【漫画化記念】結婚式のエルノーチェ姉弟
本編第371話と第372話の間のお話になります。
▽▼▽▼
私とレイノルト様の結婚式に、もちろんベアトリス、リリアンヌ、カルセインが参加してくれた。誓いを終えると、彼らが我先にと挨拶に来てくれた。
パートナーと一緒にやってきた姉達に比べて、カルセインは一人どこか寂しそうに立っていた。
ベアトリスは私の顔を見るなり、目にいっぱい涙を溜めてしまった。
「おめでとうレティシア。本当に綺麗よっ……!」
「ありがとうございます、ベアトリス姉様」
なんとか涙はこぼさず、こらえながら祝福してくれた。その姿に感動して、私までもらい泣きしそうになってしまった。どうにか涙をひっこめようと、目を伏せてベアトリス姉様の装いに注目した。何か褒めようと安易な考えで視線を向ければ、余計に感動を受けることになる。
「……もしかしてですが、そのショール」
「そうよ。レティシアにもらった大切なものよ。……正直、汚れがつかないように保管も考えたのだけど、それはレティシアが贈ってくれた意味をなくしてしまうというもの。それでいつか使おうと大事に保管していたのだけど……今日以上にふさわしい日はないと思うの」
「ベアトリス姉様っ……」
「このショール、とても暖かくて使い心地が最高よ。素敵な贈り物、本当にありがとうね」
嬉し過ぎて涙がこぼれてしまった。
シェイラとエリンが時間をかけて仕上げてくれた化粧のためにも、泣かないように気を付けていたのだ。
(どうしましょう、レイノルト様。涙が止まりません)
自分の顔が酷いものにならないためにも、涙を止めようと心を落ち着かせる。レイノルト様も私の心情を聞くと、すぐにそっと背中をさすってくれた。
「レティシア、結婚おめでとう。可愛い妹が巣立つというのは寂しさが残りますね、姉様」
「えぇ……」
「ありがとうございます、リリアンヌお姉様」
涙を止めたいのに、リリアンヌの優しい声が心を揺れ動かしていく。
「レティシア、私の靴も見てくれない?」
「え?」
柔らかな笑みを浮かべるリリアンヌの言う通り、足元に視線を向けた。
「私も姉様と一緒で、レティシアからもらった靴、履いてきてしまったわ」
「リリアンヌ姉様まで……」
「ふふっ。私もね、これは展示用として永久保存するつもりだったのよ? でも姉様の意見に納得して、今日という日に履くことにしたの。この靴、見た目だけじゃなくとても履きやすいの。本当に良い贈り物をもらったわ」
駄目だ。これは涙が止まりそうにない。
嬉しそうに笑うリリアンヌを見て、私はさらに涙を流してしまった。
(どうしよう……あんまり泣きすぎると酷い顔になっちゃう……)
一抹の不安を覚えながらも、感動と嬉しさで涙を流し続けた。自分はこんなにも涙もろかったのかと驚くほど、涙が流れて止まらなかった。途中で、背中をさすっていたレイノルト様がぎゅっと近付いて耳元で囁いた。
「大丈夫ですよ、レティシア。レティシアはいつ何時も可愛いですから」
(レイノルト様、ありがとうございます。でも今じゃないです……!)
抑えようとしていた感情の波が、レイノルト様の言葉で余計に大きくなってしまった。
上を向いて涙を止めようとすれば、カルセインと目が合った。
「レティシア、俺もしっかり持ってきたぞ」
「え?」
一体なんだと思えば、カルセインは意気揚々とうちポケットから万年筆を取り出して見せた。結婚式という華やかな舞台には絶対に合わない万年筆。それがおかしくて気が抜けてしまったが、何よりもそれを誇らしく見せるカルセインに感動してしまった。
「なんで結婚式に万年筆持ってきてるんですか……!」
「えっ。いや、姉様とリリアンヌがレティシアの贈り物を持って行くという話を聞いて」
「カルセイン、どう考えても結婚式にそぐわないわよ」
ベアトリスにダメ出しをされてしょんぼりと落ち込むカルセイン。
「さすが残念なお兄様です」
「待てリリアンヌ、今なんて」
「あら。素敵なお兄様と」
「絶対にそう言ってないよな? 残念だと言ったよな?」
「まぁ。耳は残念ではないんですね」
「リリアンヌ……!」
「やめなさい二人とも。レティシアの結婚式よ?」
「ふふっ」
「大丈夫ですよ姉様。レティシア本人は笑ってますし」
まさか結婚式でまで、賑やかな姉弟のやり取りを見られるとは思えなかった。
おかげさまですっかり涙は引っ込み、穏やかで幸せな気持ちに包まれるのであった。
▽▼▽▼
いつも本作をお読みいただき誠にありがとうございます。
本日より「カドコミ」にて「姉に悪評を立てられましたが、何故か隣国の大公に溺愛されています~自分らしく生きることがモットーです~」の漫画が配信開始となりました……!
長神先生によるとても素敵な漫画となっておりますので、ぜひご覧ください!!
詳細は近況ノートにて報告させていただいておりますので、こちらも合わせてご覧ください。よろしくお願い致します。
姉に悪評を立てられましたが、何故か隣国の大公に溺愛されています~自分らしく生きることがモットーです~ 咲宮 @sakimiya
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