キメラフレイムの謎とき動画特別編:幽世訪問体験記3
キメラフレイムもとい穂村がレッサーパンダらしく腕を振るうと、背景がまたしても切り替わる。藍色を基調にした神社と藍色の鳥居。この神社こそが幽世の常闇之神社総本山である。ちなみに写真は広報部長であるラヰカの厚意により提供されたものだった。
「実は僕たちが滞在していたのは常闇之神社の内部だけだったのですが、個性豊かな神使の皆様とお会いしたり幽世グルメも頂く事が出来ましたので、その辺りをご紹介したく思っております」
『しろいきゅうび:幽世は案外危険なので、一般妖がうろつくのは危険だしね』
『ユッキー☆:幽世はマジでヤバい。特に魍魎とか』
『きゅうび:それな』
『隙間女:むしろ呪術師の方が喰い殺せない分だけ厄介かも』
『トリニキ:魍魎は喰い殺せるみたいな言い方が何か草』
『だいてんぐ:これぞ食通だな(白目)』
『りんりんどー:魍魎は幽世グルメではありません!』
相も変わらず視聴者同士で盛り上がっているのをさらりと確認しつつ、キメラフレイムはサニーと目配せしつつ発言するタイミングを確認した。
「そうですね。まずは神使の皆様についてお話ししましょう。やはり印象的だったのは、お狐様が多かった事ですね」
「やっぱり宮司が九尾の柊様だったから、神社にもお狐様がたくさん集まるのかもしれないわね。柊様の子孫である椿姫さん三姉弟に、この間生まれた椿姫さんの御子息、それから遠縁にあたる稲原さんとか銀狐の方とかが、私たちがお邪魔した時にはいたんです」
『絵描きつね:実は幽世では妖狐ってレアな種族だったりするんだよな』
『ネッコマター:ワイは代々仕えていたから妖狐と言えば馴染みはあるけれど』
『しろいきゅうび:現当主の代で三十四世代続いてはおるが、短命だった子供たちもおるからなぁ……』
『きゅうび:【悲報】ワイ、九尾の末裔だけどまだ四代目』
『ユッキー☆:十五代目雷園寺家当主のワイ、高みの見物』
『だいてんぐ:張り合わなくて良いから』
『トリニキ:そもそも玉藻御前の末裔って時点で勝ち組でしょ』
『よるは:別の世界では怨念になってどこぞの邪神になってるわけだし……』
『絵描きつね:ひえっ』
「あららら、早速九尾トークにもつれ込んじゃったね。やっぱりお狐様も最高位の九尾に興味津々なんですかね」
「ああそうそう。お狐様と言えば、椿姫さんの御子息で三十五代目にあたる桜花君にもお会いできました!」
稲尾桜花に出会った。これもまた特筆すべき事であろう。何せキメラフレイムたちが幽世に飛び込んできたまさにその時、穂村たる雪羽たちもまた、桜花が生まれた事を祝っていたのだから。
妖狐と鬼の血を引くという桜花に出会った事もまた、穂村たちにとっては印象深いものだった。生まれて半月足らずであるはずなのに、既に一、二歳ほどの乳児に育っていた事に二人して驚いたのだ。
もちろん、幽世では妖怪の仔が育つ速度は現世とは全く異なる事は耳にしていたが、百聞は一見にしかずとはまさにこの事だったのだ。
キメラフレイムとサニーは顔を見合わせ、しばし稲尾桜花の事について語る事にした。
「実は私たちにも他に弟妹はいるんですけれど、桜花君は可愛くてしかもおりこうさんだから本当に凄いなーって思いました」
「そりゃあそうだよサニー。何せ桜花君は、月白御前とも呼ばれた九尾の一族と、武闘派神使として名高い鬼のハイブリッドだもん。でも本当におりこうさんだったよね」
『ネッコマター:キメラ君は桜花君相手にちょっと緊張してたよね』
『サンダー:むしろサニーちゃんの方が小さい子の扱いに慣れてた感じはしたわ』
『ユッキー☆:サニーは俺たちの中では末っ子だけど、弟妹達がいるから小さい子のお世話とかには慣れてるんじゃね。もう一人の妹もサニーに懐いているって言うし』
『きゅうび:サニーさんは末っ子ではなくて中っ子では(凡推理)』
『MIKU♡:甥っ子たちには色々と複雑な事情があるんだから突っ込まなくて良いの』
『月白五尾:キメラ君たちも息子と遊んでくれて嬉しかったわ。キメラ君たちのお兄さんからは色々とプレゼントしてくれたし』
「あ、椿姫……じゃなくて月白五尾さん。ありがとうございます。あはは、僕もまぁ実はちょっと緊張しちゃっていたんですけれど、そう言って頂けて感謝してます」
よくよく考えたら椿姫の名は先程から連呼していたな。そう思いつつも、穂村はハンドルネームで言い直した。向こうのラヰカたちとて、キメラフレイムたちの本名や素性も知っている。知った上で配信ではキメラ君とかサニーちゃんと呼んでくれているのだから、それに倣った方が良いと思っていたのだ。
『ネッコマター:あ、でもさ、お狐様だけじゃなくて雷獣もいたでしょ』
『サンダー:言うてあの時は俺だけだったけど。まぁ、もう少ししたら光希君姉弟もこっちに戻って来るんだけど』
ネッコマターと雷獣の大兄貴――年齢的には穂村たちの実父とほぼ同じなのだそうだが――であるサンダーのコメントを前に、思わず穂村本体も尻尾を逆立ててしまった。
「あ、まぁ雷獣は僕やサニーや六花姐さんがそうなんですけれど……はい。そうですよね。実は僕たち、幽世で雷獣のサンダーさんにもお会いできたんです!」
「サンダーさん、いかにも狼系で強そうだったよね」
「うん。僕はレッサーパンダでサニーはアナグマだもんなぁ」
小首をかしげるミハルを眺めながら穂村もコメントを重ねる。穂村たちにしてみれば、狼系雷獣は珍しい存在でもあった。雷獣というのは個体によってさまざまな姿をしているのだが、雷園寺家の一族はネコ科獣の姿を持つ者が多く、父の親族はイタチやそれに類する獣の姿の者が多かった。両者の血を受け継ぐ穂村たち兄妹もまた、イタチ科の獣やハクビシン、或いはレッサーパンダやアナグマに似た姿で生れ落ちたのである。特に異母弟妹は雷園寺家の影響を強く受けたらしく、それぞれ猫に酷似した姿だった。
もっとも、実弟の開成は珍しくイヌ科獣に似た姿を呈しているが、狼というよりもむしろ仔犬とか仔狐のような印象を抱かせた。
『ユッキー☆:サンダーニキが狼なら、ワイはライオンやで』
『トリニキ:冷えてるかー(激寒)』
『きゅうび:酷暑だから助かる』
『絵描きつね:ユッキー☆君の発言が滑り散らかしてて草』
『MIKU♡:そう言えば俺もラーテルとかって呼ばれてたなぁ。むしろグズリなんやが』
『りんりんどー:※ラーテルは世界一恐れ知らずの動物として有名です』
『だいてんぐ:ラーテルでもグズリでも変わらないんだよなぁ』
「サンダーさんの事は僕たちも密かに憧れていたんです。サンダーさんも武闘派神使に名を連ねているという事でしたし、何より身体を雷に変えて攻撃できるって本当に凄いと思います。もうマジで痺れる位に憧れちゃいました!」
「そうそう。キメラ兄さんもサンダーさんの雷化を知って、それでパソコンに飛び込む事を思いついちゃったからね」
『きゅうび:ユッキー☆君とキメラニキはやっぱり兄弟なんやな』
『ユッキー☆:どういう意味?』
『隙間女:なんか怪しげな隙間が出来てる……』
『サンダー:ユッキー☆君もキメラ君も素直な良い子だし、その辺は似てると思った』
『ネッコマター:おおっ、キッズたちに好意的なコメントしてるじゃん』
『おもちもちにび:サンダーはわっちたちにもやさしいよ』
ネッコマターの発言に小首をかしげた穂村であったが、すぐに彼女のコメントの真意が何であるか思い出した。サンダーこと大瀧蓮は、かつては極度の子供嫌いだった。いつだったか、兄の雪羽からその話を穂村は聞かされていた。それ故に雪羽は、蓮の事を同族として尊敬しつつも恐れの念も抱いているのだ、と。
とはいえ極度の子供嫌いも今では克服したらしく、幽世での彼は竜胆や菘などの幼狐の兄貴分としてごく自然に振舞っていた。もちろん、同族である穂村たちも優しくしてもらった訳だし。
「サンダーさん、強い上に優しくて家族思いで仲間思いなんで、本当に憧れてます。なんてったって僕もこんななりですが雷獣なので!」
「そろそろ時間も押してきましたので、私たちが出会った幽世グルメのお話に移りますね」
穂村が雷獣としての高みを目指そうとしているのをサラッと流しつつ、ミハルは話を進めようとしていた。こういう所での段取りの良さはミハルの方に軍配が上がる事が多い。とはいえ、ちょっとクールすぎるかなと思う事もままあるのだが。
「私たちが頂いたのは、幽世内でチェーン展開を続けている『常闇バーガー』です! 実はこの常闇バーガー、稲尾家三十四代目の妖狐・稲尾菘ちゃんが社長を務めているんですよ」
「菘ちゃん、二十一で社長って本当に凄いですよね。僕たちも見習わないと」
『見習いアトラ:菘ちゃんが社長って前配信で聞いた事があるわ』
『りんりんどー:兄さんの方の配信だね』
『月白五尾:妹は神使の業務の傍ら、ずっと商品開発を進めてるのよ』
『サンダー:ちょっとヒヤッとする時もあるけれど』
『きゅうび:僕も商品開発は気になるなぁ……』
「あの時は実際に店舗に向かった訳では無かったのですが、僕たちも物凄いお腹が空いていて、それでラヰカさんが僕たちの分を購入してくれたんです」
「ちなみに猛暑日が続いている間は、店員の体調を考慮して、茶屋で販売しているそうなんですって。店員さんもきっと楽しく働いてそうですよね!」
『しろいきゅうび:ちなみに宅配とかも考えてるゾ』
『絵描きつね:やっぱりバックがしっかりしてるから、常闇バーガーはどんどん栄えるゾ』
「店員さんと言えば、サンダーさんのお姉さんも茶屋兼バーガー販売所で働いているらしいですね。実はラヰカさんが僕たちの分を購入した時に、そのお姉さんがゆで卵とかサラダとかもサービスしてくれたんです」
「本当に、押しかけてしまったのに色々良くしてもらって感謝しています!」
『サンダー:姉貴も面倒見が良くて子供好きだから、それでサービスしたんだと思う(小並感)』
『ユッキー☆:めちゃくちゃ弟妹達がお世話になってるから、何かお礼をしないと(使命感)』
『ネッコマター:二人のブロマンスでこちらはお腹いっぱいですありがとうございました』
『隠神刑部:※キメラ君のスポンサーや叔父さんからお礼の品を受け取ってます』
『絵描きつね:結構貰ってたからびっくりしたゾ』
『よるは:それにこうして幽世の事を伝えてくれる事も嬉しいし』
『月白五尾:次はまたオフ会の時に会えると良いね』
視聴者の、特に幽世の面々からのコメントに、穂村は頬が緩み心が温まるのを感じていた。
「皆さん、本当に先日は色々とありがとうございました! 月白五尾さんからオフ会の案内も来ちゃってますし、また計画しましょうか」
「それでは、ごきげんよう」
キメラフレイムとサニーが手を振りつつ、二人のアバターがフェードアウトしていく。配信動画はそこで終了し、画面は一度暗転する。
そのブラウザでは動画の自動再生がオンになっていたのだろう。「次の動画を再生します」にて表示されているのは、常闇之神社チャンネルによる動画だった。
九尾の末裔シリーズこぼれ話 その1 斑猫 @hanmyou
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