一緒にいれば楽しくて、共に過ごした毎日はかけがえのないものだった
- ★★★ Excellent!!!
カクヨム甲子園2022 ショートストーリー部門
奨励賞おめでとうございます。
テセウスの船をモチーフにしたSF。
「物の構成要素すべてを一つ残らず新しい部品へ置き換えた場合、それは以前のものと同一物といえるだろうか、あるいは全くの別物というべきだろうか」という問題のこと。
同じといい切れるかどうかは、当人ではなく、受け手がどう判断するかで決まる。故に、受け手次第と考える。
気にしなければ、それで済む話だし、気になるなら受け入れられないのだ。
本作もまた、夫人は受け入れられなかったのだ。
どんなに機械で似せても、所詮はコピー。
オリジナルではない。
記憶は脳だけではなく、他の臓器や細胞にも宿るという考え方がある。
夫人にとってはナサニエル氏は、残った人間の部分の右手だけ。
機械の部分に、夫を取られたも同然。
だから壊して、本当の夫を取り戻したのだろう。
夫人が数カ月後に壊したのは、四十九日を迎えて夫は死んだのだと、気持ちの整理がついたからかもしれない。