41,最終話

 私とミチカが握手をしている中、クラス投票の司会をまかされているムラタが声をあげた。

「さあ、男女の一位が決まったわけだし、お約束のお披露目といきましょう!」

 誰かがすかさず、座布団のような小さなじゅうたんを持ってきた。

「さあ、レン、アオイ、二人でこのじゅうたんに乗って、映画アラジンのワンシーンを再現してくれないか」

 もうこうなったら、あとは余興である。

 私とレンがムラタに代わって教壇に立つ。そしてそこに敷かれてあるじゅうたんに立つ。

「立つんではなく、膝をつけて座るんだ!」

 生徒たちのうれしそうな声に従い、私とレンはじゅうたんに座る。

 せまいじゅうたんに二人が座るわけだから、もうお互いぎりぎりまで近づかなければいけない。

 でも、みんなの手前、あまりひっつきすぎるわけにもいかない。

 私とレンの間には微妙な距離が生まれた。

「さあ、浮遊術で飛んでくれ!」

 生徒たちの注文が入り、私たちは息を合わせて浮遊術を行う。

 風魔法独特の空気のうずが生まれると、ゆっくりとじゅうたんが浮かび上がる。

「おおっ!」

 生徒たちから声がもれる。

 一人の男子が杖を持ちながら立ち上がった。

「じゃあ、世間の厳しい風を吹かせるよ!」

 そう言って、杖を振る。

 とたんにじゅうたんに向かって強風が吹きはじめた。

「あっ」

 宙に浮かぶじゅうたんが揺れ、私とレンはバランスを崩す。

 すばやくレンが怪我をしていない左手を使い、私の腕を支えながらバランスをとる。

 私とレンの間にあった微妙な距離が、いつの間にか完全になくなってしまい、二人はぴったりとくっついてしまっていた。

「ヒュー、ヒュー!」

 生徒たちの冷やかす声が聞こえてきた。


  ※ ※ ※


 後日、電車とバスを乗り継いだ私は、お母さんのお墓に向かっていた。

 隣にはおばあちゃんがいる。

 今回のお墓参りでは、いろいろとお母さんに報告することがある。

 まずは無事におばあちゃんが退院できたこと。

「あの世で、ご先祖様とユキコが守ってくれたから、後遺症なく戻ってこられたんだ」おばあちゃんは事あるごとにそう言っている。

 そのお礼をお母さんに伝えるためのお墓参りだ。

 そして。

 私はわざわざお墓に一枚の紙を持ってきていた。

 ただの紙ではない。

 それは、算数の答案用紙だった。

 大きく書かれている点数は八十五点。

 クラス投票が終わったときから、私は毎日レンといっしょに勉強を続けた。その結果がこれなのだ。

 この答案用紙をお母さんに見てもらって、無事に特待生になれたことを報告しないと。

 私はゴムまりのように飛び跳ねながら墓地の中を歩いていた。

 もうすぐ、お母さんのお墓にたどり着くと思ったそのとき、私は意外な人たちと出会うことになった。

 なんと、お母さんのお墓で手を合わせている人たちがいたのだ。

 間違いない。

 じっと手を合わせ目をつぶっている二人は、トノザキ先生とアキコさんだった。

 手を合わせ終わった二人が振り返り、私たちと目が合う。

「あら、アオイちゃん、偶然ね」

 アキコさんがやや驚いた顔でそう言う。

「どうしたんですか、二人そろってお母さんのお墓にくるなんて」

 私は率直に聞く。

「うん……」

 トノザキ先生が何かを言いよどんでいる。

「これも、ユキがアオイちゃんたちと会うように仕向けてくれたのかもね」

 アキコさんはそんなことを言うと、あっけらかんとしながらこう続けた。

「実は、私とトノザキ君は結婚することになったの。その報告をユキにしてたんだ」

「ええ! け、け、結婚!」

 私は単純に驚きの声をあげる。

「それはおめでとうございます」

 おばあちゃんは特に驚きもせず、穏やかな笑顔でそう言った。

「ありがとうございます」

 トノザキ先生はそう言うと私の方を向きこんなことを言ってきた。

「アオイは私たちの結婚のこと、どう思う?」

 どうって……。

 私は素直な感想を述べた。

「お似合いの二人だと思います。お母さんもきっと喜んでいるはずです」

「そうかい。ありがとう」

 トノザキ先生はどこか遠くを見るような目をしながらそう答えたのだった。


 雲の谷間から太陽が姿を見せ、私たちを照らしはじめた。

 特待生になって魔法が続けられる私、後遺症もなく退院できたおばあちゃん、結婚することになったトノザキ先生とアキコさん。

 お母さんに代わって、明るい太陽が私たちをあたたかく祝福してくれているように思えた。



(了)

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好きこそ魔法の上手なれ 銀野きりん @shimoyamada

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