第3話 あしたの5分
僕が彼女に依頼したのは、シャッター商店街にお客さんを呼び込むこと。
彼女のカリスマ性と発言力によって、それは無事解決したらしい。その噂は隣町の僕らの町にまで届いた。
アイリーンの考えたシャッター商店街、復活作戦。
それは、シャッター商店街のシャッターに絵を描いたのだ。
それもただの絵じゃない。SNSで
まさに、シャッターチャンス商店街として生まれ変わった。
学生、会社員、隣町や県外からフォトジェニックな映えスポット目当てにお客さんがわんさか来ているとのことだった。
駅から直結のアーケードがあるおかげで、雨の日でも気にしないで写真を撮ることが出来ると評判みたいだ。
お客さんが来たからお店を開けたいのだが、お客さんからは「写真が撮りたいから
この相談はさすがのアイリーンでも解決できないだろう。シャッターの前に出店を出したら撮影の邪魔になっちゃうし。難問だ。
そんな評判の
彼は創作意欲が美術部の活動だけじゃ満たされず、その犯行に及んでいた。
商店街に無数にあるシャッターという鉄製のキャンパスを『映える絵ならば好きなだけ描いても良い』という条件のもと、彼の美術センスを大いに奮って描かれたそれらの絵は、とても好評で、たくさんの人を魅了した。
アイリーンの働きかけによって、活動場所を失っていた美術部員、お客さんを求めていたシャッター商店街が救われた。
やはり彼女は名探偵だ。
アイリーンに解けない事件なんて無い。解決できない依頼なんて無いんだ。
そんな折、アイリーンから連絡が来た。
「明日の日曜日、隣町のシャッター商店街に行くわよ。あなたの依頼がバッチリ解決したかどうか、見に行くの」
「分かったよ。アイリーン」
僕はその依頼が無事解決していることをすでに知っていた。だけれど、彼女から連絡が来たことが素直に嬉しくて、すぐに言葉にならなかった。
「わかればよろしい。じゃ、10時に駅前ね」
「あぁ、了解」
それに。
この後続いた言葉に、僕はびっくりした。
「毎日寝る間も惜しんで、
そうか。
アイリーンに救われたのは、商店街と、美術部員だけじゃない。
彼女は寝不足な僕のことも考えてくれていたんだ。
「愛理……、ありがとう」
「アイリーンって呼びなさい!」
……徹底してるなぁ。
「アイリーン、ありがとう」
「遅刻しないでよね、トントン」
「アイリーン、僕のことはワトソンって呼んで欲しいんだけど……」
「おやすみ。遅刻したら許さないんだからね」
電話を切られた。
僕の名前は
〝トントン〟と〝ワトソン〟、似ているのだから、ワトソンと呼んでくれないかな。〝ン〟しか合ってないけど。
いつかはワトソンと呼ばれ、彼女に探偵助手として認められたいところだけれど、いつの日になることやら。
明日は探偵助手ではなく、カメラ係か。
さて、明日は集合時間の5分前には着くようにしよう。
遅刻したらタダじゃ済まないんだろうし、
明日のために、早く寝なければ。そう思ってベッドに入ったものの、明日が楽しみすぎて、すぐには眠れそうになかった。
アイリーンと二人で出かけるのは久しぶりだったし。
「明日のランチの下調べでもしようかな」
僕は一度暗くした部屋で、ベッドに寝そべりながらスマホを操作した。
シャッターチャンス商店街の中のレストランは閉まっているだろうから。
下調べしていると、目が冴えてきた。
あぁ、やはりすぐには寝られそうにない。
明日眠そうな顔をしていたら、アイリーンに怒られてしまう。
ただ、困ったことに。それでも良いかとも思っている。
僕は彼女の笑顔もドヤ顔も好きだけれど、怒った顔もとても魅力的で、大好きだからだ。
それでも、明日は笑顔の写真を撮ろう。シャッターに描かれた天使の翼を背中に、ファインダーの奥で笑うアイリーンを思い浮かべて、僕は目を閉じた。
完
僕はワトソンと呼ばれたい ぎざ @gizazig
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