第68話 (閑話)エルフの女達

 聖樹がこの地に降りて来て、魔力を大地に入れた。

 魔力はこの世界を回り更に大きな魔力のうねりとなって聖樹に帰って来た。

 宇宙の旅で魔力の減っていた聖樹はその魔力を全て受け入れ、1年後芽吹く事に成る。

 しかし、魔力と言う刺激を受けた大地は次々に魔力に目覚めて行った。


 生命に魔力が宿り進化した、無生物でさえ魔力で変質した。

 魔力の大きなうねりはやがて果てに至り留まる事に成った。

 純粋な魔力の塊、魔結晶と成って。


 増え続ける魔力によって魔結晶は大きく成って行く、やがて魔力の源、聖樹と共鳴するまでになった。

 魔結晶は共鳴によりコアへと進化し、そして森ダンジョンが生まれた。


 それは魔力の大量消費地が生まれた事でもあった。

 世界は安定的に魔力を循環させるシステムを手に入れた。


 魔力循環を成り立たせるもの魔石、それは魔力を蓄えた物。


 生物が魔力を宿し進化した中で会得した魔力の塊が魔核となり生命の情報を刻んだ時、魔物化へと進んだ。

 魔核に刻まれた生命の情報は、ダンジョンのコアと出会い共鳴しその後同化した。


 魔物が死ぬ時、魔核から生命情報が抜けて残った物が魔石となる。


 魔石以外の肉体は魔力となりダンジョンコアへ吸収される。

 生命情報はダンジョンコアを通り、再度魔物の核となりダンジョンコアより魔力を貰って肉体を作る、そして魔物としてポップする。

 この時魔物を作る為魔力を大量に消費する。

 こうして魔力が溜まる一方だったダンジョンコアに大量に消費してくれる生き物が現れたのだ。


 樹人はその出来事を知って、魔核を持つ生物を魔核生物と名付けた。

 魔核生物はダンジョンでは、不死の生き物となった。

 死んでも、ダンジョンコアを経由して再度出現する。

 そして新たな生をおう歌する。


 そして樹人の中には魔核生物に成りたいと思う者が出始めた、それが彼女達女エルフだ。

 何度でも人生を1からやり直せる。

 同じ人生は二つと無い。

 死を恐れる事が出来る、記憶を失う事は死である。

 それでも次の人生が在る事が確定しているならば死を超越できる。

 魔核の情報をいじれば次の人生のスタートを変化させる事が出来ると考える者も出て来た。


 再生される死と生、それを実現する為には2つの事を成す必要が在った。

 世界のダンジョン化、この世界のどこで死んでも再ポップする必要があるから。

 魔核生物に成る事、再ポップは魔核生物のみ可能だから。


 女エルフ達は研究した、魔核生物に成る方法は疑似魔核を造ればできそうだった。

 その研究の結果が魔印章に成った。

 魔紋は個人の生命情報の写しだから、後は魔紋とダンジョンコアを共鳴させれば良い。

 これはまだ出来ていない。


 世界のダンジョン化は聖樹をダンジョン化すれば出来そうだと考えた。

 これを実行に移そうと行ったのが妖怪砂掛け婆達の仲間だ、妖怪砂掛け婆達が行かなかったのはまだ疑似魔核の研究が完成していなかったからだ。


 聖樹の変が起き、そして彼女達は多くの仲間を失った。

 世界はダンジョン化しなかった、聖樹は失われた。


 聖樹が失われた世界から徐々に魔力が失われて行った。

 絶望の百年が始まった、魔力が失われて行ってもまだ膨大な量の魔力は残っていた。


 彼女達はあがいた、世界に魔力が残って居る内に魔力を生み出せる何かを探し出そうと。

 魔力を生み出す物を探して色々試す内に、在る事を思い出した。

 聖樹を生み出す片割れ、そう妖精族だ。

 彼女達の野望の矛先が妖精族へと伸びたが、そこには妖精王と言う怪物が守っていた。

 彼女達は手痛い反撃を食らい壊滅的被害を被った、最初万を超えていた仲間の数は万を切り数千にまで少なくなっていた。

 妖精族にも被害は出たが、小数にとどめる事が出来た、妖精王の妻が亡くなったのはこの時だった。


 内戦状態になったのはその事の為でもあった、そこにヴィチェンバスト王国からエルフの王(マーヤニラエル)が帰って来た。

 聖樹の種を携えて、やがて実生となった聖樹をシリアルビェッカ村へ植え、ヴァン国を建国した。

 魔力は聖樹の成長と共に増えて行った。


 魔力は増えだしたが、彼女達の野望はまだ達成できていない。

 今度こそ聖樹を世界ダンジョン化しようと妖精族と聖樹で作る子供、聖樹の種に狙いを定めた。

 彼女達は聖樹と妖精族の両方へ襲撃を繰り返す事に成る。

 その度にマーヤニラエルと妖精王の反撃で人数を減らしていった。


 それでも隙をと狙い妖精族へ狙いを定め襲撃を繰り返した。

 そう言った襲撃の一つがカスミの両親を殺した。

 当然手痛い反撃を食らった。


 彼女達は妖精王の強さを知った時からある事を研究し始めていた。

 考え方を変え樹人の子供に妖精族の代わりが出来無いか調べ始めたのだ。

 もともとエルフもドワーフも妖精族が他の太陽系の現地人と交わり変異した中から生まれて来た種族だから、他の種族も含めて全宇宙の樹人は妖精族の血を受け継いでいるのだ。

 その為襲撃を繰り返しながら、一方で闇に潜り誘拐と云う手段を行い始めた。


 執務宮やエルフ学園に居て、資金や情報源となり、手足となる闇の組織を作り始めた。

 彼女達は、闇ギルドの裏に潜み、商業同盟と裏の活動を通して繋がって行った。


 何故彼女達はエルフやドワーフの若い、時には幼い子供達を誘拐しても何の痛痒を感じ無いのだろうか。


 魔物化を狙う彼女達には子供とは未来を担う者では無く、未来の競争相手だった。

 性欲に従って子供を作っても、愛情を注ぐ事は無い、無限の生を掴もうとする者達には子供は不要なのだ。

 それよりも、魔物化の研究施設の在るエルフ学園を守る事の方が大切だった。

 その脅威の元が帝国で、帝国は樹人の子供を提供すれば大人しくしている、其れならば誘拐したついでに提供しようと考えたのだ。


 そして遂に終わりが来る。

 帝国の要求で、カモメを渡すことを強要された彼女達は、一芝居打ってオウレの船工房からカモメを手に入れる事が出来たが、細工した魔紋とサインが消えても再度読めるようになるとは思ってもいなかったのだ。


 カスミの魔術に恐怖した彼女達は過剰に反応した。

 詐欺罪で告発されると聞いた4人は手下にしていた海兵隊を使って砦に立てこもり、カスミ姫を攫いマーヤ王と取引する積りだった。

 全ては失敗し、彼女らは捕まって桜草の宮へ連行された。


 残った者は恐怖した。

 逮捕された4人はあまりにも彼女達の核心部分に居た人物だった。

 逮捕は近いと考えた2人は逃げ出す事で、ヴァン国以外で再起をかける事にした。

 至る所で見張られている為、持ち出す荷物さえ殆ど無く着の身着のままで帝国へ亡命する事に成った。


 たった一人の魔術師に全てを奪われた彼女らはカスミに復讐を堅く誓った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔術師、異世界をソロで往くⅡ 迷子のハッチ @23104

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ