第38話 仕組んだな!?
中間テストとその結果発表が終わり、待ちに待った席替えの時間がやってきた。
俺たちが通っているこの学校では、定期試験が終わると席替えをするということが決まっている。
心機一転。まさにこの言葉の通りで、席替えを行うことで新たな気持ちや態度で勉強に臨むことが目的であった。
「席替えするぞー! お前ら席に着けー!」
先生の合図により、クラスのみんなは一斉に自席に座った。
俺は正直席順にはあまり興味は無い。とりあえず
「じゃあ
「は〜い。まずは席替えの方法について説明しま〜す」
ここで先生は席替えの進行を、学級委員長である桑原に任せた。
桑原が学級委員長であるのは意外だが、まさかの自己推薦で決まったことだった。桑原が学級委員長を務めている、ということは当然その親友である
「席替えの方法は簡単で〜くじ引きで〜す。この箱の中に入っている四十枚の紙にはそれぞれ1から40の数字が書いてあって〜、その数字と黒板に書かれてある数字を見てその場所に移動してくださ〜い」
桑原が席替えの説明を終えると、副委員長である長谷川が黒板に番号を振った席をどんどん書き始めた。
窓側の一番前が1で、後ろにいくと数字が一つ増えていく。一番後ろまで行くと右の列の一番前に戻り、窓側のように数字が振られていくという感じだ。
「じゃあまずは出席番号一番の
「了解」
桑原に呼ばれ、俺は席を立って教卓に向かう。
するとなぜか桑原は俺に一枚の紙を渡してきた。
「……え?」
「赤峰くんにプレゼント〜」
「いや、自分で選ばせて?」
「ダメ〜」
「なんで!? くじ引きじゃないの!?」
「くじ引きだよ〜」
桑原が一体何を考えているのか分からない。
まさか俺への嫌がらせで、教卓の目の前にさせる気か!? それだけは絶対に嫌だぞ!
「赤峰くんはこの席って決まってるの〜」
「くじ引きの意味ないやん……」
「とにかく〜! 受け取って〜」
「はぁ……わかったよ」
これ以上何かを言ったところで桑原が折れことはないだろうし、俺は黙って従うことにした。もし席が教卓の目の前だったら、一生桑原を恨むことになるだろう。
紙を受け取って自分の席に戻ると、ずっとこちらを見ていたのか長谷川と目が合った。
「なんだよ」
見なかったフリをしようとしたが、生憎長谷川のいる教卓まで距離が短いため話しかけてみる。すると、無視。
「……おい」
またしても、無視。
最近の長谷川はよく分からない。反応とか色々可愛すぎるし、前とは全く別人のように思えてしまう。それなのに今のように時々無視してくるため、本当に何を考えているのか分からないのだ。
無視をされれば会話のキャッチボールが成立しないため、俺は諦めてスマホを取り出してゲームを始めたのだった。
それからしばらくしてクラス全員がくじを引き終わり、席替えが始まる前に
俺は出席番号が最初に対し春樹は出席番号が最後なため、番号を見るまですごく時間がかかったがこちらの方が盛り上がるため良しとしよう。
「いやー、緊張するな!」
「別にどこでもいいけど、できれば一番後ろがいいな」
「だよな! 一番前とかだったら授業中寝れないし!」
「そーゆー意味じゃねぇ」
「じゃあ、見るぞ!」
「「せーの!」」
俺たちは一斉に直角四つ折りされた紙を開く。
そしてお互いの番号を見せ合って黒板を見てみると、席はすごく近かった。俺が窓側の一番後ろに対して、春樹は俺の右斜め前の席だった。
「「うぉー!」」
予想以上の近さで興奮する俺たち。
しかし、その興奮は一瞬にして無へと変わることになる。
「……仕組んだな」
「…………何の話?」
「別に仕組んでないよ〜。偶然だよ〜偶然〜」
席を移動し終え、いざ座ってみると周りには見知った顔が並んでいた。
クラスメイトなため一応みんな見知った顔ではあるのだが、この席順はどう考えたっておかしい。
俺の隣には長谷川が座っており、俺の前兼春樹の横には桑原が座っている。これが偶然なわけがない。
「……桑原、どう考えたって偶然じゃないだろ」
「え〜?」
「あれはさすがに露骨すぎる。なんでくじ引きなのに俺はくじを引けなかったんだ」
「赤峰くん酷い〜。私は何もしてないよ〜?」
悪魔め!!!
「
「……赤峰は、あたしの隣じゃ嫌なの?」
「別に嫌ってわけじゃないけど……」
「はい〜! この話はおしまい〜!」
そう言って桑原は長谷川を連れて逃げていってしまう。
仕組まれた席替え。何が目的で仕組まれたのかは定かではないが、なんとなく予想はついている。
――長谷川が俺の横の席になりたいと言って、学級委員長である桑原に協力を申し出たのではないか。
自意識過剰かもしれない。もし違かったらすごく恥ずかしい。
でももし俺の予想が合っているなら……さすがに可愛すぎる。
『あたしはこれからもあんたのことが好きなまま。少しでも隙を見せたら、あたしがあんたのハートを奪っちゃうんだから』
いつまで経っても忘れられない長谷川の言葉が脳裏をよぎる。
「くそ……」
「なんだよ祐也、長谷川さんと隣の席になれて嬉しくないのか?」
「嬉しいに決まってんだろ! ………………え?」
俺、今なんて言った?
「お熱いねー。とうとう祐也も
「ち、ちがっ……! 今のは……!」
「今のは?」
反論しようとしても、口から言葉が出てこない。
「……なんでもない。とにかく俺が好きなのは野本さんだ」
「ふーん?」
「なんだよ」
「別に? ただ面白いことになってるなって思っただけさ」
「何も面白くねぇよ。意味がわからん」
そう、俺が好きなのは野本さんだ。
長谷川のことを好きなわけがない。
絶対に有り得ない。
と、何度も自分に言い聞かせたのだった。
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