【短編】ラブコメ主人公は同じラブコメ主人公に言い寄られています
空廼紡
ラブコメ主人公みたいになりたくなかった
突然だが、僕は女子というものが苦手である。
はじめまして、
変わった名前ですよね、はい。親が三国志が好きなもんで、三国史に出てくる武将、
なんと微妙な優しさ。その気遣いは、一つ前のステップ、そうそう、名付けの時点で使ってほしかったと複雑な思いですよ。りくそん、なんて名前がそもそも日本人に馴染みないからね。
まあ三国志好きな人から話しかけてくれるし、先生も「歴代のキラキラネームに比べたら充分にキラキラネームじゃない」って死んだ目で語っていたので、
ていうか先生よ、先生が遭遇した凄いキラキラネームってどんな名前? そこが気になるよ。まあ死んだ目をしていたから、訊きたくても訊けなかったけど。
まあ、最初に女子が苦手になったのは、その名前のせいでもあるけど。
『りくそんなんて、へんななまえー』
と、最初に言われたのは僕がまだ幼稚園児の頃だった。同じ組の、かなり我の強い女子に言われたのが切っ掛けだ。
まあそれだけだったら、女子を苦手に思わない。もちろん、その後がいけなかったのだ。
その女子は僕に度々ちょっかいを出し、僕が泣いて、止めてと言っても止めず、むしろエスカレートした。ついにはジャングルジムでわざと僕を落としたんだ。
当然僕は怪我をし、大問題になった。
一応謝ってはきてくれたが、それはご両親だけで本人は不貞腐れていたのをよく覚えている。
今でも、あの女子が僕をジャングルジムから落としたときの、あの
謝られても、僕がトラウマになったのは変わりなく、その後は僕がその女子を怖がって大泣きするもんだから、僕たち家族は引っ越しをすることになった。
あとその女子に限らず、あの女子と遊んでいた女子たちも我が強くて、よってたかって僕を責めた。
『おんなのこをなかすなんて、さいてー』
『 ちゃんのきもちもわかってやってよ』
『りくそんくんも ちゃんにあやまってよ』
意味が分からない。当時も分からなかったけど、今でも意味が分からない。泣かされたのは僕のほうだ。ジャングルジムから落とされたのも僕のほうだ。解せぬ。
複数の女子からよってたかって責められて、怖くて泣いてガタガタ震えていた。
先生が少し席を外していて、その場にいなかったから止める人がいなくて。味方がいない、と思っていたら。
『なんでりくそんが、あやまらないといけないわけ?』
一緒に遊んでいた男の子が庇ってくれた。
僕の前に立って、僕の代わりに女子たちに立ち向かってくれた。
その後は覚えていないけど、その子のことは今でも感謝している。会えなくなったのが今でも残念に思う。
以来、僕は女子という生き物が苦手になった。とくに集団で行動する女子。遠目見ただけでも逃げたくなる。
それなのに。
「りっくそ~~ん! 今から帰るの? これからゲーセンに行こうよ!」
「はぁ? なに言っているの? 陸尊はこれからあたしとパフェを食べに行くの!」
「後輩ちゃんも勝手に決めないの。陸尊君はこれから私と図書館よね?」
「先輩も勝手に決めないでくださいよ~! 戸塚先輩はこれからわたしとカラオケに行くんですよ!」
「なにちゃっかり密室に連れ込もうとしているのよ!」
なんで、なんで。
なんで見事にキャラが被っていない、キラキラの美少女たちに絡まれるの!!??
ほんと、分からないよ。この四人の共通点といえば、一対一で話したことがあることくらいで、なぜかその後に絡まれるようになったんだ。
一対一ならまだなんとか話せるんだけど、こんな風に集団で話しかけられると声が出なくなって会話が成り立たなくなるし、足が震えてしまう。多分足だけじゃなくて全身ガタガタ震えていると思う。
この集団から離れたいのに、逃げようとしても追いかけてくるわ無理矢理引き留められるわで、もうどうしたらいいんだ。
どれだけ地獄かっていうと、最初は「ラブコメの主人公みたいでうらやま」って大層悔しそうで悪い方の絡み方をしてきたクラスメイトが、女子たちに絡まれるたび悪くなっていく僕の顔色を見て、「うんまあ、その、ドンマイ」って慰めてくるくらい。
おかげで美少女に囲まれているからって、イジメもされていなければやっかみも全くない。むしろ、たまに助けてもらっているほどだ。そこに関しては有り難いことに平和だ。根は良い人が周りにたくさんいて、ほんと助かるよ。
見かねて美少女たちに苦言を呈してくれた人がいるけど、まったく聞いてもらえなかったから、大抵の人は同情してくれている。僕が引きこもりになっていないのは、そういう人たちが多いからだと思う。
なんでこの四人は、身長が低くて地味な僕に絡むんだ。絡むんなら、学校一のイケメンに絡んでほしい。そのイケメンも羨ましそうに僕を見ていたよ。けど最近は、お菓子をくれるようになったよ。お菓子は美味しいけど、ついでに引き取ってもらいたかったなぁ!
早足で集団から離れようとするけど。
「あ、陸尊、先に帰ったらだめ!」
って、すぐ気付かれる。なんでこうも目ざといんだ……! まあ、今まで色々な手で逃げてきたから、あっちもレベルが上がったんだろうな。他の方法を考えないといけない。
もう近寄らないでって言えたらいいけど、怖くて声が出せないから出来ない。だから早くこの群れから離れたいのに。
無視して去ろうとしても、僕の無言の拒絶なんてその。わざとなのかそれとも本当に気付いていないのか、僕の後を追いかけようと皆揃って僕に付いてこようとする。
「もう陸尊、無視しないでよ~。照れているの~?」
照れていません、怖いだけです。
「先輩、待ってくださいよぉ。先輩たちなんか放っておいて、わたしと一緒にカラオケ」
「だーかーらぁ! 密室で二人っきりになろうとするんじゃないの!!」
「それなら皆で行った方がいいんじゃないかしら?」
「えぇ。わたしは先輩と二人っきりが」
「肉食獣のアンタと陸尊を二人っきりにさせるわけがないでしょうが!」
「こらこら。喧嘩はダメよ?」
喧嘩してて良いから帰ってもいいかな。あ、家まで付いてこられたらダメだ。家がバレたら押しかけられる。この人たち、人の都合を考えてくれないから朝待ち伏せされる可能性が……。どうしたらいいんだろう。
ていうか、あっちからすれば無視されているっていうのに、なんでめげずに話しかけてくるんだろう。僕だったらすぐ心が折れる。メンタルが鋼並みなのかな? そういうところはまあ見習いたい、かも?
走ろうか。でも陸上部の人がいるし追いつかれそう。あれ? この人部活はどうしているんだろう? ここ毎日のように放課後は僕に付き纏っているような気がするんだけど。
突っ込みたくなるけど、なんか心配してくれた、とか勘違いされそうだから指摘しないけど。女子ってほんと面倒くさい。いや、これは女子は関係ないよね。自分の都合の良い解釈をするのは、男女関係なくその人の性質の問題だよね。
現実逃避。
とりあえず、この人たちから撒く方法を考えないと。
考えている間にも信号に差し掛かってしまった。赤だ。点滅していたらワンチャンあったのに。
立ち止まっていると、女の子たちが僕に話しかけてくる。僕は相打ちすら打てず、ただ信号が青になるのを待っていた。
すると、横から騒がしい声が聞こえてきた。
「だ、か、ら! しつこいって言っているだろ!」
男の人の怒声だ。思わずビクッと肩が震えた。怖いなぁ。
「えーいいじゃん。エリと一緒に遊ぼうよ~」
「いいえ! 私と一緒にお勉強をしましょう!」
「あらあら、お堅いこと。それよりもワタシと一緒にイイコトしましょ?」
「アンタが言うといかがわしいわ!」
けど、その後に続く甘ったるい女子の声で怖さが薄れた。女子と一緒に居るからじゃなくて、まだ姿は見ていないけどその男の人に親近感が湧いたからだ。
ああ、僕と一緒でハーレムに悩む人がいる。分かるよ、すっごく煩わしいよね。でも、すごいなぁ。僕と違ってハッキリ言うんだもの。けど、女子たちには効果がないようだ。
ああ、八方塞がりな感じ、すごく分かる。
つい好奇心が湧いて、隣を
そこにはこれはまた四人の美少女に囲まれた、イケメンの男子がいた。タイプでいうと、ワイルド系かな? 髪の色は金髪に近い茶色? 何色って表現したらいいか分からない。ワックスで固めた感じのツンツンとした髪型に、耳には一つのピアス。端正な顔立ちだけど目が吊り上げていて、ちょっと怖い印象がある。制服の着崩しもちょっと不良っぽい。
あ、でも制服は僕が通っている高校よりも偏差値が高い高校のやつだ。頭が良いんだろうな。たしかけっこう服装に関しての校則が緩いっていう話だから、お洒落でしているだけかもしれない。
その人はうざったいっていう顔を前面に出して、自分に群がっている女子の群れに真っ向から戦っていた。
すごいなぁ、憧れるなぁ、その姿勢。僕も立ち向かう勇気、というかその前にトラウマを克服したい。
ぼんやりと眺めていると、男子がこちらを見た。
目が、合う。
あ、やば、見過ぎたかな。
焦ったけど、男子は僕を
「…………ん?」
男子、もといイケメンが首を傾げて、半眼で僕を見据える。
え、なに?
戸惑っていると、イケメンがこっちに近付いてきた。どんどんと顔が近くなっていく。
なんか周りがざわついている。なんかこっち側の女子が
目前までイケメンが僕の顔に近付いて、そのまま止まった。
え、なに、この状況。
「あ、あの」
「お前、陸尊か?」
「え」
どうしてこのイケメンが僕のことを知っているんだ?
「陸尊、知り合い~?」
僕側のハーレムの子が僕に訊いてくる。
するとイケメンがぱあっと顔を輝かせた。
「やっぱり陸尊だっ! うわっマジで嬉しい!」
「あの、えっと……」
「ほら、俺だよ、幼稚園途中まで一緒だった
イケメンが自分に指を指しながら、興奮気味に自己紹介をする。
コウ。その名前を聞いて思い出したのは、ある男の子のこと。
例のトラウマ女子がいた幼稚園に通っていたとき、同じ名前の男の子とよく一緒に遊んだ。当時の一番の友達といっても過言じゃない。
トラウマ女子たちに責められたときに、真っ先に僕のことを庇ってくれたのもその子だ。
だいぶ記憶が薄れているけど、いわれてみれば面影があるかもしれない。
「えぇ!? コウ君? 久しぶりだね!」
「ああ、覚えてくれていたか!」
「もちろんだよ。一番一緒に遊んでいたんだから」
「もうマジで嬉しいなぁ。また会えてよかったよ。もう会えないかと思っていた!」
「うん、僕もまた会えて嬉しいよ」
僕ももう会えないかと思っていた。それがこんなところで再会するなんて。
「そんな人放っておいて、行こうよ~」
コウ君側のハーレムの一人が、コウ君の腕を引っ張る。多分、好きな人が自分以外に笑顔を見せるのが面白くないんだろうな。さっきの様子だと仲良くなさそうだったし、自分に見せない表情だったから尚更なのかな。
その子と目が合った。
するとコウ君がその手を乱暴に振り払って、その子を睨み付けた。女の子が
「触るな。そういうの嫌いだって、何度言えば分かるんだ。気持ち悪い」
「きも……っ!?」
腕を絡んでいた女の子が
「ちょ、いくら田原君でもそれは酷いのでは!?」
一番真面目そうな委員長風の女の子が、コウ君に抗議する。
「酷い? 俺はな、何十回も言ったぞ。触れられるのは苦手だから止めてくれって。でも止めてもらえなかった。それどころか触る回数が増えた。これって嫌がらせだろ? 嫌がらせに切れて何が悪い?」
「そ、それは、航が照れているから」
「照れていないし、むしろ不愉快で吐きそうだったんだけど? 俺はちゃんと嫌だから止めろって言ったのに、なんでそう思ったんだよ。顔が赤くなっていたんならともかく、俺あの時、自分でも分かるほど嫌悪感滲み出ていた顔をしていたと思うんだけど? お前の目は節穴か? 観察力なさすぎ。ああ、そうかそうだよな、自分の都合の良い解釈しかできないんだもんな。あと名前呼びも止めろって言ったよな? いい加減人の話を聞きやがれ。あとお前たちも同罪だからな。私は違うなんて思うなよ。近付くなって言っても聞かなかったからな。やかましいって言ってもギャーギャー騒いでほんとうざい。なに? 男は女にちやほやされるのに弱いって思っているの? はっ。こっちだって選ぶ権利あるわ」
一気にたくし上げるコウ君に、コウ君側だけじゃなくて僕側の女子たちもたじろぐ。
色々と溜めていて、今爆発したのかな? すっごい声が低いし、刺々しい。
でもコウ君は相変わらず、ズバズバと言うなぁ。幼稚園児の頃もそんな感じだったし、三つ子の魂百までって本当のことなのかもしれない。
なんて思っていると、コウ君がぐるりとこっちに振り向いた。
「それからお前らも!」
僕側の女の子たちに向かって指を指す。いきなり指された女の子たちが驚きの声を上げた。
「わ、わたしたち!?」
「お前たちもコイツらと同じだからな」
「あ、あたしたちもそっちと同類ってこと!? なに訳分からないこと言っているのよ!?」
「そうですよぉ! いつわたしたちが先輩に迷惑かけたというんですかぁ?」
「そうよ。会っても間もないっていうのに、失礼するわね」
「名誉毀損よ! 謝りなさい!」
僕側の女の子たちが騒ぐ。
「名誉毀損? はっ」
コウ君が鼻で笑ったあとに。
「名誉毀損のことをちゃんと調べてから言え」
吐き捨てながら言った。
「さっき聞こえていたが、カラオケに行こうって誘っていたよな?」
「そ、それがなによ」
誘ってきた後輩がたじろぎながらも、強気な態度を崩さず応じる。
「顔が真っ青な陸尊をカラオケに誘う? 普通ならカラオケに誘わず、心配するだろーが」
後輩だけじゃなく、他の人たちもハッとした顔になって一斉に僕に振り返る。
えぇ……もしかして皆、僕が顔色悪いの今気付いたの? まあ、うんそうだね。今まで指摘されなかったからね。うん。
「自分の都合の良い方に解釈するのは、お前たちも同じだろ。それなのに自分たちは違うって顔すんな。腹立つ」
女の子たちに対して舌打ちをすると、コウ君が僕に向かって手を伸ばしてきた。その手は僕の肩を抱き、そのままコウ君のほうに引き寄せられた。久しぶりのコウ君の手は、ごつかったけれど、それとは裏腹に優しい手つきだった。
「陸尊を家まで送るから、とっとと散れ」
「なっ、それならあたしたちが」
「お前たちに送られたら、陸尊の顔色がさらに悪くなるだろーが。お前たちが原因だってこと、いい加減気付け」
「は」
素っ頓狂な声が聞こえる。顔は見えないけれど、多分ぽかんとしているんだろうなぁ。自分たちが原因だって、露とも思ってなさそうだし。
「ちょ、航くん。わたしたちは?」
「そうそう! その人を一人で帰らせて、エリたちと一緒に遊ぼうよ~」
「お前らよりも陸尊を優先するのは当然だろ」
「なっ」
コウ君側のハーレムがまたしても絶句している。
コウ君はヒヤッとするような冷たい声色で、ハーレムたちに告げた。
「お前らは俺の友達でもましてや恋人でもない。ただ付き纏っているだけの他人だ。むしろ嫌いの分類に入る。それと旧友の陸尊、どっちを優先するのかなんて分かりきっているだろ」
ちらっとコウ君側のハーレムの顔を見ると、皆青ざめていて中には涙を浮かべる人もいた。
ハッキリと嫌いって言われたから仕方ない。同情はしないけれど。
「行くぞ、陸尊。信号が赤になっちまう」
「あ、うん」
コウ君に促されて、横断歩道を渡る。僕たちが渡りきったところで赤になって、後ろで車の音が聞こえた。
彼女たちと離れて安堵していると、コウ君に小声で話しかけられた。
「アイツらが見えないところまで走るぞ。いけるか?」
そうだ。さっきの言葉で固まっているだろうけど、そこは鋼メンタルな女子たちのことだ。青信号になった途端にこっちに来るかもしれない。
彼女たちから見えないところまで移動しないと、すぐ追いつかれてしまう。幸い交通量が多いから、ちょうどいい目隠しになっている、と思う。姿が見えなくなったら、いくら陸上部だろうと追ってはこれない。うん、多分。
「う、うん。大丈夫」
頷くと笑った気配がした。
「よし、それじゃ走るぞ」
その声と同時に、コウ君の手が僕の肩から手に移動して、ぎゅっと握られた。
そのままコウ君に引っ張られ、走り出す。
青信号になるまで時間はあまりない。急がないといけない。
コウ君とは身長差があるから、大股で走る。ついていくのに必死で道とか考える余裕はない。全部コウ君に任せる。
彼女たちから逃げるために、角を曲がって曲がって。もうどこら辺を走っているか分からない。
しばらく走り続けて、コウ君がやっと止まった。
「ここまで走れば大丈夫だ」
「ぜー……ぜー……」
そうだね、と返事をしたかったけれど悲しきかな、運動が苦手な僕に長い猛ダッシュはきつくて息切れを起こしてしまった。
心臓がバクバクするし、しばらく治まりそうにない。ああ、早くコウ君と喋りたいのに。早く息を整えないと。
「大丈夫か?」
「ぜぇぜぇ」
「慌てなくてもいいから、ゆっくり呼吸、な」
労りながら、コウ君が背中を摩ってくれた。慌てて息を整えようとすると、耳元でコウ君が、ゆっくりと囁いてくる。手も声も優しくて、徐々に息も心臓も落ち着いてきた。
「ふぅ……」
「落ち着いたか?」
「うん。コウ君、ありがとう」
「ん?」
コウ君が首を傾げる。
「僕のこと、助けてくれてありがとう」
「ああ、それか。どういたしまして」
「へへ、でもなんか少し情けないや。あの時と同じで助けてもらって嬉しいけど、僕って成長していないなぁ」
女子の群れに責められ、怯えることくらいしか出来なかった頃から大分経っているのに、根本的に変わっていなくて少し凹む。
コウ君のように、
「あの時……ああ、あのキチガイ女と取り巻きのことか」
「あ、あの子たちのことそう呼んでいたんだ」
「キチガイだろ。あの後も性格が改善されなくて、とうとう逮捕されたらしいし」
「ええ!?」
さらりと新事実を告げられて、すごく驚いた。
いや、あのままだったら問題起こしそうだなって思っていたけれど!! まさか逮捕されるようなことをしちゃっていたんなんて予想外だ!
「え、なにしてそうなったの?」
「ああ、男を階段から突き落としたとかで」
「びっくりするほど変わっていなかった!!」
そりゃ逮捕されるよね! 一四歳から逮捕できるって聞いたことあるし!
「幼稚園児の頃は、善悪も分別できないからって甘く見られていたけど、さすがに高校生になってそれは悪質だっていうことと、精神的に問題があるからって問答無用で精神病院に送られたらしいぞ」
「あ、少年院じゃなくてそっちに送られたんだ」
精神病院かぁ。少年院よりか出づらいイメージがあるけれど、どうなんだろう。
でも会う可能性が減って、安堵している自分がいる。あの子が目の前に現れたら、パニックになるだろうから、こうして精神病院に送られたっていう情報を得ることが出来てよかった。
「なあ、陸尊。お前やっぱり、あのキチガイのこと、トラウマになっているのか?」
「え、どうして分かったの? エスパー?」
「エスパーじゃない。お前、なんか体調が悪いっていうより女子に怯えていたように見えたから、もしかして、とは思っていた」
「コウ君はすごいなぁ……」
久しぶりに会った友人にその観察眼。本当にすごい。僕じゃ無理だ。僕は分からなかったのに、コウ君は少し僕の顔を見ただけでも僕だって分かってくれた。観察力だけじゃなくて記憶力もいいとか。
あれ、コウ君ってけっこうスペック高いのでは?
「よし、陸尊。連絡先を交換しよう」
前振りもなくそう言われ、目を丸くした。
「え、突然だなぁ。嬉しいけど、なんで?」
「陸尊ともっと話したいのと、女避けのためだ。帰りは一緒に帰るぞ」
「え? 一緒に帰ってくれるの?」
それは有り難い。ハーレムたちのせいでずっと友達と一緒に下校できなかった。
以前同じ帰宅部仲間が陸尊を気遣って「オレたち一緒に帰るから」と、僕と一緒に帰りたがるハーレム達に言ったことがある。
このとき、僕たちは多少不満げでも引いてくれるって思っていたんだ。だが、そこは我が儘ガールたち。そんなことはなかった。
なんと
何回か試みたんだけど、全部押し切られて諦めた。帰宅部仲間も申し訳なさそうにしていた。
コウ君なら追い払ってくれそうだ。だけど、ここまでしてくれていいのかな?
「迷惑じゃない?」
「全然」
コウ君が首を横に振った。
「遠慮しないで俺に頼れ。いいな?」
「ありがとう、ほんっとうにありがとう……っ!」
周りにトラウマのことは話せないから、トラウマのことを知っていてかつ理解がある航の存在が有り難くて、思わず涙ぐむ。
友達には言おうと思ったのだが、どこからか漏れてトラウマのことが女子達にバレたら「わたしたちで克服すればいいじゃない!」と押しかけてくる可能性が高かったからカミングアウトする勇気がなかった。
「なんだか僕ばかりしてもらって申し訳ないなぁ。コウ君も僕に出来ることがあったら言ってね」
コウ君に比べたら頼りがいがないし、ひょろいし、頭もそこまでよくない。だから、僕に出来ることは限られているけど、十年以上会っていなかった僕にここまで心を砕いてくれるコウ君に何かしてあげたい。
「そんなの気にするなって。俺がしたいからしているんだし。でもまあ、強いて言うなら今度遊びに行かないか?」
「え、それは全然良いけどそんなんでいいの?」
「いいんだよ。陸尊と沢山一緒にいたいし」
さらりと言いのけられた言葉に、顔が熱くなる。
い、いくら僕が男とはいえこんなイケメンにイケメン発言をモロに喰らったらドキドキしちゃうよ!!
「コウ君、取り巻きが出来たのそういう発言が原因だと思うよ……」
「陸尊以外に言ったことはないけど?」
「そういう、そういうとこだよ!」
ただでさえ通っている高校と顔面でハイスペックなのに、行動も然る事ながら発言もイケメンってどれだけ盛っているの!! 前世どれだけの善行を積み上げて…………いやでも、あの取り巻きたちに絡まれているとなると、やや相殺になるのか、な?
どちらにせよ超ハイスペックなのは間違いない。同性でも惚れてしまいそう。
悶絶している僕をコウ君が目を細めて見つめる。
その視線にやや違和感を抱いたけど、コウ君がポケットからスマホを出してきた。
「とりあえず連絡先交換しよう」
「あ、そうだね」
違和感を忘れて、僕は慌ててスマホを鞄から取り出した。
それにしてもこれからコウ君と一緒に過ごせるのかぁ。嬉しいなぁ。
顔がにへにへしそうになるのを堪え、コウ君と連絡先を交わした。
(僕に出来ることって、そんなの気にしなくていいのに)
鞄からスマホを取り出そうとしている陸尊にを見つめながら、航は内心やれやれと肩をすくめた。
(陸尊は俺が親切心で護衛を引き受けてくれたって思ってそうだけど、そんなことないのにな。むしろ下心ありまくりなのに)
少し罪悪感が拭えない。けれど、陸尊の旋毛を見ているとその罪悪感もどうでもよくなる。
(あの取り巻きの女たちを使って陸尊に近付こうとしているなんて、俺もなかなかのDQNかもな)
けれど、このチャンスを逃せば陸尊はこちらに振り向いてくれないだろう。それならこの状況を利用しよう。
こちとら初恋を拗らせているのだ。今まで散々迷惑を被ってきたのだ。その分あの女達を利用しまくって、陸尊を手に入れてみせようではないか。
もちろん陸尊が傷付かないように配慮することが最優先だが。
そんな航の決心を知らず、陸尊はニヤニヤを隠しきれず顔を上げた。
【短編】ラブコメ主人公は同じラブコメ主人公に言い寄られています 空廼紡 @tumgi-sorano
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