第181話 涼子の就職先
私、本宮涼子。もうこの大学に入って四年になった。住んでいる所は、大好きな達也と同じマンションで彼の一階下。桐谷さんの隣の部屋。家賃は勿論、光熱費も何も掛からない。
信じられない位の厚遇だ。本当は、大学生の間にチャンスが有ればもう一度、彼ともっと親密な関係になりたかった。
でも立花さんが婚約者候補になったり桐谷さんが正妻候補になったり、三頭さんが内妻のポジになったりと彼を取り巻く女性環境は凄く厚く、とても私が近付く事なんて出来なかった。
今は桐谷さんが正妻の筆頭だけど立花さんが割込もうとしている。そこに四条院さんが棚ぼたを狙っているという構図。
私は、彼の子供さえいれば後は自分が育てるつもりでいる。最初は教員免許を取って子供を育てながら自立するつもりでいた。
だから最初は教育学部を考えていたけど、達也達が法学部を受けるという事で、私も一緒に受けた。理由は少しでも彼の傍にいたいから。
その願いは叶って受ける講義も入るサークルもゼミも皆同じで居られた。大学に行くのも帰るのもいつも一緒。これは私にとって望外の事だった。
でもやはり達也と二人きりの時間は欲しかった。しかし、ここまでして貰いながらこれ以上を望むのは論外。
だから、休みの日は一人で買い物や勉強で過ごした。一杯声を掛けられたけど全部断った。当たり前の話。
そんな私がもう四年生になって大分時間が過ぎた。普通なら三年次の時に就活を行うのが普通だけど、達也との今後の事があり、私は勝手に決められない。
でも流石に心配になって来る。だから達也に連絡した。最初はメッセージで。
俺のスマホが震えている。誰だ?画面を見ると涼子だ。早苗は今キッチンにいる。スマホを開くと
『達也、話したいことがある』
『分かった。今日午後十時過ぎでいいか。俺から連絡する』
『うん』
それだけでやり取りを終わらせた。今頃は桐谷さんが彼の部屋にいるはず。あの人は結構嫉妬深い。
最初からではない。今までの彼の環境が彼女をそうさせてしまったのだ。だから彼に迷惑が掛からない様に短い会話にした。これで大丈夫だったかな?
早苗は俺との食事が終わった後、いつもの事をして自分の部屋に戻った。まだ午後十時前だ。
シャワーを浴びてさっぱりしてリビングに戻ると午後十時二十分。もう早苗も戻ってこないだろうと思うと涼子にスマホで連絡した。
『涼子、俺だ。話があるって言っていたけど?』
『うん。達也、私の勤め先の事なんだけど…』
そうか、もう四年生になってだいぶ経つ。何も連絡していなかったな。
『ごめん、涼子連絡しなくて。来週初めにもう一度連絡するけどいいかな?』
『うん、それでいいけど。そろそろ知っておきたい。両親からも何回か心配の連絡が有って』
『そうか、必ず来週初めに連絡する』
『待っている。ねえ、無理と分かっているんだけど、二時間でもいい、一緒に居れない?』
『涼子、大学を卒業すれば色々と周りも変る。もうちょっと待て』
『うん』
確かに最近色々有り過ぎて涼子の就職の事は忘れていた。加奈子さんに連絡するか。でも会う時間有るかな?
俺は日曜日。まだ玲子さんとの事ははっきりさせていないので、一応フリーな日だ。加奈子さんが休みか分からないが、連絡をしてみた。
直ぐにつながった。
『もしもし、立石です』
『達也!嬉しいわ。あなたから連絡くれるなんて』
『話したいことがあるのですが』
『話?丁度良いわ。日曜は午後三時から空いている。私の前のマンションに行くから来て』
『分かりました』
忙しい人だ。日曜日だというのに仕事が入っているのか。俺も同じ事になるんだろうな。
そして日曜日。朝から早苗が押し掛けて来ていた
「早苗、朝からどうした?」
「別に。私が達也の傍に居てはいけないの?」
「そんな事ないが。いきなりだなと思って」
「だって、立花さんが押し掛けてくる可能性もあるでしょう。だから私が居るの」
そういう事か。
「でも、あの人とは何も決まっていないし、俺も会うつもりはない」
「達也に会うつもりは無くても向こうはあるでしょ。だから」
玲子さんか。四年間で諦めさせるつもりだったのにまさかの瞳と洋二さんの婚約。今日も瞳は洋二さんに会いに行って居る。
お陰で遠くなりかけていた玲子さんとの関係が一気に高校時代と同じ位、いやもっと近くなってしまった。
このまま何も無く瞳の依頼は流れてくれないものだろうか。
「達也。今日は何をする予定だったの?」
「えっ!特に…。いや午後三時前には用事が有って出かける」
「何の用事?」
「ちょっとした用事だ」
「まさか立花さんと会うなんて事ないでしょうね?」
「それは絶対にない」
「じゃあ、何よ」
仕方ない、言うか。
「加奈子さんと会う」
「えっ!だってあの人は今忙しんじゃないの?」
「この前偶々連絡が有って。こっちに来るというので」
行かしたくない。行かしたくない。行かしたくない。なんで行くのよ!
「達也、行かないといけないの?私より彼女のが大事なの?」
なんで話がそっちになるんだ。
「今更何を言っているんだ。俺は早苗が一番大事だっていつも言っているだろう。それに証明だっていつもしているだろう」
「駄目、足らない全然証明が足らない」
昨日だってしているのに。いつから早苗はこんなに好きになってしまったんだ。
「早苗。じゃあ今日帰って来たら」
早苗が、俺の顔にぐっと近づいて
「絶対だからね」
「分かったから。うぉ」
いきなりキスされた。
お昼を一緒に食べた後、早苗を午後二時半には帰して着替えた後、加奈子さんのマンションに向かった。
マンションの前に着くとセキュリティだろうか、マンションの要所要所に立っている。前以上に厳しい警護だ。俺はそれを無視して
もう来ているか分からないが部屋番号を押すとドアが開いた。中ドアも開いた。多分カメラで見ているんだろう。三番目のドアも開いて、彼女の部屋の前に行くと俺がインターフォンを押す前にドアが開いた。
「達也!」
いきなり抱き着かれた。彼女を支えると
「達也、会いたかった。ねっ、直ぐに」
「話が」
「そんな事後で良い」
あっという間に午後五時になってしまった。ベッドの上で久しぶりに見る加奈子さんの綺麗な体を見ながら
「あの、加奈子さん。話の事ですけど」
「何?」
「涼子の就職先の事なんですけど」
「達也、無粋な事聞くのね。まあいいわ。その件はもう決めてある。年明けでも良いかなと思ったのだけど。
国内にある三頭グループの一つの会社の法務部に入る事になっている。彼女の家からは十分に通勤可能な所よ。
収入は、東大法学部を考慮して初年度からそれなりの給料にする様にしている。子供が出来ても辞めさせない様に指示も出してあるわ。時間が有ったら、してあげなさい。でも私が最初よ」
やはりこの人には敵わないな。
「ありがとうございます」
「だったら…」
午後七時に加奈子さんと久しぶりに一緒に夕食を摂った。
「達也、お父様からのサポートで何とかしているけど、一人ではとても出来ないわ。大学卒業したら直ぐに手伝ってね」
「しかし、俺には立石産業が」
「その位こなしなさい。世の中にはいくつもの会社を経営している人が一杯いるわ。あなたも優秀な人材を早く手元に置く様にするのよ。
経営者は一線で仕事をする人間では無いわ。立石グループが進む方向性をあなたがはっきり示してあげるのよ。それがあなたの仕事」
「分かりました」
確かに加奈子さんいう事は分かっているつもりだが、それを実践するのは容易ではない。
「達也。それと立花家の令嬢の件だけど、話をつけれるの?」
流石に知っているのか。
「それが」
「そうね。正妻さんの事を考えると簡単ではないわね。それに妹の瞳ちゃんが立花物産の跡取りと婚約した事も大きいわね。自分で出来る。それとも私が手伝ってあげようか?」
「どうやって?」
「ふふふっ、聞きたいの?」
俺の体に抱き着いて来た。
結局自分の部屋に帰ったのは、午後十一時を過ぎていた。スマホを見ると早苗から何回か連絡が入っている。
しかし、加奈子さん。あんな事考えているなんて。俺には想像もつかない。やはりあの立場に居るからこそ、考えられる事なんだろうか。
世界中にある三頭グループの産業の構図の中にそれに関わる企業がいて、それをグループ全体の発展の為に動かす。そこにいる人間は例え、企業のトップで会っても一つの駒でしかない。
ましてその企業の社長の娘など駒の中の駒でしかないのだろう。
「立花物産と非常に強力な関係にある会社の跡取りが独り者でいる。頭は良いけどまだ結婚できていない。歳は今年三十になる。丁度良いわ」
「それって?」
「そうよ。それなりの家に生まれた人は、背負わなければいけない運命を持っている。それに逆らう事は出来ないわ。彼女も同じ。達也が、どうしても立花の令嬢と話をつけれないなら、今の話で片付けましょうか?」
俺は、この事を聞いた時、頭の理解が追い付かなかった。ただ、俺の矜持として、それだけは避けたかった。理由は分からない。
遅くなったが早苗に連絡した。流石に今日は遅いで来週の日曜日一日会う事で勘弁して貰った。
――――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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