある。

 そして、帰港してすぐにジェシーとハルは冒険者ギルドへと向かった。

 ギルド伝で、報告書と納品する【花】を商会へと提出してもらうためだ。

【花】は厳重に封印を施されている。

 何も無ければ、このまま、商会へと渡ることだろう。

 ジェシー達は報酬を受け取ると、きっかり半分に分けた。


「でも、大丈夫なんでしょうか?

 どこかでまた【花】が誰かに寄生したり、暴れたりしたら……」


「んー、たぶん大丈夫だと思う。

 今回の【アドヴェンス商会】の件な、商会自体が、たぶん領分を犯すってことに気づいてないから」


「領分??

 誰の、いえ、どこのですか??」


 ジェシーは短く答える。


「農業ギルド」


 農業ギルドという組織は、未知の植物の輸入等に関しても厳しく目を光らせている。

 他所から入ってきた動植物のせいで、畑にも影響が出るからだ。

 しかし、これはあまり知られていない。

 周知徹底を心がけてはいるものの、中々進まないのである。

 その理由は色々だ。

 そう、本当に理由については多すぎるので、今回は割愛させてもらう。


「もう十年近く関わりはないが、報告くらいはしとく義務が、俺にはあるからな」


 つまり、情報をリーク、チクるのである。


「そのための証拠もある」


 言って、余分に取ってきた【花】のことを口にした。

 一輪は、【農業ギルド】に提出する予定だ。

 話を聞いたハルが、首を傾げる。


「もう一輪はどうするんです?」


 花は二輪ある。

 うち一輪が農業ギルド用なら、もう一輪はどうするつもりなのか。


「……兄貴への手土産」


「はい??」


「一番上の兄貴には、なんだかんだ迷惑かけっぱなしだから。

 たまには良いと思ってな。

 兄貴はこういうの扱うの得意だし」


「えっと、大丈夫、なんですか??」


 寄生されたり、暴れたりと中々扱いが大変そうだ。

 危険性だけで言うなら、すぐにでも処分した方がいいだろう。


「大丈夫」


 確信をもって、ジェシーは断言した。




【それから数ヶ月後】


 新しいアジト、その庭にてなにやら種を撒いているジェシーの姿があった。

 ただし、撒いている場所はプランターだ。


「今度はどんな野菜を育てるんですか?」


 農家出身だからか、ジェシーは食べる分だけの野菜をこうして育てているのだ。

 ハルとしても、その恩恵にあずかれるので、興味津々で聞いたのである。


「あー、これ、野菜じゃないんだ」


「?」


「ほら、何ヶ月か前に人に寄生する【花】の採取依頼受けただろ?」


「あー、はいはい、受けましたね」


 ちなみに、あの商会はその後、農業ギルドから圧力がかかり手広くやっていた商売の一部を縮小、あるいは潰す結果となり、今は底辺へと転がり落ちつつある。


「んで、実家の一番上の兄貴がな。

 あの【花】の品種改良に成功したらしくてさ。

 その種をくれたんだ。

 防犯にちょうどいいから植えようと思ってさ」


「防犯??」


 植物を育てるのと、防犯がいまいち結びつかずハルはますます不思議そうにする。


「そ、泥棒対策。

 トラバサミが禁止になって手に入り難くなったから、代わりにって兄貴が【花】を品種改良したトラップ作ってくれたんだよ」


 ジェシーが種を撒き終える。

 そして、水をやり、じいっとプランターを見つめる。

 すぐに、芽が出てきた。

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【採取】そして誰も居なくなりそうなやつ【依頼】 ぺぱーみんと @dydlove

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