第182話 (閑話)隙というものは誰にでもある
俺達がこの大学に入って四年生になり四か月が過ぎた。前期試験も終わり、いよいよ大学生最後の夏休みだ。
本音を言えば少しの間で良いから一人で居たい時も有る。決して早苗に対して思う事は何も無い。
だけど、やはり朝から部屋に来て午後十時位までずっと一緒に居ると一人になりたい時もある。
玲子さんとは、瞳からのお願いも有ったが早苗の事を考えると出来る事では無かった。俺が何もしなくても、玲子さんが何かしてくる。それが早苗にとっての不安。そんな不安を俺の大切な早苗に持たす訳には行かない。
「達也、もう夏休みだよね。どこ行こうか?」
「そうだな。でも何も考えていない」
「もう、じゃあ私が決めるよ」
「それはいいけど実家に帰らなくていいのか。随分帰っていないだろう?」
「それは大丈夫よ。だって達也と一緒に居るんだもの。それに私の両親と達也の両親は色々話しているみたいだから」
いつそんな事聞いているんだ。俺は全然実家に連絡なんてしてないぞ。
「じゃあ、海に行こうか。達也の所の西伊豆にある堂ヶ島の別荘。あそこなら二人でのんびりできるでしょ」
「そうだな。瞳達が使うかもしれないけど、聞けば大丈夫だろう」
「瞳ちゃんは立花家の別荘があるじゃない。使わないんじゃないの?」
「それもそうか。一応父さんに聞いてみるよ」
涼子はどうするんだろうか。彼女とは大学の事についてはいつも一緒だが、流石に夏休みは実家に帰るのかな?後で聞いてみるか。加奈子さんは仕事で忙しいだろう。
早苗が部屋に帰った午後十時。俺は涼子に連絡しようとしてスマホを持った所でコールが来た。誰だ?画面を見ると玲子さんからだ。
『玲子です』
『はい』
『達也さん、夏休みはどうされますか?』
『今の所早苗と一緒に堂ヶ島の別荘に行く事になっています』
『そうですか。それでは、別の日に私と一緒に思井沢に行きませんか。達也さんも知っている立花家の別荘です』
『それは…』
『桐谷さんの事を気にしているんですか。兄と瞳ちゃんも一緒に行くと言えば大丈夫では無いですか?』
全然大丈夫じゃないと思うんだけど。
『それはちょっと』
『では三頭さんの名前を利用しては、彼女と一緒というなら桐谷さんも仕方ないと思うでしょう』
『流石にそれは出来ません』
玲子さん、何てこと考えるんだ。駄目な事位分かっているだろうに。
『達也さん、今からそちらに行っていいですか?』
『えっ、もう午後十時過ぎですよ。駄目ですよ』
『もうマンションの下に居ます。開けて下さい』
え、ええーっ。なんて大胆な。
部屋に付いている防犯カメラで入口を確認すると確かに玲子さんがいた。このまま門前払いは出来ない。仕方ないか。
俺は入口のドアを解除すると彼女が入って来た。後は俺の所に来るだけだ。カメラで廊下を見ていると玲子さんが歩いて来た。
仕方なしにドアを開けると
「達也さん」
うわっ!
いきなり抱き着かれた。
「会いたかったです。とても会いたかったです」
「玲子さん、この前まで大学では一緒に…」
「それとこれとは違います」
玲子さんが体から離れない。仕方なく彼女の肩を持って押すと更に強引後ろに腕を回して離れない様にしている。
「玲子さん、分かりましたから一度離れて下さい」
「嫌です。離れたらそのまま私を帰すつもりでしょう。明日の朝までずっとこのままでもいいです」
参ったなあ。仕方ない。
「返さないですから一度離れて下さい」
「ほんとに?」
「本当です」
玲子さんは一度離れると
「達也さん、酷いです。早苗さんばかり大事にして。私も貴方の親戚です。もっと一緒に居たいです。もっと大事にして下さい」
「しかし…」
「では達也さん、今から私の部屋に来て下さい」
「えっ?!」
「ここでは出来ません。私の匂いが残ります。あの人は敏感で嫉妬深い人。必ず気付くはずです。だから」
「でも…」
「しかしもでももありません。さっ、行きましょう」
「それはちょっと」
「私を一人で帰すつもりですか。夏の夜は怖いです」
「来る時は一人だったでしょう?」
「いえ、セキュリティを呼びました。もう返しています」
何という事を。
「それとも、私がここにずっと居ますか。私の香水は彼女とは違います。ずっと居れば残りますよ。ベッドにダイブしますよ。転がりますよ」
なんて事考えるんだ。
「分かりました。送って行きます」
なんとか部屋に入れて帰って来よう。
しかし、俺が自分の部屋に帰れたのは、朝の午前五時だった。疲れた!
俺は帰って直ぐにシャワーを浴びた。石鹸で良く汗を流すと直ぐにベッドに入った。
ガチャ。
「達也、起きている…訳無いか。まだ午前六時だもんね」
私は達也の部屋に入り彼がまだ寝ている事を確認すると下着だけになって彼が掛けているタオルケットに入った。
うん?石鹸の匂い。いつもこの時間なら達也の匂いなのに。それに昨日私とした後、シャワー入ったとしても…。まさか!
「達也、起きて。起きて達也」
体を思い切り揺すると
「な、なんだ」
「達也、朝シャワー浴びた?」
「ああ、汗かいたから。ごめん、お休み」
おかしいな。エアコンは掛かっているし。なんで汗かいたんだろう。でもいいや。私も達也の傍にくっ付いて、また寝てしまった。
ふふふっ、達也さんにしっかりとして貰った。久しぶりに思い切り感じてしまった。眠さなんて全くなかった。
達也さんの匂いがこのベッドに一杯残っている。嬉しい。この方法は結構使えるかも。夏の旅行も行きたいけど、こうすれば早苗さんは分からない。おやすみなさい、達也さん。
午前九時。まだ眠い目を擦るといつもの肌の感覚が隣にあった。えっ!目を開けている。
「達也、起きたの。ぐっすり眠っていたね。昨日は私が帰った後、直ぐに寝たんじゃないの?」
「ああ、少し法学書を読んでいたら遅くなってしまって」
「ふーん。どの本。リビングにも机にもないけど」
いかん、簡単な出まかせ過ぎた。
「ああ、もう本棚に戻してある」
「そう、ねえ、今日買い物行きたい。海に行くでしょ。昨日帰った後、去年の水着付けて見たら、また合わなくなっていて」
「…そ、そうなの?」
「見て、ほら。このブラだって、去年よりワンサイズ大きのよ。達也が大切にしてくれるから」
「そ、そっか」
そんなに女性の胸って成長する物なのか?
「不思議そうな顔している。見てみる」
「い、いや」
流石に今は、体力温存したい。
「ふふっ、遠慮しなくていいのに」
タオルケットを外していきなり俺の体に乗って来るとブラを外した。
「ねっ」
ブフッ。
俺の顔にそのまま乗っけて来た。
「わ、分かった買い物行こう」
「そうね。夜にしようか」
「あ、ああ」
俺、いつまで体が持つんだろう?心配になって来た。夏はこれからなのに。
俺達は、その後、朝食を食べてから早苗の水着を買いに街に出た。東京は、実家のある街と違い、相当に色々なショップがある。八月はこれからだというのに、何故か夏もののバーゲンは終わりの時期なっている。どうも俺の感覚と違うようだ。
早苗に付き合って、買い物をした後、食事をしてからマンションに戻った。マンションの入口に着くと
「あっ、達也、桐谷さん」
「どうしたんだ。涼子、一杯に荷物持っているけど?」
「うん、夏休みの間は実家に帰る事にした」
「そうか、気を付けてな」
「達也は帰らないの?」
「分からない。帰った連絡するよ」
「ほんと!待っているから。じゃあ、行くから」
俺が涼子の後姿を見ていると早苗が俺の腕を引っ張った。チラッと彼女の顔を見ると
「達也、今のどういう意味?」
「何が?」
「帰ったら連絡するよって?」
「えっ、いけなかったか」
「だってぇ」
「早苗、考え過ぎだ。涼子は自分をわきまえている。大丈夫だ」
「分かっているけど」
俺はそれから父さんに堂ヶ島の別荘の事を聞いた。父さん達も行くらしいが、別の日ならば問題ないと言って来た。
だけど、偶には帰ってこいと言われて…。仕方なく家に帰る事にしたけど、日帰りだからという事で早苗は付いてこなかった。
実家には少し顔を出しただけで長居はしなかった。父さんは仕事で居なく、母さんも午後から用事が有るという事だったから。
夜は父さんも早く帰って来るから泊まったらと言われたが、泊る支度もしてこなかったので帰る事にした。
直ぐに帰ろうと思ったけど、涼子に連絡を取ってみる事にした。ちょうど家にいるという事で彼女の家のある駅に傍の喫茶店で待ち合わせる事になった。
喫茶店に行くと既に涼子は待っていた。
「達也、嬉しい。こんなに早く来てくれるなんて」
「偶々、親から顔見せに来いと言われたけど、母さんしか居なく。だから約束通り涼子に連絡したんだ」
「ふふっ、嬉しい。ねえ、家に来ない。午後六時まで誰も帰ってこないんだ」
「だけど…」
「いいでしょ」
俺は、少し遅くなったが、午後八時にはマンションの俺の部屋に戻った。
ふふっ、嬉しい。達也の匂い。達也の腕の中。何年ぶりだろう。一杯してくれた。そして忘れていた感覚が一杯蘇った。これでまた我慢出来る。ありがとう達也。
――――――
閑話です。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
寝取られた元カノ?、知らない許嫁、陽キャな幼馴染も皆要らない。俺の望みは平穏な高校生活だ! @kana_01
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