第5話

 わたしの名前はシンデレラ。

 あの童話のように今日、王子様と結婚する。

 きっと、世界で一番幸せなはず。あれから数年間、愛想をつかされることなくずっと想い続けられていたのだから――

「――王妃様」

 気が早いことに、侍女がそう呼びかけて持ってきたのはお祝いの品だった。

「こちら差出人が『シンデレラの魔法使い』となっているのですけど、どうされますか?」 

 ふざけた名前だから、悪戯の可能性を疑っているのだろう。だけど、わたしにはそれが誰かわかった。

「開けてちょうだい」

「まぁ、可愛らしい!」

 侍女が感嘆の声をあげる。箱から出て来たのは1体のビスクドール。

「王妃様にそっくりですね」

 見覚えのあるドレス。だけど、その表情は初めて見るものだった。

「そのネックレスは?」

 そして、あの夜には付けていなかったアクセサリー。そこには宝石が7つ飾られていた。

 ダイヤ、エメラルド、アメシスト、ルビー、エメラルド、サファイア、トパーズ。

「この宝石は本物でしょうか?」

 侍女は気づいていないようだが、お城で教育を受けたわたしにはその意味がわかった。

「……最愛の人ディアレスト

 貴族たちの間で流行っている宝石の頭文字で伝える言葉メッセージジュエリー

 でも、どうして親愛を意味するREGARDリガードではなく、最愛を示すDEARESTディアレストなのだろうか?

「どうされました!?」

「……え?」

「その……泣いておられますよ?」

 指摘され、自分の涙に気づく。

 だけど、気づいたところでどうしようもない。

 今更こんな物で伝えられたとして、どうすればいいと言うの? 

 あの頃のわたしは確かに恋をしていた。この人形の顔を見ればわかる。勘違いなんかじゃない。

 そして、もしかすると今のわたしも……

 ――だけど、この恋は叶えちゃ駄目だ。 

「これは……嬉し涙です」

 だから、わたしはあの時と同じように誤魔化すのだった。

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シンデレラ・ビスクドール 安芸空希 @aki-yuu

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