3話 乱入者
◆◆◆
記憶事変以来、毎夜見る夢はずっと同じ。
「魔王様。決闘お見事でした。あの者は如何いたしましょう」
「奴はもう二度と槍を振るえぬ。捨て置いて構わん」
「……は」
「何か言いたそうな顔だな」
「……畏れながら申し上げます。かの者はゼリオス。確実に命を奪っておくべきと愚考いたします」
「却下する。今あの程度の小物に構っている暇はない」
「――は。仰せのままに」
夢は唯、その光景を繰り返す。
あの日の屈辱を拙者は決して忘れない。
絶対に。
絶対に、絶対に、絶対に忘れない。忘れてなるものか。
「最後に1つだけ言っておく。聞くが良い、槍使い。貴様は―――――――――」
……でも。おかしいな。
最後に何を言われたのか。何故か、それだけは思い出せないんだ。
◇◇◇
――取った。
突き出した先には無防備な脳天。穂先は過たず命へと突き進んでいる。
揺るがぬ確信があった。
“前回”と“今回”、積み重ねてきた修練が絶対の勝利を吠えたてていた。
万感の想いが溢れ出す。色々な感情が混ざり合ってグチャグチャで、正直良く分からない。
でも、嬉しい。それだけは間違いないはず。そうだ、そのはずだ。
なのに。なのに、どうして。どうして拙者は泣いているんだろう。
分からない。分からないけれど。
でも、ただ1つハッキリと。顔を隠していて良かったと、そんな事を思った。
そして――
「はいはい、そこまでェ。どうどう、双方落ち着いてくださいってなァ」
「…っ!?」
必殺の一撃の瞬間、穂先と魔王の間に割り込む影。
どうして。結界は作動していたはず。乱入者などありえない。
いや、そんな事どうでもいい! 止まらない! このままでは刺し貫いてしまう!
「……へェ」
そして、乱入者は。
「ケケケ。なかなか胸躍る痛みじゃねェかよォ」
青い肌に灰色の髪、漆黒の眼と金の瞳の女は。
その腕に深々と槍が突き刺ささりながら、奇妙な口調でケタケタと。壊れたように笑っていた。
「アイツの槍を引き継いでるだけの事はあるじゃねェの。感心、感心」
……っ!
この女、魔王軍四天王ウルヴァナ…!
ならば躊躇は要らない。このまま魔王ごと穿ち殺すのみ!
「ケケケ。悪いなァ。ここはオレに出番を譲ってくれねェか」
けれど。その女の言葉の直後、拙者の槍はピクリとも動かなくなってしまった。
まるで、それは――
「槍が重く…? いえ、まさか……」
槍そのものが、この女を刺し貫くことを拒んでいる。そんな馬鹿げた事を大真面目に考える。
そうとしか考えられない程に、今この槍には“意思”を感じるのだ。
「忘れてくれてねェようで何よりだァ。んじゃァ、こっからはオレの出番って事でェ」
目まぐるしく変わる状況に、拙者は想像以上に混乱していたらしい。
今更になって気付く。ウルヴァナの刺された左手の反対。右手には漆黒の布のようなモノでグルグル巻きにされたチェイシャンが抱えられている。
……不味い。一気に形勢があちらに傾いた。向こうには四天王2人と魔王。こちら側は拙者1人。しかも人質も取られた。
加えて最悪な事に、拙者の得物はピクリとも動かなくなっている。
深く考えなくとも分かる。勝ち目は完全に消えた。人質になるくらいなら喉を切り裂いて――
「…っ」
ズキリズキリ、と。頭の奥が鈍く痛む。
『聞くが良い、槍使い。貴様は―――――――――』
――否、いけない。ここで死んでは駄目だ。それだけは絶対にいけない。
ウルヴァナが再び魔王の配下となった可能性、あの結界を破れた理由、槍に起きた現象の詳細。この短い刹那の中に不可解な事が多すぎた。せめて少しでも情報を集めて教会に伝えなければならない。……そのはずだ。
それに向こうはチェイシャンを捕えてしまっている。彼女は序列第三位。七位の拙者などとは比べるのも烏滸がましいほど価値ある存在。
ゼリオスの序列は単純な戦闘力ではない。教会にとって、ヒトにとって、その者がどれだけ有用かを示したモノが序列。拙者がどうなったとしても、彼女だけは解放しなければならない。……そのはずだ。
そう。だから拙者はまだ死ねない。だから拙者は…………む? 拙者は以前から、こんな思考をしていただろうか?
「良い感じに戦力も集まってるみたいだしィ、単刀直入に言うぜェ」
……どうでもいいか。
今はそれより、少しでも魔王一行の情報を集める事に専念すべき。
思考を切り替える。一言一句逃さぬようウルヴァナの言葉に集中し、そして――
「パンパカパーン! 明後日この世界は滅びますゥ! はい拍手ゥ!」
――え?
俺「以外」の全員が「2周目」は流石に鬼畜仕様すぎる。 夢泉 創字 @tomoe2222
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。俺「以外」の全員が「2周目」は流石に鬼畜仕様すぎる。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます