第16話 遥乃と京香②

「よくそれ準備する時間あったね」


 京香からそう言われた遥乃は、内心とても動揺してしまっていた。

 表情に出さないのすら大変なくらいに、である。


 京香は呆れて言っただけではあったが、遥乃には皮肉に聞こえたのである。

 本当は、遥乃が作ったわけじゃないでしょ、と暗に言われたと考えたのだった。

 だが。


「朝のうちに準備しておいたのよ」

「そっか。……遥乃さんにはやっぱり敵わないな」

「当たり前でしょ。私に勝ちたいならまず自分の部屋くらい綺麗にできるようになりなさい」

「はい……」


 ここまで会話すれば、遥乃は気づいた。


 絶対に京香は真実に気づいていない。

 気づいていたらこんな反応はしないだろう、というのはあまりにわかりやすかった。

 純粋に呆れただけだったとはいえ、普段から皮肉の言い合いをするような遥乃からすれば、皮肉に捉えても仕方がないことだった。


 そして、絶対に皆斗が作ったものだとバレてはいけないものだった。

 が引き起こしている京香の男嫌いは、もはや一種の病気と化している。

 もしも皆斗が作ったものだと知れば、京香はほぼ間違いなく拒絶反応を引き起こすだろう。

 だから、多少無理な理由があったとしても自分が準備したことにして、皆斗は一切関わってないことにしなくてはならないのだった。


 結局その後は、雑談しながら調理を進めていく。


「京香、最近学校はどんな感じなの?」

「うーん、基本的には今までと変わりないかな。授業担当もみんな女性だし」

「なら良かった。クラスには馴染めてるの?」

「そこそこ。……火強すぎない?」

「そのくらいじゃないと火が通らないからいいの。……そこそことは?」

「仲が良い子とは今も仲が良いけど、対立する子とはとことん対立してる」

「はあ……。もう少し京香は言葉をオブラートに包みなさいよ」

「だっていちいち包んで回りくどくするのめんどくさいんだもん」


 京香は言葉を濁したり回りくどくするのはとても苦手である。

 そもそも京香本人がそういうことをするのもされるのも大嫌いなのだ。


 当然、言葉がきつくなりがちであり、それがクラスでの対立を産んでいるわけだが。


 昔は遥乃も割と積極的に関わっていたが、今は関わる口実がない。

 むしろ下手に出ていけば、それが火種になって京香が嫌がらせの対象になりかねないのは明白であるが故に、遥乃はアドバイスする程度にとどめていた。


「めんどくさいのもわかるけど、でも回りくどくしないとこうやって誰かしらとぶつかり続けるんだから。少し気をつけなさいね」

「わかったよ、はる姉」


 若干ふてくされ気味ではあるものの、京香は遥乃の言うことに従うのだった。



//////////////////////////////////////////


 はる姉は、遥乃に対する下級生組(寮生)の呼び名です。

 お姉さん的存在と、その身から溢れ出る母性から名付けられました。


 実際に結構後輩の面倒見が良いのです。


/////////////////////////////////////////

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る