ケース1001番、評価の時間

星評価と彼の運命




 雲嵐ユンランの髪は真っ白になり、顔には皺か傷なのかわからないほど深い溝ができている。


 王の装束だろうか。金糸と赤糸で織った衣装が重そうだ。

 いつの間にか、すっかり老けていた。かなりの老齢に見えるが、過酷な世界で老けるのも早かったのかもしれない。


 ──さあ、ここからが本業です。

 ──こっから本業だって。

 ──神のお仕事本番です。



******************



 いきなりだ。

 

 オレは例のお役所的な、あるいは、図書館のようなと表現すればいいのか。天井まで書棚が届く部屋にいた。


 目の前には、『ウエストは力を入れて抱きしめたら折れるくらい細く、小さなお尻ときゅっとしまった足首、白くてすっと伸びたうなじ』妖精ナンバー1が立っている。


「さあ、評価のお時間です」

「いや、それじゃあ、個人的な感想でしかないんだろう。そんな評価でいいのか。郵便局の年功序列だって、もう少しましな基準で客観的評価システムもあったぞ。配達ミス年間何件以内とか、クレームなしとかな」

「この評価、実際に彼を評価するのではありません。彼の人生を見て、次に、どんな転生先を選んだらいいのか決定してほしいのです」

「転生を?」

「彼が、この先、天国へと向かうか、あるいは地獄に向かうかという最終結末に向けた評価です。ボードを見てください。こちらが評価表です」


いきなり目の前にボードがあらわれた。

そこには、5段階の星評価が書かれている。


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 ☆5個・・・天国

 ☆4個・・・転生上クラス

 ☆3個・・・転生中クラス

 ☆2個・・・転生下クラス

 ☆1個・・・地獄


 ☆0個・・・その他コース


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 オレはこの幼稚なボードを見て、飲んでもない茶を吹きだした気分。ブッハーーって感じだ。


「なあ、笑っていいか。爆笑するぞ。これは神の仕事なんだろう。なんじゃあ、この子ども騙しのような星表は」


 妖精ナンバー1。表情も変えずにオレの根本的な問いを無視した。


「天国か地獄になった場合、その後の転生はありません。その後は、過去の記憶をすべて消して天国で幸せに過ごすか、過去の記憶を持ったうえで、地獄で永遠に苦しむしかありません」

「最終的に二択なんかい。これまた、ずいぶんと軽い。いっそ評価の改革を仕事にしたい」

「転生コースの場合。対象者は、より天国コースに近い生涯か、地獄コースに近い生涯かに転生します。その後、再び評価の時を迎えます」


 オレの改革案、聞いちゃおらん。身もふたもないって奴だな。妖精、説明に徹している。


「ただしです。星の低いコースで転生しても、その後の彼の生き様で天国コースへ行けるかもしれません。逆に、高いコースでノブレス・オブリージュ(身分に応じた社会的責任と義務)のない生き方をした場合、地獄コースが待っているかもしれません」


 妖精ナンバー1、説明に徹しているんだが。


 その姿がな、なんちゅうか、言葉を失うんだ。

 

 右足に重心をおき、右手は腰に、細い体を軽く斜めにかたむけ、顎を上げている。そして、また男女の距離間がまちがってる。オレは壁際に追い込まれた。いや、いいぞ。どっちかいや、この体勢、昇天コースだ。


 おおおう、たまらん。


「さあ、今こそ、あなたの万能老人スキル、出番です。星数を、お選びいただくのですが。今回、神の御使いさまは、生涯の途中で『天啓』をお使いになり、ある戦いで敵将に落雷を落として助けました。この場合、自動的に天国コースがなくなります。チートしたわけですから」

「はよ、それを言わんか」

「聞かれなかったんで」

「役に立たん奴だ」

「ところで、『その他』コースとは抜け道なのか?」

「現在のあなたさまの姿です。選ばれし者として、神の御使いとなるコースです」

「はああ?」

「ちなみに、『その他』を選ぶ権利は、あなたさまにはございません」


 で、雲嵐ユンランの運命を決定するって、なんでまた、こんな仕事をオレが。


「では、ケースナンバー1001番、最初のお仕事です。雲嵐ユンランのお星さまはいくつ?」

「そんな単純なもんでいいのか。雲嵐ユンランの生涯が、星で決まるのか」

「そうです。お選びください」

「で、では、星3っつで」

「いいんですか? 大丈夫ですね。彼の次の人生は星3っつコース。中クラス」

「ちょっと聞きたいが、中クラスって、どんなものなんだ」

「転生後の人生、中堅コースは、歴史的に中なのか、国的に中なのか、生まれが中なのか。複雑にからみあった状況から選び出した、もっとも平凡なコースになります」

「訳がわからん。その平凡という基準はなんだ」

「その人生において、ほぼ中堅。例えばです、中コースの歴史を日本で選べば、現代は外されます。地球規模で見た場合、現代日本に生まれるというのは上コースです。ただし、かなりの不幸設定によって中コースにすることもできるのですが、それでは主旨から外れます。すべてに真ん中。歴史的に日本で選ぶなら、戦国時代は転生下層クラス、江戸時代は転生中堅クラスになります」

「あれだね、おまえたち。普通が一番って知らんだろう」


 世の中、いろいろ経験してくると、普通であることが、どれほど貴重で難しいかわかってくる。普通に平凡に人生を生きれるなんて、めったにないんだぞ。


「神の御使いさまの存在意義は、そこです。それに、この無駄に多すぎる選択。人手がいくらあっても足りません。さささ、どう選びますか? 次の事例も待ってます。チャッチャと最初の仕事を終わらせましょう」

「そ、そうだな。じゃ、歴史的に中コースの国は……」

「国は?」

「アメリカとか」

「米国はかなり珍しい国で中時代が少ないのです。ま、第二次産業革命時代とか。そうですね、他には」

「いや、やめとこ、やめとこ。中国はどうだ」

「中国ですか、中堅どころといえば、そうですね。中国返還前の香港とか」

「よ、よ、よし、それで行こうか」

「ファイナルアンサーですか?」

「あのな、そこでジト目で見つめるな。まごつくだろう」

「ファイナルアンサー?」

「星3つ。中コース。ファ、ファイナル、いや、どっちがいい?」

「そこ、迷ってる場合じゃない!」

「おおっと、こらこら、詰め寄るでない。顔が近すぎるぞ、、か、かわいい顔が距離10センチ内だぞ。お、おい、おいってば……、

キスしていいか?」


 バッチ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!


 さあ、あなたなら、雲嵐ユンランに星いくつ? 



【整理ナンバー1001番:済み】





      – 完結 –

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オレ、95歳で異世界転生。したら、神の仕事にスカウトされました 雨 杜和(あめ とわ) @amelish

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