第2話 世界一キライなあなたに(2016)
この映画を初めて見たのは2017年頃だったと思う。DVDの新作のコーナーからタイトル借りを頻繁にしていた頃のことだ。
今回観ることになったきっかけは、友人が流していたエド・シーランのphotographだった。
耳にした途端、ふたりのラブストーリーと画面を見つめて瞬きできないまま呆然と涙を垂れ流していた自分を思い出した。
ハイライトと言えるシーンでの挿入歌。
友人にとてもいい映画だった、と視聴を勧めたが、彼女が帰ってから嫌な予感がして検索したところ、こともあろうに安楽死に至るまでを描いた物語だった。
彼女にも私にもそれは劇薬になる素材だった。
何故自分が瞬きもできずに涙を流していたのかをその時ようやく理解した。
悲しいのに、悲しんではいけない物語だったから。
残されるものの気持ち、それ以上に己の惨めさに己が勝てず、生きていられない気持ちがわかる気がしたから。
ようやくと思い出せたところで、作品の最後に彼が彼女へ送る最後の手紙のシーンが観たくなった。
それが再視聴の理由である。長くなった。
主人公のルーがひたすらに魅力的でかわいい。
オシャレが好きだという彼女のファッションセンスは日本で言えば原宿系に近い。
フワちゃんまでは行かないがそれに近い、カラフルでポップ、キッチュな装いがとても印象に残る。
安楽死についてルーの母親はひどく取り乱して怒る。これは、彼女とその家庭が啓蒙なキリスト教徒であるからで、キリスト教の信仰上、自殺は禁忌だから。
食事の時の祈りと、母親が身に付けたクロスのネックレスとこの件以外にキリスト教を感じさせる場面はない。
ウィルが安楽死を選ぶまでの葛藤が描かれない辺り、彼はキリスト教徒ではないのかな。
あるいはもしかしたら宗教に縋るのは庶民だけであることを示唆していたのかも知れない、なんて思う。
真偽はわからないが。
再視聴の前にレビューを確認すると、ちらほらと低評価も見られた。
お金があるのに何が不満なんだ、というような要約。
お金があるからこそ、と私は思ったのが面白い。
いずれにせよウィルの決断は自己中心的であるという批判が少なくなかった。
残された者はそう思うのかもしれない。では当事者の目線に立ってみるとどうだろう。
ネイサンが語った、夢の中では五体満足の自分が目覚めた時に突き付けられる現実に叫んで目を覚ますというくだり。
大好きなフランスの街並みに今すぐ行こうと提案するルーに、五体満足の頃の素敵な記憶を上書きしたくないという思い。
生きていることが苦痛で溢れていると私は感じた。
もちろん、新しい生き方をできると前向きな捉え方で生きることができる人は居るだろう。
それでも、その生き方を強いることはできないし、してはいけない気がした。
現実にはそれでも生きていかなければならない人達がいるのも事実だろう。
だが、彼には死を選べる環境がある。財力がある。
私はウィルの選択が間違っているとは思えなかった。
例えそれが愛する人を残して行くのだとしても。
シマシマの足を誇れ。焦がれるな、とウィルは残す。
明朗さと未来に満ち溢れたルーのことを蔑ろになどしていない。
出来うる限りの援助を、彼女のこの先を最大限思っていると私は思った。
自分のつらさも、彼女の未来も守れる選択だったのだろうと。
この作品を見て怒る人の気持ちは分かる。大体の人間はそう思うのかもしれない。でも、だから最低な話だった、とは思わないで欲しい。
娯楽作品だから、ではなく、選択のひとつであるということ。
そういう人生の幕引きもあるということ。
生きるとは、その人らしさを失わないこと。
選択は自分で選ぶもの。誰に咎められても、拒めない。
生きる自由があるのなら、死ぬ自由があってもいい。
そんなことを考えました。
実際自分がルーの立場ならこんなに静観できないでしょうけれどね。
それでもきっと、相手の選択を非難することはできない気がしました。
あなたにとってそれが最大の幸福であるというなら。
そういう。
イギリスが舞台なのでブリティッシュジョークに塗れた会話、文化が面白い作品でした。
めちゃくちゃどうでもいいけれど、ルーの妹役の女優さんが可愛くて好きです。
あと、パトリックは振られてもしょうがないと思うよ。
レビュー散文の箱 紺野しぐれ @pipopapo
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