第179話 玲子さんの憂鬱

 随分 間が空いてしまいました。この作品は尻切れトンボにする事はないので、引き続きお読み頂ければ幸いです。


――――――


 今俺は、加奈子さんの部屋に来ている。日曜日は朝からこの人と一日を過ごす事にしているからだ。高校時代から決めた事。


「達也、最近、立花さんが本妻の椅子を狙って必死みたいね?」

「そんな事は無いと思います。俺の妻は早苗と決めていますから」

「そうね。そして内縁とはいえ、もう一人の妻は私よ」

「はい」

「ふふっ、分かっているならいいわ。でも私も一人の女の子よ。私と会っている時は、例え桐谷さんでもあなたの頭から忘れて、私だけの達也になってね」

「…………」


「ふふっ、いいわ」

 加奈子さんは俺の体の上に乗ると自分の体をゆっくりと下げていった。



 加奈子さんの部屋に来たのは午前九時だ。一緒に朝食を摂って、そしてベッドに入った。それからもう三時間が過ぎている。


「達也、私も来年は卒業だわ。そうすれば、お父様の仕事を継がないといけない。そうなると早々にこうして毎週会う事も難しくなる。でもあなたが大学を卒業すれば、私の仕事を手伝う事になるから、それまでの辛抱ね」

「しかし、俺は大学を卒業したら立石産業を継がないといけない。早々加奈子さんと会う訳には…」

「そんな事ないわ。あなたなら出来るわよ。会社の仕事を終わらせた後は、私の所に帰って来ればいいだけだから」

「いや、それは出来ないです。早苗の傍に帰ります」

「男は一度仕事で外に出たら帰るのは週末位よ。週中は私の傍に帰ってね」

「しかし…」

「達也、あなたが大学を卒業した段階で正式に私とあなたは夫婦として内縁の儀を上げる。これは三頭家の大切な事なの。もちろん、その後、桐谷さんと結婚式を挙げるのは構わないわ。彼女が望む素敵な結婚式をしてあげて」

「…………」


 普通は正妻と結婚式を挙げてからでは無いのか。それとも俺の常識、いや加奈子さんの常識がそれなのか?




 私、立花玲子。今日は日曜日。達也さんは、三頭さんと会っている。あの人は高校時代から日曜日は達也と会う事にしている。


 確かに三頭家と立石家は古くから繋がりが有り、達也さんと彼女の立場も分かっている。来年には彼女は卒業し、三頭家の後を継ぐ。そして達也さんが卒業した時に内縁の儀を挙げると聞いている。


 私も一時は達也さんの婚約者になる為に努力したけど桐谷さんにその座を奪われた。でも兄が達也さんの妹瞳ちゃんと婚約した事で、立花家も立石家と深いつながりを持つことになる。

 ならば私と達也さんが、もっと深いつながりを持っても良い筈。でも今の所何の進展もない。

 どんなに達也さんにもっと関係を深めたい、もっと会いたいと言って聞き入れてくれない。

 達也さんに抱かれたのは、兄と瞳ちゃんが婚約した日以来。私も女の子です。もっと達也さんとしたいです。

せっかくのチャンスが巡って来ているのに、何もせずに手の平からこのチャンスを零れ落とす訳には行きません。


 達也さんの傍にはいつも桐谷さんがいる。朝も昼もそして多分夜も。これは達也さんがそうして欲しい訳では無く、桐谷さんがそうしたいから。

 だとすれば、桐谷さんを何らかの理由で達也さんから離れさせればいい。ずうっとでなくていい。少しの間だけでも彼と離れてくれていれば。でもどうやって。





 俺は日曜日の夜遅く自分の部屋に帰った。明日は授業がないが、だからと言って加奈子さんの部屋に泊る訳にはいかない。それをすれば歯止めが掛らなくなるからだ。


 

 月曜日の朝、ベッドの上でゆっくりと目覚めると今日は授業が無い所為か、俺の横に柔らかくて暖かい人肌がある。


 まだ寝ているようだ。高校二年の時、いきなり近付いて来た時は何だと思ったけど、まさか俺の婚約者になるとはあの時は想像できなかった。


 正直、いつ見えても可愛い寝顔だ。髪の毛をすく様に触っていると


 むにゃむにゃ。うーん。た・つ・や。むにゃー。


 どんな夢を見ているんだろうか。俺は起こさない様にベッドを抜け出すとトイレに行った。

 戻って来るとまだ寝ている。時計を見るとまだ午前七時だ。少し早かったか。静かにベッドに横になると


「うーん。あっ、達也起きてたの?」

「ああ、今起きた所だ」

「達也、朝のエネルギー補充」

「分かった」


 良く分からないが、朝になると俺に抱き着いて来る。そして五分位すると

「ありがと。あとは朝の挨拶」


そう言って目を閉じた。少しだけ唇を付けてから離すと


「達也起きようか?」

「ああ、でもちょっと早いような」

「じゃあ、する?」

「それはちょっと」

 流石に昨日で疲れている。


「あーっ、あの女で疲れたっていうの。酷いよー!」

「そんな事はないけど」

「じゃあ、して」


 参った、起きるのが午前十時になってしまった。最近鍛錬していないのが原因か?体力が持たない。

「ふふっ、達也、一回だけだったね。でもいいよ。じゃあ、起きて朝ごはん作るね」


 ベッドから起き上がる素早く着替えて洗面所に行ってしまった。


 早苗は、これからもこれでいいが、玲子さんの事、何とかしないと。しかし解決の糸口が無い。彼女が俺を諦めてくれるなんて出来ないだろうし。

 まさか、あの手は使えないだろう。そんな事したら早苗の激怒する顔が思い浮かぶ。


 


 今日は授業の無い日。明日香は朝から正人さんと会うと言って出かけている。私は一人。でも桐谷さんは、今、達也さんと一緒にいる。本当は私だって彼の傍にずっといたい。

 もうすぐ四年生。そうすれば授業も少なくなる。単位も年次毎しっかりと取っている。それは、私が達也さんと会う時間が少なくなるという事。何としてもそれは避けたい。


 あっ、四年になるという事は三頭さんが卒業して事業を継ぐはず。そうすれば日曜日はフリーになる。そうです、これを上手く利用すれば私も毎週達也さんと一緒に居れるかも知れない。


――――――


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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