脱出しないと出られない部屋

誘宵

第1話

「おい、おーい! 開けてー? 聞こえてるー? だめだ返事がない」

「応答がないね」

「いったいここはどこなんだろう」

「場所がわからないね」

「無機質な部屋、あるのはちょっとした収納とダブルベッドのみだ」

「一人で寝るには大きすぎるサイズだ」

「いやなにわたしのことを床に寝かせて自分はベッドに寝ようとしてるの」

「え、あなたいつも布団で寝てるじゃん」

「布団で寝ていてもベッドがあるならベッドを使うよ。そんなことよりこの部屋から出る方法を考えないと」

「それならあそこに書いてあるじゃない」

「え……なになに……『脱出しないと出られない部屋』……?」

「そう、脱出すれば出られるよ」

「脱出する方法がわからないんだけど、あなたわかる?」

「…………?」

「わっかんないかー」

「うん」

「素直だなー。とりあえず状況を整理すると、まず扉がある」

「扉があるということは出入口があるということだね」

「そして、ここに収納がある」

「収納があるということは物を入れておくことができるということだね」

「そういうこと。もしかしたらここになにか脱出のためのヒントが隠されたりしているんじゃないかな」

「脱出ゲームの感覚だね。ゲーム脳だね」

「いやこれはゲーム脳って言わないでしょ。ほら、この引き出しに……」

「これはオモチャのペニスだ。ご立派ァッ!」

「いやいやおかしいでしょ。なんでアダルトグッズがここに入ってるの!」

「きっと生前はラブホテルの一室だったんだろう」

「部屋の生前ってなに?」

「リフォーム前?」

「リフォームされて脱出しないと出られない部屋なんて欠陥住宅になったのか」

「波乱万丈の人生だね?」

「その人生に私たちを巻き込まないで欲しい」

「でもこんなペニスでどうやって脱出するのさ」

「まあまあ落ち着いて。というか、いつまでもペニスを握っているとそういう趣味の人に見えるよ」

「どういう趣味よ」

「オモチャのペニスを握りながら突っ込む趣味?」

「どんな趣味よ!」

「まだ引き出ししか見ていないし、他のところを見てヒントを探してもいいんじゃないかな」

「そうね。ちょっと興奮しすぎたわ」

「オモチャのペニスで興奮するなんて……」

「そういう意味じゃないわ!」


「結局探しまわったところで、なにもなかったわけだけど」

「なんの成果もなかったね」

「使える道具はオモチャのペニスだけ……」

「うーん……」

「どうしたの?」

「いや、そのオモチャのペニスも脱出とは関係なかったりして」

「それじゃあ本当にノーヒントじゃん! せめて唯一見つけたアイテムにはすがらせてよ!」

「脱出するためにペニスが必要なら、それを使うためのものが用意されているわけだよね?」

「まあ……脱出ゲーム的にはそうだね」

「もしそのペニスがヒントなら、どこかにペニスを使うための場所があるのでは?」

「たしかに……」

「…………」

「……ちょっと、なんでこっちを見てるの? 違うでしょ。入れないよ? 入らないし」

「まだなにも言ってないのに。というか、真っ先に出る使い方がそれってどうなの? だけど、もしかしたら入れるのが正解かも。入れたらそのペニスの中からなにか出てくるかも」

「やめてよ、なにが出るのよ。というか中に入っちゃったら大変じゃん」

「そのときは中からひりだしてもらう方向で」

「ちょっと、ひりだすだなんてどっちに入れてるの。どっちにも入れたくないから」

「なんで身体の中に入れる前提で話を進めているの?」

「そ……そういう話じゃないの?」

「そういう話じゃないの」

「……っ!」

「この部屋にはわたしらしかいないから、あなたがそういう性癖をもっていても大丈夫、誰にもバレやしないよ」

「そういう問題じゃないわ!」


「……どれくらい時間たった?」

「さあね……」

「この部屋、窓もないから時間の経過がわからないよ」

「ああ……二時間以上経ってる。お腹空いてきたし、もういっかな」

「なにを言ってるの?」

「もしもし?」

「……え? スマホ?」

「……はい……はい。おねがいします。ええ……」

「ちょっと? 誰と話して……」

ガチャ

「鍵が開いたみたいだから、これで脱出できるよ」

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脱出しないと出られない部屋 誘宵 @13izayoi41

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