No.2

次の日。まーみんが大学の最寄り駅で電車を降りると、前をスペーサーが歩いていた。

「うおっ。スp…じゃなくて、高須!」

まーみんはスペーサー、と言いかけて、ここが外だということに気づいた。外でスペーサーと呼べば、周りの人たちにばれてしまう。外では、スペーサーの本名である、高須平人たかすへいとと呼ばなければならない。

「んっ?まーm…小倉真実か。」

まーみんの本名は、小倉真実おぐらまみである。

「謎のフルネーム呼びなんなの?w」

まーみんは言いながら、スペーサーと並んで歩きだした。

「この前の動画でさ、ナスナがワイエムをサイレントキルした時、ナスナのワイエムへの秘めたる怒りを感じたわw」

笑いながらまーみんが言うと、スペーサーは答えた。

「うん、そうだな。」

「いやー、もうすぐチャンネル登録者数100万人じゃん?時間が過ぎるのはやっぱりあっという間だよねー」

「うん、まあな。早いな。」

「なんか返事適当だなぁ」

「悪かったな、適当で」

それきり、ふたりは話すことがなくなって、黙ってしまった。気まずい雰囲気がふたりの間を流れる。

しばらくして、沈黙に耐えきれなくなったまーみんがおもむろに口を開いた。

「そういや、今度のスぺの誕生日の生配信、なにやるかまだ決めてなかったね。」

「……そうだな。」

心なしか顔を曇らせて、スペーサーが言った。

「どうしたの、スペ。なんか顔暗いよ?」

まーみんが心配して言うと、スペーサーはめんどくさそうに答えた。

「別に暗くないし。余計なお世話だ。……ていうか、今日お前、1限じゃないの?このままいくと、俺ゆっくり歩いてるから、間に合いそうにないけど。」

そこでまーみんはやっと、スペーサーがだいぶゆっくり歩いていることに気が付いた。

「えっ、ほんとじゃん。スp…じゃなくて高須、2限からなの?じゃあなんで1限の電車乗ってんのさっ」

「んえ?……えーとそれは、寄るところがあるからだよ」

「寄るところ?なにそれ、どこどこ?え、もしかしてデートとか???」

まーみんがにやにやしながら言うと、とうとうスペーサーは怒ったのか、少し語調を強くして言った。

「ちげーわ!!こんな朝っぱらからデートするやつがいるか!ていうか、早くしないといい加減間に合わないぞ!」

にやにやしていたまーみんは、時計を見て表情を変えた。

「やっば。走らないと間に合わないじゃん。今いいとこなのになあ。くっそー。じゃあね、また3限で」

一方的に別れを告げると、まーみんは大学に向かって走り出した。中学高校と陸上部で長距離種目を選択していたまーみんにとっては、大学までの数百メートル走ることは容易だった。

「なんだあいつ。嵐みたいな奴だな。ていうか破天荒な性格だから間違ってないかもな。」

まーみんが去って静かになった駅前の歩道で、スペーサーは独り言ちた。《ひと ご》そして、進行方向を変えて、人気のない路地へと入っていった。




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