第14話

伴場はスイッチを切った電子タバコをスーツの内ポケットにしまった。深く息を吐き、暗い空を見上げた。


古武「そうだったんだー」


伴場と桐谷の後ろから急に古武の声が聞こえた。振り返る2人に、古武は笑顔を見せた。


桐谷「誰?」

古武「初めまして、伴場さんの部下の古武です」

伴場「古武、どうしてここにいる?」

古武「巡回ですよ、三課にも当番が回ってきたんです。でも僕も油断してましたよ。まさか仁さんが契約者だったなんて、これっぽっちも考えてなかったから」

伴場「何で知ってる」

古武「僕の記憶がついさっきアップデートされたんです。便利な力ですよねー」


伴場は時を遡った時に、背後にいた一眼レフを構える男にどこか見覚えがあった。特に一眼レフの部分に。伴場が古武と初めて出会った時から、古武は一眼レフを首からずっとかけていた。


伴場「そのカメラ。あの場所にいたのは、、早くに疑うべきだった。俺も勘が鈍ったもんだ」

古武「いやいや、面白い力ですよ時を遡れるなんて。だから、仁さん。僕達の仲間になりませんか?」

桐谷「何言ってるの?」

伴場「ならねぇよ、お前は黒だ。罪を犯してる」

古武「えー、ダメなのー。、、じゃあ死ねよ」


そう言って右手で拳銃を取り出し伴場に構えた。


バキンッ!


古武「痛って!」

桐谷が素早く拳銃を取り出し、古武の持つ拳銃を打ち弾いた。

古武「なーんてね」

古武は背中に隠していた拳銃を左手で取り出し再度伴場を狙った。その時、1台のバイクが滑り込み、伴場の前に現れた。


伴場「山上!」


ヘルメットもせずに伴場の前に現れたのは山上だった。そして古武の後方からは、もう1台のバイクがこちらに向かっていた。そこには蒔田の姿があった。


古武「へー、じゃあ先に君を殺してあげる」

古武は拳銃の引き金を引く。山上はバイクに乗ったまま古武の方を見つめたままだった。


山上「(闇雲に出てきてしまった。俺に特別な力はないが、伴場さんを守るために盾になる事は出来る。後は蒔田が何とかするだろう)」


バンッ!

古武の拳銃から弾丸が飛ぶ。


山上は走馬灯を見ていた。間違いなく死を直感した。結局依頼人のネックレスは見つからず、蒔田と山上は伴場達と合流する事にしていた矢先。まだ何も成し遂げていない、こんな中途半端に死にたくないと強く思った。すると、山上の目の前に突然丸いサングラスを掛けたおじさんが現れた。


門間(もんま)「はい、痛くないからねー」

そう言った門間は、山上の胸にズブリと右手を突っ込んだ。さらに、胸の中から沢山の血管が繋がる心臓を掴み出した。山上は痛みの無い状況と目の前の光景に驚き、声が出なかった。


門間「やぁ奴さん。俺は悪魔だ。死にたくないんだろ。選択肢は2つ。俺と契約を結ぶか、俺に心臓を潰されるか。自分の名前を言ってから決断をどうぞー」


山上は、想像していた悪魔と違いすぎて混乱していた。だが、この状況は間違いなく蒔田が以前話していた、契約と与えられる力。山上の視界に映るグロテスクな心臓を早く戻して欲しいと脳が訴えていた。


山上「山上だ。、、契約する」

門間「かしこまった。では一回しか説明しないからよくよく聞くように。後で俺から山上に力をプレゼントするからね」


・・・

時が止まる中で山上は、門間からの話を全部聞き終えた。門間から与えられた力、それは過去の人間に手紙を送れる事だった。送れる相手はひとりのみ、門間の目の前で用意された手紙を書くことが条件だった。山上は送る相手を誰にするのかを熟考し、決めた。門間から封筒と手紙をもらい、山上は手紙を書き始める。

・・・


カタン


ドアポストに何かが入った音がした。


伴場は朝5時のアラームよりも早く起きた。今日は久しぶりに家で過ごせる休みの日だった。起きてすぐ、伴場は新聞を取りに玄関へと向かう。ドアポストに入っていたのは、新聞と黒い封筒だった。


伴場「ん?手紙なんて珍しい、、山上?、、誰だよ」


黒い封筒には´´伴場様´´と書かれていた。一応確認の為に封を切り、中にある手紙を読み始めた。そこには、これから伴場が巻き込まれる未来の出来事が事細かに書かれていた。そして、差出人である山上と言う人物は、大きな事件で伴場をかばい死ぬ予定だと書いてあった。伴場に任されたのは、過去の人物達と協力をして最悪の状況を脱して欲しい事、そして過去の山上の元に黒い封筒に指示を書いて届けて欲しいと最後に書かれていた。


・・・

その翌日。伴場は見知らぬ住宅地に来ていた。


伴場「うーん、、俺がやるミッションはいっつも逆境なんだよなー」


伴場は、ぼやきながらドアポストに黒い封筒を入れた。


カタン


伴場「ジジイは失敗しかしねぇぞー」


くたびれたグレーのスーツの内ポケットから、煙草とライターを取り出し。煙草に火をつける。煙草の白い煙を吐きながら伴場は街を歩く。


・・・


とある場所の一角に、黄色い薔薇の絵が描かれていた。真夜中を灯す街灯の光が、薔薇の絵に当たり、花びらがキラキラと光っていた。

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逆境ミッション アラガキ アラタ @aragakiarata

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