chapter3 お世話になりました
雀の鳴く音。
「ん……」
陽ざしが彼女に降り注ぐ。
「あ……おはよ。君、大丈夫?」
地べたで寝て体を痛めている主人公。
「あの……昨日はごめん! 動揺しちゃって、ついあんなことを」
「気にしてないから大丈夫……そう言ってもらえると助かる」
「後、昨日のことなんだけど……忘れてくれないかな? てか、忘れて!」
「何でって、気持ちが爆発したとはいえ寝込みを利用してあんなことしてるなんて、まるで私がヘンタイ女みたいじゃん」
「勘違いしないで欲しいんだけど、誰にでもあんなことしてるわけじゃないから! 君だから変な気持ちになったの」
「何でそんな顔してるのよ? 私が誰を好きなんだって? ……え、君ここまで聞いといて何で分からないの?」
「えー……マジか。えぇ……冗談だとしたら余計たち悪いよ君」
「はぁ……一回しか言わないから耳貸して」
右耳を向ける主人公。
「私が好きなのはき・み・だ・よ!」
数秒の沈黙の後、驚く主人公。
「って何でそんなに驚いてんのよ! 大体、好きでもない男の人の家に泊まらないし、無防備な恰好でうろつかないし、寝込み襲ってキスなんてしないしぃ!」
「全く……女の子にここまで言わせるのマジでありえないし……ふ、普通! 昨日の時点で気づくでしょ! 知能ミジンコなの君は?!」
思いっきり抱き着く彼女。
「バカすぎでしょ君。もう怒ったぞー」
「怒ったように見えないって? こんだけ恥かかされたんだから、責任取らないと一生許してあげないから」
頷いて抱きしめる主人公。
「へへ……素直でよろしい。まあ、断ったら包丁で刺しちゃうつもりだったけど」
「冗談だよ。ふふっ……でも本当に嬉しい」
「早速、今日から初デートだねー。服何着ていこうかな? って、まずは家の鍵探さないと! 君も手伝ってね」
「よーし! 今日は忙しいぞ! 朝ごはん私が作るよ。こう見えても卵焼き作るの得意なんだから!」
「ああ、君はゆっくりしててよ。今日泊めてくれたお礼だからさ」
「でも、恥かかされた分、今日のデート費用は全部君持ちだけどねー」
「給料日前だから勘弁してくれって? だーめ、断ったら今日の夜、君のこと枯れるまで襲ってやるんだから」
「それはむしろご褒美なんじゃないかって? ふふっ……だったら身をもって体験させてあげよっか?」
気迫に押されて首を横にふる主人公。
「うん賢明な判断だね。人間素直が一番だと思うよ」
「さーて、じゃあ君は私の作る朝食を楽しみにしててね。先に顔洗ってきなよ」
「少しの間でいいからベッドで寝かせて欲しい……あーその節はごめんなさい。できたら起こしてあげるから寝ててもいいよ」
「でも、その前に……」
キス顔待ちの彼女。
「何やってるって? せっかく恋仲になれたんだから、おはようのキスってやつをやってみたいなーっと。私こういうの憧れあったし」
照れながら軽いキスを交わす主人公。
「ふふーん。何だか恋人通り越して新婚さんみたいだね? ん? どうしたの? そんなにもじもじして」
彼女を押し倒す主人公。
「ひゃん?! ど、どうしたの君? って、何か私、君の変なスイッチ入れちゃった……?」
「ちょ、ちょっと!? こういうことは夜に……も、もう! しかたないんだから……おいで」
行為に及ぼうとした二人だったが、卵の焦げた匂いで慌てふためき、ボヤ騒ぎが起こったのはのちのいい思い出話になった。
恋人前夜~君の事が大好きな彼女との甘い一夜 是宮ナト @i-yui017
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