第17話 遥乃と京香③

 それから程なくして。

 すべての調理が終了した。


 遥乃が食べた夕飯と全く同じメニューが完成する。

 食欲をそそるにんにくと鶏の脂の香り、スタイルを気にする人には天敵だが、その誘惑には抗えない。


 京香は、最初はその箸運びがゆっくりだったが。

 段々とそのスピードが早まっていき。

 その箸が止まらなくなっていっていった。


 キラキラとその笑顔が輝いているのを見つめる遥乃は、自然と微笑みがこぼれる。


 京香の自然な笑顔を見る機会はここ最近めつまきり減っていた。

 一切オブラートに包まない彼女の言い方は、当然のことながら一部のクラスメートとは大変激突していた。

 それは彼女の心から余裕を奪い、段々と笑顔が作ったものになっていった。

 それをそばで見ていた遥乃は、もどかしい思いをしてきたものだった。


「おいしい?」

「おいしい!箸が止まらんの!」


 輝く笑顔で即答された遥乃は、とても母性に溢れた優しい目になる。

 もともとスタイルの良い遥乃である。

 そんな彼女が微笑んで京香を見守るその様子は、さながら娘を見守る母親である。


 その身からはとてつもない量の母性が溢れ出ていた。


 





 それを見ているのがさくらと陽菜だ。

 ふたりともその母性にやられそうになっていた。

 ふたりの母親よりも遥乃のほうがよっぽど母性をまとっていた。


「さくらさん、遥乃さんって、大学生ですよね?」

「そうだよ、陽菜ちゃん。でもね、高校生だったときからはる姉はこういうときあったよ」

「面倒見がいいってことなんでしょうか?」

「そうだと思う。でも……、これじゃはる姉というよりはるママだよね」

「はるママ、ですか。いいかもです」


 さくらと陽菜の間で、遥乃ははる姉改めはるママになったのだった。







 後日。


 遥乃をはる姉ではなくはるママと呼ぶことはさくらから京香に伝わり。

 寮生達からはるママと呼ばれるようになった遥乃は頭を抱える羽目になった。


「私まだ大学生なのに〜!!」


 それを聞いた皆斗は。


「そんなこと言ったってしょうがないでしょうよ。そんだけ母性溢れ出してんだから」


 それが、遥乃へのとどめを刺すかたちになってしまい。


「私まだ彼氏すらできてないのにぃ〜〜〜!!」


 皆斗に背中や頭を撫でられながら、皆斗の胸に頭を埋めるように泣き。


 それを覗き見たさくらたちは、甘えん坊な可愛い面を思わず見ることになったのだった。


 それ以降、寮内では遥乃のことは、はるママ呼びはやめ、はる姉呼びすることになったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【休載中】女子校の提携寮の管理人になったが、JK達の距離が両極端で困る。 東権海 @shikajika

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ