第180話 四年になっても残る問題
加奈子さんが卒業した。同時に三頭グループの頂点に立つ三頭家の総帥としての立場を継いだ。
父親の源次郎さんは、加奈子さんの実質的なサポートに回る。そして祖父の源之進さんは、完全な隠居になるみたいだ。俺から見るととてもそう思えない眼光と威厳があるんだけど。
俺は、大学を出たら父親の立石産業を継ぐって言っても直ぐに切り替わるわけではない。社長秘書という形で父親の仕事を覚えて行く。
それと共に、今加奈子さんの父源次郎さんがやっている加奈子さんのサポートを徐々に俺にシフトしていくという訳だ。
想像しただけでも俺がそれをこなせるか疑問に思ってしまう。これでは前に加奈子さんが言っていた家に帰るなんてのは一週間か二週間に一度位になりそうだ。
加奈子さんとは一ヶ月位は会う事が出来ない様だ。不思議なもので会えなければ会えないで寂しくも感じる。
でもそれによって空いた日曜日は当然自由かと思ったらマンションで隣の部屋に住む瞳が珍しく俺の部屋にやって来た。
最近は大学と玲子さんの兄の洋二さんとばかり会っていると思っていたのだが。
「お兄ちゃん、ちょっと話があるんだけど」
「何だ?」
最近一段と綺麗になったと思うのは身内贔屓だろうか。
「玲子さん、玲子お姉さんの事なんだけど」
まさか玲子さん、妹を懐柔して来たのか?
「…………」
「お兄ちゃんの正妻が早苗お姉ちゃんになると言うのは、皆の知る所だけど、玲子お姉ちゃんも私の夫になる洋二さんの妹さん。形としては私の妹になる。
だからその大切な妹に少し位時間を割いてあげられないかな?別に正妻になろうなんて思っている訳でも無いし」
玲子さん、どういう風に瞳に吹き込んだんだ?
「いくら早苗お姉ちゃんがお兄ちゃんの妻になる人だからって、偶には知合いの人、いえ私の大切な妹と二人で会ってはいけないなんて理由は無いわ」
「しかし…」
確かに理屈はそうだが。
「ねっ、毎日とか言っている訳じゃない。出来れば毎週会ってあげて欲しいけど、月に一、二回でもいい。会ってあげて。私と洋二さんの為にも」
玲子さん、こう来たか。
「しかし、早苗が」
「そんなに早苗お姉ちゃんが気になるなら私が言ってあげても良いわよ」
「いや、それは事をこじらせる」
「だったらお願いね。私これから洋二さんと会うの。この事は彼にも伝えるから守ってね」
それだけ言うと俺の部屋から出て行った。しかし、困ったぞ、ただでさえ早苗は玲子さんが俺に近付くのを毛嫌いしている。
もしこれをそのまま言ったら、早苗と瞳の間が拗れかねない。妻と嫁ぐとはいえ、妹の間が悪くなるのは立石家と立花家の関係にも影響がでる。
しかし、玲子さん、妹を取り込むとは。
一週間ほど考えたが、どうにもいい考えが思い浮かばない。仕方なしに早苗に正直に話した。
「達也、もし玲子さんと会って、したら私はあの女の首を絞めるわ。冗談じゃないわ。瞳ちゃんを使って、達也と会う画策をするなんて薄汚い」
「待て待て、玲子さんと会ったからって、そっちに話に飛躍させる事は無いだろう」
「達也はそういう所だけ甘いのよ。今までの関係を考えてもみてよ。あの女が達也と会って、何もしないであなたを帰すと思う?
下手すればお腹に赤ちゃんを作ってそれをネタに脅してくるかもしれない」
「それは無いだろう」
「どうして無いと言えるのよ。その根拠は?彼女の兄が瞳ちゃんと婚約した事によって立花物産の将来は安泰したわ。あの人は自由の身。それを考えれば、いとも簡単にしてもおかしくないわ。今妊娠しても卒業は出来る」
「…………」
確かに早苗の言う通りだ。洋二さんが瞳と婚約した事によって玲子さんの自由度は増した。俺とした時に出来る可能性は限りなく大きい。それにあれを付けていても百パーセントではない。細工されたおしまいだ。
「じゃあ、早苗。玲子さんと会った時、絶対にしないで帰ってくる。これでどうだ」
「どうやってしてない事が分かるのよ。した後を隠す事なんていくらでも出来るでしょ。そもそもあの人と会う事を前提に話さないでよ」
確かに早苗の言うと通りだ。困ったな。良い考えだと思ったのだが。
「しかし瞳は、もう俺と玲子さんが毎月一、二度会う事になるって返事をしたらしいんだ」
「それって、達也が中途半端に瞳ちゃんに言い負かされたからでしょう」
確かに。瞳は洋二さんと婚約してから、前よりもはっきりと自分の意見を言う様になって来た。
「ねえ、瞳ちゃんが言って来たのよね。瞳ちゃんは立花物産社長の妻、私は達也のお嫁さんで立石産業社長の妻。
この二人が仲悪くなる事は避けたいわ。でも達也が玲子さんと会うのは許せない。それに大学卒業したらどうするのよ。私と達也は結婚するのよ。どうみても在学中に仕掛けてくるとしか考えられない」
「早苗、何とか妥協出来ないのか?」
「出来ないから問題になっているんじゃない」
これは前より拗れて来たぞ。玲子さんのお願いだけだったら断っているだけで済んだのに。玲子さん時間が無いからってこう来るとは。
――――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます