第47話 戦いが終わって【SIDE:アイシリア】

 目が覚めた。そこはベッドの上だった。


「嘘……シリー、もう起きたの!?」


 隣のベッドには、驚くミカの顔。

 私は――オルドリッジの戦いで気を失った。


「急がなきゃ、オルドリッジが――」


「待って! 動いたら駄目!」


 途端に全身を襲う強烈な痛み。そうだ、私は死にかけて……。


「もう終わったのよ。オルドリッジはレシオが倒した」


「レシオは!? レシオはどこにいるの!?」


「……シリーの傷は一番酷かったの。今はそのことは考えないで、回復を待って」


「嘘! 私なんかよりレシオの方が傷が深いはず! レシオはどこにいるの!?」


 私の嫌な予感が的中するように、ミカの表情が暗くなっていく。


「――オルドリッジを倒した後、レシオは私とシリーの二人で塔から降りるように行った。そして……」


「嘘、まさか……」


 私には、その先の言葉が予想できた。なぜなら、自分が一番やりそうなことは、自分が一番よくわかるから。


「地上に戻って、塔が崩れて……でも、レシオは戻ってこなかった」


 動き出そうとする私を、ミカが手を取って止めた。


「気持ちはわかるわ! でも、今は動かないで! 街は傷が浅い兵士たちが当たってる。今は体を休めることを優先して……」


「……ごめん、ミカ。私、どうしても行きたいの。今ならまだ、レシオを助けられるかもしれない!」


「でも、それでミカの容体が悪くなったら意味がないのよ!?」


「もし、私がここで行かなかったら、一生後悔することになるかもしれない。私、そんなの嫌なの!」


 ミカは苦虫を嚙み潰したような顔をした後、コクリと頷く。


「……わかったわ。でも、それなら私も連れて行って」


「でも、ミカもかなりダメージが残っているでしょう?」


「あなたほどじゃないわ。それに、シリーが無理をしないように見ておきたいの。……これ以上、仲間を失うのは嫌」


 ミカの気持ちは痛いほどわかった。そのうえでも、私はこの無理を通したい。


 私たちは病室を抜け、外へと出た。



「アイシリア様! ミカリス様!」


 外にいたのは、ハイフェルトさんだ。私たちが出歩ていることに驚いているのか、かなり焦った顔でこちらを見ている。


「お二人とも、病室にお戻りください! こちらの仕事は私どもでやっておきますので!」


「ごめんなさい、ハイフェルトさん。私、どうしてもレシオを探したいんです!」


 そう言った途端、ハイフェルトさんはさっきのミカと同じように、何かを諦めたような顔をした。


「……それは、止めておいた方がいいと思われます」


「なんでですか!? レシオは見つかったんですか!?」


「いえ、まだ見つかっていませんが……おそらく、アイシリア様の期待する結末にはなりません」


「何を根拠にそんなことを言うんですか!」


「……お二人には話していませんでしたね。エウギニアの預言書です」


 ハイフェルトさんは苦しそうな表情で、さらに続けた。


「エウギニアの預言書には、今回の大規模侵攻で勇者が一人死亡すると書かれていたんです」


 エウギニアの預言書の的中率は100%。つまり、勇者が一人死亡することは決まった未来だ。


「別の場所で防衛をしていた水の勇者と土の勇者は、安否に問題はないそうなのです」


「そして、私たちも無事に生き残っている……」


 そのことが示す事実は一つ。

 今回の大規模侵攻で死亡するのは――光の勇者であるレシオだ。


「レシオ様は、間違いなく勇者の中でも最強でしょう。おまけに、はるかに短期間で成長なさった。人類にとって宝のような存在です。しかし……エウギニアの預言書に書かれていることは覆せないのです」


 ハイフェルトさんは心苦しそうにそう告げた。


 大規模侵攻のことも、それ以前のこともエウギニアの預言書は正確に当ててきた。

 ――だけど。


「私、行きます」


「なぜです!? やめてください、これ以上アイシリア様が傷つく必要はありません! あとは、私たちの仕事です!」


「……レシオは死んでません」


「やめてください! 根拠のない行動で傷つくのは自分自身なんですよ!?」


「根拠なら、あります」


 レシオは絶対に生きている。私がそう信じたいだけだ。

 だけど、もし可能性があるとしたら――これしかない。


「光の勇者は、<勇者>のスキルを持っていない、特別な勇者なんですよね?」


「ええ、そうですが……」


「だったら、エウギニアの預言書には光の勇者のことは記されないはずです」


「つまり、ということは……」


「エウギニアの預言書は外れた・・・。レシオは運命を変えて、私たち4人の勇者を生存させたんです」


 もしそうならば……レシオは今も生きているかもしれない。

 だが、ハイフェルトさんは首を横に振る。


「そんなのは希望的観測にすぎません! エウギニアの預言書が運命を言い当ててきたという膨大な歴史を、根本から覆すことになりますよ!?」


「それでも、私はその歴史の壁の高さを乗り越えてみせます! だから、止めないでください!」


 私は走り出した。街の中央の塔に向かって。

 全身を火であぶられたような痛みが走る。でも、そんなことはほとんど気にならなかった。


 私のレシオへの思いが、たった一冊の本の、たった一文に否定されてたまるものか。

 レシオに会いたい。大好きな、あの人に――!

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「スライムも倒せねえ雑魚は消えろ!」と言われたFランク冒険者は、チートスキル<カード化>で世界最強になる。 艇駆いいじ @wtw_tie

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