第七話

 無事部屋割りを終えることが出来て私は詰まっていた息をようやっと吐き出すことが出来ました。

 神官が部屋割りを後ろに控えている従者に伝えると彼は宿の入り口へと駆けていきます。

 しばらくすると私の身長と同じくらいの大きな荷物も次から次へと宿の中に運ばれていきました。一体何が入っているのでしょう。


「え? イリスちゃんの荷物それだけ?」


 部屋に入るとシスカちゃんが疑問の声と一緒に周囲を見渡します。

 確かにシスカちゃんが言うように私の荷物は少ないと思います。必要最低限よりも遥かに最低限であるのは否定しません。でも、身長以上に膨らむよりかはよほどいいと思うのです。


「う、うん。おかしいかな?」


「一概におかしいとは言えない……いや、いやいややっぱりおかしいよ」


 シスカちゃんは私の持っているバックの数倍あろうかという大きな箱を開けて荷解きをしていきます。私からすれば彼女の荷物も十分に多く見えるのです。

 私は解くほどの荷物もないのでシスカちゃんが荷物を広げ始めた対面にあるベッドに腰かけます。


「!?」


 私はあまりの驚きについつい立ち上がってベッドを確かめます。それは私の知るベッドとは全くもって別物でした。

 そんな私の様子を見てケラケラと笑うシスカちゃんでしたが彼女もベッドに手を乗せて驚きのあまりそのベッドを二度見していました。

 それくらいに柔らかいのです。

 今まで自分が寝ていたのは床と言っても過言では無いくらい硬かったのですから。


「イリスちゃん、これ見て! すっごい跳ねる!」


 目の前で跳ねるシスカちゃんはそれはそれは楽しそうでした。あまりにも楽しそうなものでついつい私も立ち上がって少しだけ勢いをつけてベッドに座ってみます。

 本当にすごい反発です。例え用が無いのですがイメージはまさに雲です。あの真っ白な雲の上に乗っているような感覚です。


「イリスちゃんも!」


 そう言ってシスカちゃんは私の手を無理やり自分のベッドの方へと引っ張ります。

 少し惚けていたこともあって私はなされるがままシスカちゃんのベッドに倒れ込みます。

 驚いた顔の私を見てシスカちゃんは楽しげに笑います。あまりにも楽しそうに笑うシスカちゃんを見ているとついついこちらの頬も緩みます。


「イリスちゃん」


 名前を呼ばれてシスカちゃんの方を向けばベットに寝っ転がったままのシスカちゃんは大きな赤い瞳で私の事を見ていました。


「私、おっきくて大変そうだけど絶対に叶えたい夢が出来た」


 ニッ、と歯をのぞかせた彼女に私はどう返せばいいのか分かりませんでした。

 頑張って、と言えばいいのでしょうか。でも、それではなんとも他人行儀です、こうして話してくれているのですから、もっとこう気の利いた言葉があるはずだというのに。

 結局、私の口からはまともな言葉はこぼれませんでした。そんな中ようやっと出来たのがただ曖昧に笑うだけでした。

 そんな私の顔を見てシスカちゃんは「ふふっ、何その顔」、とひとしきり笑うと私に向かっておもむろに両手を伸ばします。


「笑うっていうのはね、こう!」


 シスカちゃんの人差し指が私の口角を無理やり押し上げます。予期せぬ行動に意図せず私の口から「うにゅ」、とさっきとは比べ物にならないくらい簡単に情けない声がこぼれます。

 こんなに簡単に開くならさっき開いてくれればいいのに。ついつい言い訳のように私は心の中でそう呟きます。

 そうしてシスカちゃんはそんな私の声を聞いてまた声を上げて笑うのです。

 そんなにおかしかったでしょうか?

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白とアネモネは嘘に踊る 翠恋 暁 @Taroyan

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