第39話 予想外の班員争奪戦

 大体の高校生が楽しみにしているであろうイベント、校外学習の日が近くなってきた。

 そして今日は、その校外学習における班決めやバスの席決めをする予定だ。


「行き先は浅草かー。祐也ゆうや、行ったことある?」

「一回も行ったことない。春樹はるきは?」

「俺もないんだよなー。でも浅草寺行ってみたかったからちょうどいいわ」

「確かに。食べ歩きとかもしてみたいな」

「うわ、めっちゃ分かるわー」


 俺たちが校外学習の行き先である浅草について盛り上がっていると、別室で事前説明を受けていた桑原くわばら長谷川はせがわが教室に戻ってきた。

 桑原と長谷川はそれぞれ学級委員長、副委員長なため今回の校外学習における班決めやバスの席決めの進行を任されており、進め方や概要について説明を受けていたのだろう。


「はい、静かにしてー。これから校外学習の班決めするぞー」

「「「「待ってましたー!」」」」

「じゃあ桑原と長谷川、進行頼むぞ」

「「はい」」


 先生に言われた通り、資料を持った二人は校外学習の概要について話し始めた。

 要点を簡単にまとめるとこんな感じだ。


・基本的には四人班。人数が足りない場合のみ三人班を認める。男女混合男女別々どちらでも可。

・目的地に着くと、そこからは帰りのバスの時間まで完全自由行動。

・他クラスのグループと一緒に回るのも可。ただし、全ての班員の同意が必要。

・集合時間には間に合うように行動すること。

・バスの席は、なるべく一緒に行動するグループ内の人と座ること。


「まずは浅草で一緒に行動するグループを作りま〜す! 班員が決まったら固まって座ってくださ〜い!」


 桑原の合図とともに、クラスのみんなは動き始めた。

 俺と春樹はとりあえず一緒になることは確定なため、残りの二人をどうするかだが……。

 ここで予想外の事態が生じる。


吉川よしかわくんと赤峰あかみねくんって、一緒のグループだよね?」

「そうだけど」


 この会話が、全ての事の発端だった。

 俺と春樹の前にたくさんの女子二人組が集まってきたのだ。女子四人で集まって参加していない人たちもいるが、それ以外の女子は大体俺たちの前に集まっている。恐らく、全員春樹狙いだろう。クソイケメン野郎。モテすぎだろ、羨ましい!


「私たちが吉川くんと同じ班になるの!」

「絶対私たちがなる!」

「なんでよ! 私たちに赤峰くん譲ってよ!」

「ならじゃんけんで決めよ!」

「「異議なし!」」


 …………あれ?

 もしかして俺を狙っている人もいる感じ?

 てか、俺らの意見は尊重してくれないの?


『赤峰って結構学校でモテてるよ』


 長谷川が初めて家に来て、有希に放った言葉はどうやら嘘ではなかったらしい。

 俺の人生初のモテ期は、今のようだ!!


「おい春樹、どうすんだよ」

「それはこっちのセリフだ。早くあっち行かないと、長谷川さんたち他の奴らに取られんぞ」

「……え?」


 完全に忘れていた。

 自分のことを狙ってくれている女子もいるというのが嬉しすぎて、長谷川と桑原の男子たちからの人気を忘れていた。

 俺たちの前に集まっている女子たちから視線を教卓の方に移すと、恐るべきことにクラスの男子の大半がそこに集まっている。男子たちの方が女子よりも数的に多いということもあって、長谷川と桑原のもとに集まっている男子の数は俺たちのもとに集まった女子たちの倍以上だ。


「あれはやばいな……」

「そりゃそうだろ。あの二人、野本さんほどではなくてもすげー人気だし。祐也、行ってこい」

「……は?」

「長谷川さんと桑原さんだよ。俺たち四人で組めばこの男女グループは散るだろうしさ」

「…………俺に死ねと? あそこに入ったら間違いなく命なくなるぞ?」

「大丈夫だって。お前ならいける!」

「……はぁ、わかったよ」


 俺はなんとか集まっていた女子たちの間を抜け、長谷川たちのもとへ向かう。せっかくモテ期が来たというのに、なんてもったいないことをしているんだろう。

 さようなら、人生初のモテ期。

 こんにちは、野郎共。


「長谷川さん! 是非俺たちと一緒の班になりましょう!」

「桑原さん! 僕たちと一緒の班になりませんか!?」

「「長谷川さん!」」

「「桑原さん!」」


 人数が多いだけあって迫力が半端ない。

 これから俺はこいつらを一人で相手しなきゃいけないわけ? 普通に考えてやばいでしょ。


「長谷川、桑原、ちょっといい?」


 俺が声を張り上げて二人を呼ぶと、案の定二人のもとに集まっていた男子たちはこちらに視線を向けた。そしてその相手が俺だとわかると、思い切り殺意を向けてくる。

 普通に怖い。なんで自分が殺意を向けられているのかすら分からないし、ただ二人を呼んだだけじゃん。


「「赤峰(くん)!」」


 男子たちがこちらに視線を向けた瞬間、長谷川と桑原は隙を見て男子たちの間を抜け駆け寄ってきた。

 どうやらかなり困っていたらしく、二人とも髪はボサボサで服は少しはだけている。


「相当やばかったようだな……」

「……うん、思った以上に勢いがすごくて」

「赤峰くんが来てくれて助かったよ〜」

「それはなにより」

「……で〜? 赤峰くんがこっちに来てくれたってことは〜、私たちと一緒の班になりたいってことだよね〜?」

「まあ、うん。否定はしない」

「ふ〜ん?」

「……なんだよ」

「別に〜?」


 桑原はニヤリと満足そうに笑みを浮かべる。

 その顔は猛烈に腹が立ったが、なんとか自制した。


「長谷川もいいか? 俺たちと一緒の班で」

「……うん」


 長谷川は俯きつつも、こくりと首を縦に振った。

 桑原は学校中で聖母マドンナや天使だと呼ばれているが、絶対悪魔の方が似合っている。どう考えても長谷川の方が天使だ。

 俺が長谷川と桑原を連れて春樹のもとへ向かうと、そこに集まっていた女子たちはどんどん散っていった。「長谷川さんと桑原さんには勝てるわけない」ということらしい。


「祐也ー、おつかれー」

「春樹、お前は手助けぐらいしてくれてもよかったんじゃないか」

「俺だって大変だったんだぞ? 女子たちの相手するの」

「うるせ。俺なんて多くのクラスメイトから殺意向けられたんだぞ」

「可哀想に」

「お前のせいでな!?」


 斯くして校外学習の班決めはなんとか無事に終了し、この日を境に俺はクラス中の男子たちから殺意を向けられるようになったのだった。

 俺だけ無事じゃないんだが……それは気のせいだと思いたい。

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