忘れ去られつつある時代への憧憬
- ★★★ Excellent!!!
おじいちゃんのところへ出かけたふららちゃんが、道すがらに出会ったいろんな人たちの、その自死を思い止まらせる物語。
シュールでナンセンスな雰囲気が楽しい、童話風のお話です。
題材から考えるに正真の童話ではないと思うのですけれど(なにぶん結構しっかりした自殺なので)、でも雰囲気そのものはきっちり童話してるのがすごい。
物語のふわっとした空気感や、彼らの交わす対話の感じが好きです。
個人的にとても魅力を感じたのは、作中作にあたる第二話目『きれいな電車』。
一章丸々「おじいちゃんの書いたお話(エッセイもしくは作文)」という体の文章なのですけれど、その生々しさというか手触りが本当に凄まじい。
昭和の中期ごろでしょうか? 話にしか聞いたことのない時代なのに、まるで目の前に見ているかのようなこの臨場感。
とりとめもない回想のようでいて、でもその小さなエピソードのひとつひとつが生き生きしていて、読んでいるだけで胸が弾んだりきゅんとしたりします。
この二話目の主人公である『私』が五歳児なのも好き。
大人ではあり得ない子供独特の理路に裏打ちされた世界。
いろいろ好きな逸話がいっぱいあるんですけど、特に築地さっちゃんとの鬼ごっこの約束事とかもう、本当に素敵で……。
昔懐かしい風景も、またそれを大きく包み込む童話の世界も、ともに味わい深く印象に残るお話でした。