この瞬間をフィルムに

2つの意味で初めてだったと思う。

 初めて彼の顔をあんな近くで見た。

 もう1つは…恥ずかしくて言いたくない。

 なんで彼はあんなことしたんだろう。人いなかったとはいえ…しかもなんで私なんだ…彼にはもっといい人がいるだろうに。

 しかも「七海ちゃん…これ皆には内緒だからね!」とか言った後に顔が真っ赤になって立ち去って行った。彼があんなに照れるなんて…彼も初めてだったのかもしれない。そうなると尚更その相手が私というのがわからない。それも名前呼び!こっちが恥ずかしくなるじゃないか。

 そうなのだ。恥ずかしいのだ。今は彼と顔を合わせそうにない。しかしそれでもいつも通りにグラウンドに足を運んでしまう。今日も彼はカッコいい。

 カメラに彼が映る。なぜか口元を意識してしまう。多分あんなことをされたせいだろう。

 ああいうことをしたってことはさ私達もうカップルなのかな。だってあんなの告白同然じゃん。しかも「七海ちゃん」って…嬉しいけどさ…びっくりしたじゃないか。こんなの皆に知られたらなんて言われるだろう。

 そんなことを考えてるうちに練習が終わった。彼が向こうから近づいてくる。気のせいか顔が赤く見える。

 「き,昨日はごめん…あんなことして…」

 「なんであんなことしたの?」

 「そんなの決まってるじゃん」

 気が付くと彼の手が私の背中に回ってた。

 「好きだから。七海のことが。」

 どこかでその言葉を期待してたのかもしれない。けど私はまだ受け身のままでいる。私から動く。そう初めて思えた。

 「宏樹君…私も好きだよ!」

 そう言って私の顔を彼の顔に近づけた。彼の顔が真っ赤になる。私はその顔を見て彼に微笑んだ。今までで1番いい表情だった。

 今まで取った彼の写真は何枚あるだろうか。そのフィルムに映っていたのはもちろん彼だけ。私が映るなんて思いもよらなかった。

 彼の写真だけでアルバム1冊行くかもしれない。

 2冊目は,いや2冊目以降は私と彼の2人の写真で埋め尽くそう…

 

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フィルムに映る君がいい @orangenius

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