満たされた希望、私へ。
ーーー「ああ、なんて可愛らしい人なのでしょう。私を信じて、それで、こんな姿になってしまうなんて。」
扉を開けてから数ヶ月後、彼は幸せな顔をしながら、彼女の膝の上に居た。
都会の喧騒、遠くからは、アパートの一室から見つかった死体のニュースが流れている。
そう、彼は幸せだったのだ、自分を理解してくれる、肯定してくれる。心の底から信じた相手に殺されたのだから。
例えその姿が、首だけになってしまったのだとしても、そして、いつか打ち捨てられる運命だとしても。
ーーー「ふふ、こんな可愛いらしい寝顔、今までで見た事ないですね。ああ、でもこの前の人の方が可愛かったかしら。今回は随分と早く落ちてしまったし、可愛いとはいえつまらない人でしたね……。」
死ぬまで幸福だった彼の頬を指でつんつんとしながら、悪態をつく彼女の横顔が月明かりに照らされる。やはりその顔は綺麗であった。
ーーー「でも可愛いとはいえ、そろそろお別れしなくてはなりませんね。ごめんなさい。でも、とても幸せだったでしょう?生まれてから感じた事のないぐらい、幸せだったでしょう?だから、私は他の辛い人達に、この幸せを届けなければならないのです。それが私の役目なんです。」
ーーー「だから、さようなら。」
蹴鞠のように膝から首を跳ね除けながら、彼女はまた都会の喧騒へと消える。また誰かを幸せにする為に。辛く苦しい人を救うという、自分の欲望を満たす為に。
月夜の晩に、藤の着物が翻る。
扉の前に立ちながら、貴方が扉を開けるのを、いつまでも待っている。
月と藤の花、貴方へ。 ヨモツリ @Yomotsuri
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