No.3
ナスナは大学の授業を終えて、ひとり家で昨日撮影した動画を編集していた。
字幕を付ける作業も終わりに差し掛かり、後はエンディングを残すのみ。ナスナは、メンバーが言ったそれぞれの別れの言葉に字幕を付けていく。
「まーみんは・・・、いつも通りだな。」
まーみんはいつも、「次もまた、ぼくたちの動画で逢いましょう。それでは、また。」という。
ナスナはそこで、あることに気が付いた。
「スぺくん、声ちっさ。聞こえないわ、これ。」
スペーサーの別れの言葉が、小さすぎて聞こえないのである。何やらごにょごにょ言っているが、聞き取れそうでわからない。順調だったのに、最後の最後で壁が現れた。ナスナは少しだけイライラしながら、スマートフォンのメッセージアプリを開いた。
『スぺくん、昨日撮った動画の別れの言葉、小さすぎて聞こえなかったから、もしあれだったら動画見て確認して、なんて言ったか送ってくれない?』
もしあれだったら、なんて言いながら、暗に早く送れと言っているのである。
「ったく、編集長スペーサー、しっかりしてよね。」
ナスナは独り言ちた。
スペーサーは最近、ほとんど編集作業をしない。理由はとても多忙だかららしい。でも、動画の編集を代わりにしてもらったら、丁寧に感謝のメールを送ってくるし、編集メンバーでご飯を食べに行ったときなどはおごってくれたりするので別に不満には感じていなかった。
「これ、スぺくんが送ってくれるまで完成しないな・・・。早くメール見てくれ!」
基本的に、動画は撮影の次の日には完成させてまーみんに送らなければならない。ナスナは急いでいた。
だが、ナスナの願いもむなしく、スペーサーがメールに返信をしたのは翌日の明け方、つまり撮影の翌々日だった。
『ごめん、返信が遅くなってしまって。最近編集もできてなくて迷惑かけてるよね。もうちょっとでそれも終わるから。
ちなみに、あの別れの言葉は、
また逢う日までさようなら。
って言ったんだ。聞こえにくかったかな。ごめん。』
ナスナはため息をついた。だが、スぺーサーに丁寧に謝罪されると責めることもできない。
ナスナは諦めて、昨日編集していた動画のエンディングにスペーサーのイメージカラーである濃い青の字幕を付けると、完成した動画に生放送の紹介をつけて、まーみんに送った。
『動画完成した。遅れてごめんね。スぺくんが何言ってるか最後の方聞こえなくて、メールしてもらってたら遅くなった。』
『ああ、そうだったんだね。それにしても、昨日メールして今日返信が来たの?またスぺは例の用事で忙しいのかな。例の用事、いつ終わるんだろうね。ていうか何してるんだろうね?』
スペーサーは最近用事で忙しいと言っている。その用事が何なのか、いつ終わるのか、メンバーのだれも知らない。
でも聞こうとすると、スペーサーは必死で、「頼むから聞かないでくれ、全部終わったら必ず言うと約束するから」と頼むのだ。普段真面目なスペーサーがそんなことをいうのは、よっぽどの事情がないと有り得ない。メンバーはそう思って、だれも口には出さないが、心の中では皆それぞれ不信感を抱いているに違いない。
それはナスナも例外ではなかった。
『本当になにをしているんだろうね?メンバーにも言えないってよっぽどのことなのかなぁ。まあ私は、スぺくんが自分から言うまで待ってるつもりだけどね。』
行方不明の絆。 如月ななせ @kuma2874
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