第40話 俺の隣は……あれ?
校外学習における班決め・バスの席決めをしてから約一週間後、俺たちは浅草に向かうべくバスに乗ろうとしていた。
班決めが終わった後に行われたバスの席決めだが、あれは概要にもあった通り適当に班ごとに座ることに決まった。俺の隣はもちろん
と、思っていたのだが…………。
「おい、どうしてこうなった」
当初決まっていたのは俺と春樹、
しかし今、俺が決まった席に座ろうとするとそこには既に先客が座っていた。
「なんで春樹と桑原が一緒に座ってるんだよ」
「別にいいじゃん〜? 私あまり
「あー、そういえばそうだったな。なら先に言ってくれればよかったのに」
「ごめんね〜、急に変えちゃって〜」
「全然大丈夫だよ、気にすんな」
「ありがと〜。
というわけで急遽座席が変わり、俺は春樹の後ろ兼長谷川の隣に腰を下ろす。
既に長谷川は窓側の席に座っているため、俺は通路側に座ることになった。
「おはよう、長谷川」
「……ん」
窓から外を眺め、なぜか目を合わせてくれない。もしかして今日が楽しみで、昨日ちゃんと眠れなかったのだろうか。
それなら無理に話しかけても可哀想なため、俺は今日行く場所を確認するべくスマホの操作を始めた。
今日はまず浅草に行く前に、修学旅行における集合の仕方を練習するため羽田空港へ向かう。その後に浅草へ向かい、各自自由行動になるらしい。
「ねぇ、赤峰は今日の浅草楽しみ?」
しばらく浅草について調べていると、長谷川が突然そんなことを聞いてきた。
バスが出発してからずっと静かだったため寝ているのかと思っていたが、どうやらずっと起きていたらしい。
「そりゃ楽しみだよ。浅草行くの初めてだし。長谷川は?」
「あたしも楽しみ。赤峰と一緒の班になれたから」
「…………え」
「いっぱい思い出作ろうね」
「……お、おう」
普段言わないようなことを、急に言ってくるなんて反則だろ。
やばい。心臓の音が大きくなってる。長谷川には聞こえてない……よな?
「スースー……」
恐る恐る長谷川の方を見ると、やはり眠かったのか背もたれに寄りかかって寝息をたてていた。
セーフ。これなら俺の心臓の音を聞かれる心配はない。
(……最近、なぜか長谷川がどんどん可愛く見えてくんだよな。今もそうだけど、間近で見るといつもの数倍は可愛く見える)
お人形のように整った顔。肩上まで伸びた綺麗で艶やかな金髪。そして高校生離れした大きさを誇る胸。
どれもが魅力的に見えてしまって、最近は長谷川のどこを見て話せばいいのか分からなくなってしまっているくらいだ。
『じゃあ、赤峰くんは澪ちゃんのことが好き〜? それとも嫌い〜?』
以前、桑原にこんな質問をされたことがあった。
あの時は明確な答えを持っていなかったためはぐらかしたが、もしかしたら桑原の言う通りなのかもしれない。
――でも、俺は
あー、ダメだ。
これ以上考えると、俺が二股している最低野郎にしか思えなくなってしまう。もう考えるのはやめよう。
何も考えないようにするためにも、俺はゆっくりと重くなったまぶたを閉じたのだった。
――パシャリ。パシャパシャ。パシャリ。
「…………ん?」
カメラのシャッター音が何度も鳴り響き、さすがにうるさかったため目を覚ました。
そういえば長谷川のことで頭がいっぱいになってから思考を停止し、俺も寝たんだっけ……?
「お、
「……おう。もう着いたのか?」
「今ちょうど羽田に着いたところ。いやー、それにしてもお熱いねー」
――パシャリ。パシャパシャ。パシャリ。
「……熱い? どうゆうことだよ。てか、桑原はなんでさっきから俺の写真を撮ってるんだ」
「私〜? 赤峰くんの写真は撮ってないよ〜」
「……いや、撮ってるじゃん」
「違う違う〜。私は〜赤峰くんと
「…………え?」
桑原の言っていることが理解できなかった。
確かに俺の隣には長谷川が座っているが、ツーショットを撮るなら別にバスの中じゃなくても…………んんんんんん!?
「「ヒュ〜ヒュ〜」」
そういえば、起きてから一つだけ違和感があった。
なぜか左肩がいつもより重く感じたのだ。
そしてその理由は一つしかない。
俺の左肩に小さな頭を乗せて、今も尚気持ちよさそうに眠っている長谷川の姿を見れば一目瞭然だ。
「なっ……! 桑原、消せ! 撮った写真を消せ!!」
「え〜! せっかく撮ったんだから卒業アルバムに載せたいよ〜!」
「まだまだ先の話だろ!? それに卒アルに載ったら恥ずかしくて卒業式来れなくなるぞ!?」
「も〜、赤峰くんうるさいよ〜。澪ちゃんが起きちゃうでしょ〜?」
「いや、着いたならどっちみち起こさなきゃいけないだろ」
桑原の言う通り結構うるさくしてしまったが、俺の左肩に頭を乗せている長谷川は微動だにせず寝息をたてている。俺の苦労も知らず気持ちよさそうに寝やがって!
そんな長谷川を起こそうとしたその時、桑原が「キャ〜!」と可愛らしい悲鳴をあげた。
「……なんだよ」
「桑原さん、これはナイスすぎる。俺にもその写真送って」
「いいよ〜。撮ったやつ全部送るね〜」
「さんきゅー」
「おい……まさかその写真って……」
「これだよ〜! 二人とも可愛いね〜!」
「………………終わった。ジンセイオワッタ」
桑原が撮った写真は、拡散されれば間違いなく俺の今後の人生が終わると言っても過言ではないくらいにやばかった。
俺と長谷川のツーショット。それだけならまだなんとかなるだろう。
しかし桑原が撮った写真は、俺と長谷川は寝ていてお互いに寄りかかって寝ている写真だった。長谷川が俺の左肩に頭を乗せ、その長谷川の頭の上に俺の頭が寄りかかっている。
この写真は誰が見てもカップルだとしか思えない。
「桑原さん……どうか消してくださいお願いします」
「嫌だよ〜。諦めな〜」
「では、なるべく拡散しないで頂けると嬉しいのですが……」
「大丈夫だよ〜、拡散するつもりないから〜。吉川くんと澪ちゃんには渡すけどね〜。あ、赤峰くんもいる〜?」
「…………一応貰っておきます」
別に長谷川とのツーショットが欲しいわけではない。
ただ長谷川の寝顔の写真をとっておいて、何かあった時のために保存しておくだけだ。
……決して、やましい気持ちはない。
学年一の美少女への告白練習をしていたら、ちょうど天敵のような女子が現れて付き合うことになった 橘奏多 @kanata151015
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