ランニングデート

 「試合に来てって言われた?!」

 「ちょっ…声が大きいってば…」

 試合に来てなんて言われたら困ってしまうじゃないか。しかも「とにかく来て」とか理由すら言ってくれないし。本当に困ってしまう。確かにうれしいのだ。それはもう明らかな事実だと言っていい。けどもやもやする。なんで誘われたのかわからないのだ。

 言われたあの日からその言葉が頭にすく浮かぶようになって離れない。やばい…完全に意識してしまっている…試合当日どんな顔して会えばいいのか。

 気づけば試合は明日だ。もう眠れそうにない。いっそのこと「行けない」といった方が良い気もしてきた。実はこの間ラインを交換したのだ。もうここで「行けない」と言ってしまおう。

 ちょうどその時ケータイが鳴った。噂をすればなんとやら。彼からだった。

 「明日の試合,写真楽しみにしてるからね!」

 なんだそれが理由か。しかしこれは困った。これはもう行かなくちゃならない。彼の期待を裏切るわけにはいかない。それに…最近やっと彼のことを真正面から見られるようになった気がする。最近は彼と話すのが楽しい。

 でも勘違いしないでほしい。付き合いたいとかそういうわけではない。彼が他の女の子と楽しく過ごしてる姿を見ても別に嫉妬とかしない。むしろ彼の笑顔を見ることでこっちが嬉しくなるのだ。

 そんなことを考えてるうちに試合の時間が来た。私はいつも通りカメラを構える。しかしいつもと何かが違う。手が震える。こんな事今までなかったのに。

 そんな時だった。背中がポンと押された。彼だった。「緊張しなくていい。いつも通り撮ればいいから。」

 今までの私ならどう返しただろうか。でも今私は「うん!」という言葉を即座に返すことが出来た。

 試合が始まった。彼が魅せる。私はそれを追いかける。もう一緒に走っているようだった。今までで最高の写真を撮ることが出来たと思う。

 試合後彼に写真を見せに行った。彼は一人でベンチにいた。私がそばに近づいたとき彼は両手を私の肩に乗せた。

 こんなにも彼の顔が近づいたのは初めてだったと思う。

 こんな私でよかったのかな…

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