【2巻記念SS】賑やかな女子会
※時系列としては、第151話後辺りのお話になります。よろしくお願い致します。
▽▼▽▼
今日はフェルクス大公夫人であるエスティーナ様に招待され、ベアトリス、リリアンヌと共に大公邸に来ていた。
馬車を降りると、すぐさまエスティーナ夫人に迎えられた。
「いらっしゃい! ささ、こっちよ!」
「夫人、挨拶を――」
「いいのよベアトリス、そんな堅苦しいものは。今日はなんてったってお茶会という名の女子会ですもの!」
「で、ですが」
戸惑うベアトリスを横に、リリアンヌは小声で話しかけた。
「お姉様。リカルドから聞いたのですが、どうやらお義母様は今日という日を凄く楽しみにしていたようです」
「そうみたいね。……着いて行きましょうか」
眉を下げながら笑みをこぼすベアトリスと、夫人の様子に慣れている様子のリリアンヌ。私は一連のやり取りを微笑ましいなと思いながら眺めていた。
エスティーナ夫人に案内されたのは、庭園に囲まれた場所だった。そこには丸く大きなテーブルがあり、テーブルの上にはお茶菓子や茶器が用意されていた。
「さぁ、座って。早速女子会を始めましょう」
にこにことした笑顔で座るよう促されると、エスティーナ夫人の右側にベアトリス、反対側にリリアンヌ、姉二人の間に私という位置で座った。
「……夫人、一つ気になったのですが」
「えぇ、どうしたの?」
「その、女子会とは一体……」
「いい質問ね、ベアトリス!」
よくぞ聞いてくれました! と言わんばかりに満面の笑みを浮かべるエスティーナ夫人。
「女子会とはね、恋バナという名の恋の話をする会のことよ。この前レティシアちゃんに教えてもらったの」
「レティシア……」
ベアトリスからの視線を感じたが、私は気にすることなくエスティーナ夫人と微笑み合った。
元々「ベアトリス、リリーちゃん、レティシアちゃんと一緒にお茶会したいわ」という話だけは聞いていた。その後悪評を塗り替えるために参加したパーティーで、再び同じ話を聞いた時にポロリと「女子会みたいでいいですね」とこぼしたのがきっかけだった。意外にも夫人が食い気味で興味を持たれたので、詳細を説明したところ、開催することになったのだった。
「というわけで、皆で楽しく恋バナをしましょう」
「……私は話すことがないのですが」
「あら、ベアトリス。気になっている人はいないの?」
「それ、私も聞きたかったんです。お姉様。想い人はいらっしゃらないんですか」
早速エスティーナ夫人とリリアンヌに詰められてしまうベアトリスに申し訳なさを覚えたが、私も便乗して尋ねた。
「ベアトリスお姉様、お見合いはされないんですか?」
「……気になっている人も、想い人もいないし、お見合いはするつもりもありません。そもそも、私よりカルセインが先です」
きっぱりと断言するベアトリスだったが、リリアンヌは苦笑い混じりで返した。
「きっとお兄様も同じことを思ってますよ」
「……リリアンヌ、どういう意味よ」
「そのままですよ。お兄様もきっと、婚約に関してもお見合いに関しても〝姉様を差し置いてはできない〟と思っているのではないかと」
「うっ」
薄々ベアトリスも感じていたのか、ばつが悪そうな表情になる。
「まぁでも、ベアトリスの気持ちはわからなくないわ。次期公爵になるのがカルセインと考えれば、先にそっちの身を固めるのを優先したいわよね……」
「そ、そうなんです」
誤魔化すように夫人の話に頷いたベアトリス。彼女はそのまま私達に話を振った。
「夫人。恋バナというのなら、絶賛婚約中の二人の話の方が盛り上がりますよ。」
「それもそうね……! リリーちゃん……の話はよく知ってるから、是非ともレティシアちゃんの話を聞きたいわ!」
心の準備はしていたものの、夫人が向ける目があまりにもきらきらとしていて、期待に添えられるか不安になった。まずはリリアンヌの話で様子見がしたかったので、話を振ってみる。
「リ、リリアンヌお姉様のお話も興味深いものでは……」
「ごめんなさいねレティシア。残念なことに私は日ごろからお義母様と恋のお話をしているから……目新しいものがないのよね」
それなら仕方ない、私が話すべきなのだろう。そう判断すると、正直に現状の関係を話した。
「といっても私の話も目新しいものはないのですが……仲はとても良好です。とてもよくしていただいて。常にエスコートしてくださいますし、気にかけてくださいます。不満みたいなものは一つもないです。……ですが、不安があるとしたら、もらってばかりで返せていない点かなと」
恥ずかしくなりながら語れば、夫人は興味深そうに頷いてくれた。
「不満がないのはいいことね……! それにしてもわかるわ、レティシアちゃんの気持ち。贅沢な悩みだとわかっていても、気になっちゃうのよね」
「そうなんです……! もしかして夫人もご経験が?」
「えぇ。私もフェルクス大公家に来てばかりの時は、レティシアちゃんのような気持ちになっていたわ」
「どうやって悩みを解決されたんです?」
「意外と簡単よ! もらってばかりなら返せばいいの。ありきたりな案だと贈り物とか、想いを言葉にするとかね」
「なるほど……! 勉強になります」
気が付けば恋バナから一転して、エスティーナ夫人の恋愛指南になってしまった。
「リリーちゃんは? レティシアちゃんみたいな悩みはないの?」
「そうですね……私は、リカルドが危ないことをしすぎるのが不安なくらいです。立場上わかる分、もどかしくて」
「リリーちゃん……」
話の流れに乗って軽い声色と明るい表情で語るリリアンヌ。しかし、心の声を吐露しているようにも見えた。エスティーナ夫人も同じことを感じたのか、心配そうにリリアンヌを見つめていた。
「それはもう、リリアンヌが信じるしかないでしょうね」
「お姉様」
「もどかしいとわかっているなら、止められないともわかっているはず。それならできることとしては、信じて待つのみよ。大丈夫でしょ、フェルクス大公子が優秀なのはリリアンヌが一番知っているんですから」
真っすぐな言葉は、聞いているだけの私の胸にまですとんと落ちた。ベアトリスの言葉を聞いた途端、リリアンヌは笑みを深めてベアトリスの方を見た。
「お姉様。素敵な助言、心に染みましたわ」
「そう、よかったわ」
「まるで恋愛経験者のように説得力がありましたわ。……もしやお姉様、やはり想い人がいるのではなくって……⁉」
はっとした顔でベアトリスに話を振る様子から、やはりリリアンヌは演技者だなと思わされるのだった。
「そうなの、ベアトリス?」
「えっ、だから違いますって――」
「でもリリーちゃんの言う通りだわ。確かに説得力の強いお話だったわ」
「そうですよね、お義母様」
うんうんと頷くリリアンヌは、再びエスティーナ夫人と一緒にベアトリスに畳みかけるのだった。
(……リリアンヌお姉様、ベアトリスお姉様の言葉が嬉しかったのね)
話を振ったあの演技が、照れ隠しだったのは恐らく私しかわからないだろう。
その後も、恋バナを挟みながら和やかに女子会を進めるのだった。
▽▼▽▼
ここまでお読みいただき誠にありがとうございました!
皆様に少しでも楽しんでいただけますと幸いです‼
最後に少し宣伝を……!
2巻記念SS「賑やかな女子会」はいかがだったでしょうか。こちらの別視点として、「番外編 秘密の男子会」を『姉に悪評を立てられましたが、何故か隣国の大公に溺愛されています』の2巻電子版の特典SSと書かせていただいております! よろしくお願い致します。
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