第354話「暗闇の未来」
「でも、誤解しないでね」
そんな言葉を前置きに、友奈は岩船先生について補足を話す。
「今すぐに死んじゃうような病気でもないし、佳奈美ちゃんが苦しむようなものでもない」
「はい・・・それは、分かりました」
先程、岩船先生と直接会っている。
どこか気持ちが暗いような気はしたが、それ以外で目立って辛そうな様子ではなかった。
「まぁそこまで気にすることじゃないってこと。私も倒れたって連絡入って、結構焦ったけどさ」
それはこちらも同じだ。
「それと、このことは他言無用だよ」
「あ、はい・・・でも、天文部の部員たちから、何件か連絡入っていて・・・バレてるんじゃないですか?」
「倒れてることは、バレてると思うよ。だって、学校で倒れたんだから」
「学校で・・・? 岩船先生が?」
岩船先生が倒れた場所は、学校だった。
でも、彼女はすでに教師を辞めている。
そんな彼女が、どうして学校に・・・?
「なんか、用事があったみたい。んで、部室にいたところで倒れちゃって」
「そこにちょうど、部員がいたってこと・・・?」
「なんじゃないかな。詳しいことは知らないけど」
「それじゃ、学校は大騒ぎになったんじゃ」
「どうだろ。それを危惧した佳奈美ちゃんが、救急車を呼ばないでほしいって言ってたらしいし」
倒れたといっても、意識はあったのだろうか。
「なら、どうやって病院まで」
「ほかの先生が車で運んでくれたらしい・・・えっと、夕凪・・・さん?」
「夕凪先生ですか」
「たしか、そんな感じの」
はっきりと名前は覚えていないよう。
仲の良い従兄弟の命を救ってくれた恩人というのに・・・。
「それはそうと、友くん! 内密にしてほしいのはそこじゃなくて、佳奈美ちゃんの病気のこと」
「あぁ・・・そっちですか」
口止めされているのは、倒れたという事実ではなく、その原因。
「そう。佳奈美ちゃんにも言っちゃだめだよ?」
「口止めされてるんですか?」
「いや、そこらへんはまだ何も相談していない。だから、もし佳奈美ちゃんが友くんにこのこと教えたくないってことだったら・・・」
なるほど。
友奈としては、あくまで岩船先生の意思を尊重したいわけだ。
でも、そのための口裏合わせができていない・・・と。
「今度しっかり相談するつもりだけど、今の佳奈美ちゃんがまともに会話してくれるかどうか・・・」
「やっぱり、滅入ってるんですかね」
「そんな感じじゃない?」
岩船先生は、基本的に感情が表情に出ない人だ。
だけど、今回ばかりは落ち込んでいる感じが何となく伝わってくる。
「とりあえず、何かあったらまた連絡してください」
「もちろんだよ。友くん!」
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先生と過ごした3年間 有栖川 天子 @yozakurareise
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