第13話

桐谷は蒔田が指定した場所に白いスポーツバイクで向かっていた。そこは、森の中に大きく佇むダムだった。そこには既に、スーツを着た4人の男達がいた。


蒔田「遅かったな」

桐谷「悪いわね。方向音痴なの」

蒔田「今回はこのチームで依頼を遂行する。俺達のメンバーは、蒔田、山上、伴場、霧島の4名」

桐谷「こちらは私ひとりよ」

蒔田「わかった。依頼の情報共有と作戦を説明する」


ダムの放流が轟音をあげる。蒔田達5人はダム橋の上で打ち合わせを始めた。


・・・

打ち合わせをしたその夜。桐谷は、伴場と霧島の3人で暗い公園にいた。


桐谷「本当に大丈夫なの?失敗は許されないのよ」

伴場「大丈夫ですよ。ビビらんで下さい」


霧島は打ち合わせの際に伴場から渡された、写真と地図をじっくり眺めていた。時刻は夜18時。作戦開始の時間になった。


伴場「そろそろ行きましょう。霧島良いか?」

霧島「はい」

そう言うと霧島の肩に、伴場と桐谷は片手を乗せる。そして霧島は目を瞑った。続けて2人も目を閉じた。


2人より先に霧島が目を開けると、公園から港のある船着き場の景色に変わっていた。


霧島「ふぅーー」

伴場「お疲れさん。後は絵を描いてお帰り」

桐谷「見た目によらずやるじゃない坊や」

伴場「我々はこれからですよ。ここに長居は出来ません、警察が定期的に巡回してますから」

桐谷「次はあなたの番ね」


伴場はそう言いながら電子タバコのスイッチを入れた。


・・・

数時間前、ダム橋の上で蒔田が考える作戦を他4人が聞いていた。


蒔田「時間に猶予は無い。今夜作戦を決行する。先に霧島、伴場、桐谷の3人は依頼人の息子さんの持つスマホのGPSが最後に途絶えた場所に向かって救出の手掛かりを見つけて欲しい。俺と山上は、依頼品のネックレスの行方を追う。俺達が受けた最近の依頼に、契約者の力を使う人間が別の目的で動いていた。俺は今回もその可能性が十分高いとみてる。かなり危険が伴う、自分の身は自分で守れ。以上だ」


・・・

電子タバコの煙を吐きながら、伴場は蒔田の作戦内容を思い出していた。


伴場「そんな事言ったって、60近いジジイは自分の身すら守れないんだから」

桐谷「大丈夫よ、死んだらちゃんと葬式してあげるから」

伴場「頼むね。じゃあ、ジジイの肩に手を当てて」


そう言うと、伴場は左の手のひらを開き始める。伴場と桐谷以外の時が遡り始めた。港の船着き場を行き来する人の流れ、だがその中で伴場は見逃さなかった。夜中の港に黒い車が2台ライトを点灯したまま止まり、その車の前に両手を縛られ膝まづきになっている男性とそれを取り巻く男達がいた。伴場は時を遡りすぎたので少し時間を進める。そこからゆっくりと時を遡りながら状況確認を桐谷と始めた。


伴場「おそらく、両手を縛られた男性が依頼人の息子さんだな」

桐谷「冷酷な奴らね。銃殺していたわ。その後は証拠隠滅に契約者の力を使っている。息子さんを挟むようにして、空中に鏡を2つ作った後、息子さんが消えたわ」

伴場「時を遡るのが初めてとは思えない程の観察力だな。残念ながら息子さんの命は救えなかった」

桐谷「大丈夫よ、私がしっかり話を聞いてくるから」

伴場「頼みます。ここからは未知の領域だよ。過去の死人に話を聞けるかどうか」


伴場と桐谷は時を一時停止した空間で、謎の男達に銃殺されて倒れた依頼人の息子さんのすぐ側に移動した。そして、桐谷は顔を息子さんに近づけ、唇を合わせた。


すると、依頼人の息子さんの目がゆっくりと開いた。

桐谷「こんばんは。私はあなたのお父様の依頼でここにやって来た者よ。詳しくは話せない、時間がないの」

双木悟志(ふたきさとし)「誰だお前は!、何だ、お前達も、、」


桐谷は人差し指を息子さんの唇に当てる。

桐谷「あなたの仲間よ。教えて欲しい事は1つだけ、お父様の大切なネックレスは誰が持ってるの?」

双木悟志「あいつだよ、、たしか桜田って言ってた。お金さえ用意すれば渡してくれるって約束だったんだ。なのに銃で撃ってきやがった、、でも何で俺、今生きてるんだ?」

桐谷「ありがとう。感謝するわ」


そう言うと桐谷はそっと右手で息子さんの両目を閉じた。さっきまで喋っていた息子さんは静かに眠ったようだった。


伴場「虫酸が走る話だ」

桐谷「桜田の所に行くわよ」


その時、伴場は背後に嫌な気配を感じ後ろを振り返った。すると5m後ろに一眼レフを伴場の方に構えるスーツ姿の男がいた。


伴場「いや、嫌な予感がするなぁ。戻るぞ」

桐谷「でもネックレスの確認を」

伴場「桜田が関与している事実だけで十分作戦成功ですよ」

桐谷「何かあったの?」

伴場「この前、悪魔が会いに来た時に教えてくれたんです。契約者には、契約した者を見破る力を持つ人間がいるって事を。そいつを今見つけた気がします」

桐谷「わかったわ」


そして、伴場は電子タバコのスイッチを切った。

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