おてがみかきました

尾八原ジュージ

だいじにしてね

 アパートに帰ると、ポストに手紙らしきものが入っていた。

 切手が貼られていない。どうやら直接投函されたものらしい。かわいらしいウサギの柄の封筒に、幼い子供のようなたどたどしい筆跡で宛名が書かれている。その名前は確かに自分のものだが、こんなものを受け取る心当たりがない。とにかく封を開けてみると、

「おてがみかきました おまつりたのしかったね うみたのしかったね はなびたのしかったね またいこうね おてがみだいじにして」

 とある。

 やっぱり心当たりがない。

 確かにこの夏、祭りにも海にも花火大会にも行きはしたけれど、気心の知れた友人が一緒で、子供などはいなかった。

 きっと人違いだろう。そう思ってその手紙は、集合ポストの下に設置されているゴミ箱に放り込んだ。


 鍵を開けて部屋に入ると、玄関マットの上に可愛らしい封筒が置かれていた。開いてみると、

「おてがみかきました おまつりたのしかったね うみたのしかったね はなびたのしかったね またいこうね おてがみだいじにして」

 先程のものと寸分変わらない。

 気味が悪いのでもう一度捨てることにした。近所のコンビニまで歩いていって、燃えるゴミのゴミ箱に放り込む。それからまっすぐ帰宅し、玄関を開けた。

 玄関マットの上に手紙はない。

 ほっと溜息をついた。そもそも手紙が勝手に戻ってくるなんて、そんなバカなことがあるはずない。自分の臆病さを笑いながら靴を脱いだ。

 その瞬間、足に違和感を覚えた。

 脱いだ靴をひっくり返すと、くちゃくちゃになったウサギ柄の封筒が出てきた。


「おてがみかきました おまつりたのしかったね うみたのしかったね はなびたのしかったね またいこうね おてがみだいじにして」


 おてがみだいじにして、の箇所が、黒い鉛筆でぐるぐると囲まれている。


 捨てるとまた戻ってきそうだし、誰かに怒られそうでもあるので、以来その手紙はずっと抽斗の奥に仕舞っている。

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