第47話 エピローグ 〜それから〜

あれから、あの夏の日から二年の時間が過ぎた。

学校が始まって直ぐに、俺と有希那の事は広まって回りも一安心と言う感じだった。

有希那のご両親にも、俺の事を話したけど受け入れて貰えて仲良くさせてもらってる。


スッと、有希那が墓前から立ち上がり、俺に向き直る。


「よしっ!蓮夜くんも拝んだら?」


「俺は有希那が拝んでる間に終わったよ。」


「あれ?私、そんなに長かった?」


「地味になっ。ちゃんと報告出来た?」


「うんっ!これからは一緒に住む事、同じ所に進学する事、あれからずっと仲が良い事もちゃんと報告したよっ。」


「そこまで言ったの・・・?」


「当然っ!」


「まぁ、良いか・・・。さて、そろそろ行こうか?」


「そうだね。また来るねっ!彩音さん。」


「またなっ!」


俺達はお墓から離れる、有希那と二人、手を繋ぎながら歩く。

そんな俺達の背中を嬉しそうに笑顔で眺めてる姿があるのだった。


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あの時から、有希那の右手の薬指には彩音から託されたリングが光り輝いている、ちゃんと有希那用のを用意するよ?と言ったんだけど、これで充分だと、次に蓮夜くんから指輪を貰うなら・・・っと、期待された目で見られて俺も照れてしまったのは良い思い出だと思う。


まぁ、そのやり取りを聞いていた美織がすかさず「あんたねぇ~・・・幾ら何でも気が早すぎない?」っと冷静なツッコミをいれて有希那があたふたしてたっけな。


「ねねっ!これからどうするの?」


「うんっと、ちょっと一緒に来て欲しい所があるんだ。」


「何処にでも付いて行くけど・・・?」


「そんな事言って良いのか~?エッチなホテルかも知れないぞ?行き先っ。」


「ぁぅっ///蓮夜くんが・・・したいなら・・・っ///」


「くっ。確かに魅力的な提案だけど、今回は違うよ、まぁ、付いて来てくれ。」


俺は有希那を連れて歩く、何でもない会話をしながら、ここはこんな事があったとか、こっちはあんな事があったと昔の事を話しながら有希那と歩く。

そして・・・俺は有希那をあの場所に連れて行った。


「ここって・・・。」


「うん、実際に来るのは初めてだな。夢の中ではあの日に来てるけど。」


「うん。ここが・・・蓮夜くんと彩音さんの関係が変わった場所なんだね。」


「あぁ、ここで俺は彩音に告白した。そして・・・恋人になった。やっと・・・有希那をここに連れて来る決心が着いた。」


「そう言えば、毎年って言うか何度もこの街には来てるけど、この公園には連れて来てくれなかったもんね。」


そう・・・有希那と恋人になってずっと一緒に過ごす様になってお互いに沢山の良い所、悪い所を知って、絆を深めても・・・ここだけはどうしても連れて来れなかった。


「でも、どうして連れて来てくれたの?」


「えっと・・・ケジメみたいなものかな・・・?」


「ケジメ?」


「彩音を愛してるし有希那を愛してるからこそ俺の始まりを知って貰って有希那に見て欲しかったから・・・かな。だからこそやっとここに連れて来る決心がついた。」


俺の言葉の後に、俺の隣に立ちあの日、最後に彩音と話したベンチの前に立った。


「このベンチはあの日の場所で、蓮夜くんが彩音さんに告白した場所なんだね。」


「そうだ。有希那・・・敢えてここで言いたい、これから先も俺と居てくれるか?俺と一緒に歩いてくれるか?」


「あの日に言った事は何も嘘は一つも無いよ。私はこれからずっと蓮夜くんと一緒に居ます、一緒に歩きます。側にいます、絶対に一人に何てしません。ずっと一緒ですっ。」


そう言って俺に振り向いた有希那の顔はとても綺麗な笑顔で俺にそう言ってくれた。


「うん、俺も有希那と一緒に居る、彩音に出来なかったからじゃ無い、有希那と歩く事を決めたから有希那と共に・・・。」


「はいっ///何かプロポーズみたいだねっ///」


「別に、そう思ってくれても良いけどな。」


「えっ?!///ちょっ!///蓮夜くん?!」


「あ~~シラネ!ほら!次行くぞ!次!」


「待ってよー!ちゃんと言ってってば!蓮夜くんー!」


俺は真っ赤になった顔を見られない様に直ぐに有希那に背を向けて歩き出す。

そんな俺に「蓮夜のヘタレーっ!」っと彩音の罵倒が聞こえた気がした。


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SIDE 有希那


私は今、二人の大人と向き合ってる、隣には最愛の恋人である蓮夜くん。

公園から移動した私達はとあるレストランに向かった。

そのお店で待って居たのは今、目の前に居る二人の大人だった。


「そんなに緊張しないでくれ。別に取って食おうって訳じゃ無いんだ。」


「そうよ、あの蓮夜が認めて、彩音ちゃん以外に愛する人を見付けられた事、蓮夜が先に進むと決めた子に会いたかっただけなんだから。」


「そ、そう言われましても・・・。何も聞いて居なかったので・・・。」


「ちょっと!蓮夜あんたねぇ~・・・。」


「いやまぁ、忘れてたのは確かだけど有希那の性格だと先に教えておいても緊張するのは変わらないと思うし・・・。」


「だからってな?流石に可哀想だろ。いきなり恋人の両親に何の準備も無く会う事になったんだから。」


そう、私の目の前に居る二人の大人は隣に居る蓮夜くんのご両親だ。


「まぁ、良いだろ。取り合えず紹介するけど、この二人が俺の両親な?ほったらかしにしてるダメ親の典型の二人な。」


「おい!言い方!別にほったらかしにして無いだろう!」


「そうよ、私達の未来の義娘に変な紹介するんじゃ無いわよ!」


「ふふっ。ご、ごめんなさい、余りにもスムーズにやり取りするので我慢出来ませんでした・・・。改めて、陵 有希那です。蓮夜くんとは仲良くさせていただいています。」


「うん、こちらこそ宜しくね。蓮夜の父、龍夜たつやです。」


「宜しくね有希那ちゃん。蓮夜の母、優梨愛ゆりあです。」


お互いに自己紹介を済ませた後は食事と色々なお話を沢山した、当時の事も話を聞かせて貰えたし、今の事も話した。


「蓮夜、ちょっと付き合え。」


「うん?あぁ、良いけど・・・。すまん、ちょっと席外す。」


「あ、うん。行ってらっしゃい。」


そして、私と優梨愛さんの二人になって少しの時間、無言の時間が続く。


「さて・・・有希那ちゃん。」


「は、はいっ!何ですか・・・?」


「蓮夜の事・・・好き?」


「ぇっ///はぃ・・・っ///」


「彩音ちゃんの事も聞いてると思うけど、蓮夜はずっと引きずったままなのは変わらない。それでも、有希那ちゃんと一緒にこれからを歩く事を決めて、有希那ちゃんの側に居るけど、有希那ちゃんはどれだけ頑張っても彩音ちゃんと同率1位にしかなれないのは、分かってる?」


優梨愛さんは私を真剣な目で見詰めながらそう聞いてきた。


……………………………………………………………

SIDE 優梨愛


私の言葉に有希那ちゃんは下を向く。

本当ならこんな事は言いたくは無いけど、これから先を蓮夜と歩むなら絶対に覚悟をしなければ行けない事だ。

既に、蓮夜からも言われては居るのは知ってるけど、やはりこの耳で聞かないと、安心は出来ない。あの子は今まで沢山、悲しんで泣いて絶望して、それでもこうして立ち上がり有希那ちゃんと歩くことを選んだのだから親である私達が出来る事はこの子を認める事、そして覚悟が足りないと感じたら蓮夜に恨まれようとも、引き離さないと駄目だ。

そうでもしないと、次は完全に壊れてしまうから・・・。

思考の海に浸りながら有希那ちゃんを見ていると、以外にも直ぐに顔をあげる。

その顔はとても綺麗な笑顔だった。


「今から、荒唐無稽なお話を一つします。」


「荒唐無稽な話?」


「はい。私は彩音さんにお会いした事があるんです。」


「ん?彩音ちゃんが生きて居た頃って事?」


私の言葉に有希那ちゃんは首を振る。


「いえ、最初に会ったのは、夢現で終わりまして、二度目は起きた時には覚えていませんでした、そして・・・2年前、蓮夜くんとお付き合いをする事になった日の夜、蓮夜くんから何があったのかを聞かされた日の夜に蓮夜くんと一緒に、呼ばれたんです。」


「呼ばれた?どこに?」


「蓮夜くんと彩音さんの関係が変わった公園にです。そこで私は、彩音さんに託されました。」


そう言って有希那ちゃんは右手の薬指に嵌めたままのリングを見せて来た。


「ん?・・・え?もしかしてそれ・・・。」


「はい、彩音さんのです。」


有希那ちゃんは指からリングを外して内側のイニシャルを私に見せて来る。


「あの日、夢の中でこれからの蓮夜をお願いしますと、貴女に託しますとリングを渡されて、託されました。」


託された・・・って、夢の中で・・・?そんな馬鹿な・・・。


「信じられないですよね。私も言われたら何を言ってるんだ?って思いますし・・・。でも、本当なんです。本当に夢の中で託されたんです。」


私にそう言った有希那ちゃんの目は何一つ嘘を言ってるようには見えず本当の事なんだとその目が伝えて来た。


「そっか、彩音ちゃんがねぇ・・・。うん、信じるわ。」


「信じて貰えるんですか?」


「えぇ、有希那ちゃんの目が何一つ嘘を言ってないと語って居るし・・・彩音ちゃんならそんな事も出来そうだなと思うから。」


そっか、ずっと見守ってくれて居たんだ。

ありがとう・・・蓮夜を見守っていてくれて、有希那ちゃんを認めてくれて・・・。


「ありがとうございます。だから大丈夫なんです、私は彩音さんに追いついて同じ場所に立って蓮夜くんと共に歩いて行きます。これから先ずっと・・・。」


「うん、良く分かったわ。息子を宜しくお願いします。」


「は、はいっ!こちらこそよろしくお願いします。」


うん、蓮夜は本当に出会いに恵まれてのが本当に嬉しい、有希那ちゃんも彩音ちゃんに似てるし、本当に任せて大丈夫そう。

蓮夜と出会ってくれて恋をしてくれて、本当にありがとう。


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SIDE 龍夜


カチンッ・・・フッー・・・。


喫煙所でタバコに火をつける。


「あのなぁ~・・・タバコ吸うなとは言わねーけど、匂い付くだろうが。」


「まぁーまぁー。それにしても良い子だな?有希那ちゃん。」


「あぁ。とても、良い子だよ。」


「それに、似て居るな。」


「あぁ、似てるけど、違う。」


「そうだな。彩音ちゃんもだけど、有希那ちゃんもとても良い子だし、蓮夜を心から愛してくれて居るのは分かる。」


「あぁ、本当に嬉しいし有り難いよ。」


「だからこそ、手を離すなよ?」


「勿論だ。俺はこれから先は有希那と一緒に歩いていくよ。」


「なら、良い。あんな綺麗で良い子が義娘になるのは大歓迎だ。」


「なぁ、親父。」


「どうした?」


「その、なんだ。今まで心配かけてごめん。それと、見捨てないでくれてありがとう。」


「当たり前だ。お前は俺と優梨愛の自慢の息子だ。」


「あぁ、サンキュ。」


その後、俺達はあちらの話が終わるまで静かな時間を過ごす。

女同士なら色々と話すんだろうが、男同士の会話ならこんなもんで十分だ。

蓮夜もそれを分かってるからか、特に話題を振る事は無かったけど俺もそれで良いと・・・仕事柄、余り側に居られないが、自分で歩き出すことを選んで、有希那ちゃんと言う新たな恋人を作った自慢の息子を俺はこれからも見守り続ける。

そして、蓮夜と有希那ちゃんの二人では解決出来ない事が起きたらその時は、全力で力を貸せば良い。

俺の親父がそうだったように。


……………………………………………………………

その後、適当に時間を潰した俺達は席に戻る。

母さんと有希那は、笑顔で話して居るのを見て、取り敢えずは一安心。


「おかえりなさいっ。」


「うん、ただいま。それにしても随分馴染んだな?」


「うんっ!お義母さんと仲良くなれたよっ!」


「おかあさん・・・?ってもしかして、義母って事?」


「えっ!うんっ!」


「いや、流石に早いんじゃないか・・・?」


「有希那ちゃん!俺は?!俺は?!」


「お義父さん?って呼んで良いんですか?」


「よっしゃっ!どんどん呼んでくれ!」


こいつら・・・。


「馬鹿な事言ってるんじゃねーよ。何よりもまだ早いっての!」


「まだ・・・ねぇ~?あんたも考えてるんじゃない。」


「ほ、ほんと?///」


「うっさい!うっさい!この話はもうお終い!」


俺は顔を真っ赤にしながらそっぽ向く。

そんな俺を、親父も母さんも有希那も楽しそうに眺めてる。

多分きっと・・・こんな日常の一コマが何よりも尊くて掛け替えの無いものなんだろう。

それを凄く実感していた、彩音を失って、有希那と付き合う様になって本当に実感していたのだった。


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「蓮夜をお願いします。」


親父が有希那にそうはっきりと言った、どうやら母さんも既に言って居たらしい。

両親からはっきりとお願いされた有希那は本当に嬉しそうに笑顔で「はいっ!」っと返事をしてくれた。


そして、レストランを後にして別れた俺達は夜の街を二人でゆっくりと歩く、俺の前を歩く有希那はどこか楽しげだ。

今日は、実家で過ごす事になってるから俺達は家に向かっていた。


「何か嬉しそうだな?母さん達に何か言われたのか?」


「えっ?!そんな風に見えた?」


「あぁ、ウキウキしてる様に見えたよ。」


「えっとね・・・、お義母さんに孫は遅くても良いからね?ってっ///早くても勿論良いけどってっ///」


「何て事言ってんだ・・・。」


「あははっ。この際だから言っちゃうけどね?名前の候補があるんだー。」


「普通なら重いって思うけど、俺達だしな・・・。それで?候補って?」


「重いって・・・まぁ、普通なら重いか・・・。えっと、まだ許可を取ってから何だけど一文字貰えないかなー?って思っててさ。」


「許可って?」


「柊家にっ。女の子だったらだけどね?どっちか使わせて貰えないかな?ってさ。」


「あぁ・・・そう言う事か。大丈夫じゃないかな?あー・・・俺も一つ思いついたかも。」


俺の言葉に有希那は嬉しそうに俺の側に来て手を取る。


「じゃー一緒に言おうか!多分同じだと思うしっ!」


「そうだな。それじゃ一緒にっ!せーの・・・。」


「「彩花あやか!!」」


「やっぱり一緒だった!それじゃー音の方は?せーの・・・。」


「「音羽おとは!!」」


「同じだったなぁ~・・・。」


「うんっ!何かね?私達の子供が出来たら女の子な気がするんだっ。」


まぁ・・・言いたい事は分かるし俺もそんな気がしてるのもある。

でもなぁ~・・・。


「有希那の言ってる事は分かるけど・・・気が早いよなぁ~・・・。」


「まー・・・ね。でも、期待はしてるかな~・・・っ///」


赤い顔でチラチラとこっちを見て来る有希那の手を繋いで一緒に歩く。


「まっ、今はまだはっきりと言えないけど、期待を裏切るつもりは無いよ。今はそれで勘弁な。」


「はーーーいっ!///」


繋いでいた手を離し、俺の腕に抱きついて来た有希那を連れて俺は歩く。

ふと夜空を見上げれば、とても綺麗な星空が広がっていた、その星の輝きは・・・これからの俺と有希那を祝福して居るかのような光を携えているのだった。


~FIN~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

あとがき


ここまでお読みくださいましてありがとうございます。

思い出を乗り越えてはこれにて閉幕とさせていただきます。


思い付きで書き始め、途中から違う物語に手を出してそちらの方に集中してしまったりもしましたが、何とか最後まで形にする事が出来ました。


それもこれも、応援して下さった皆様のお陰だと思っております、ここから蓮夜と有希那がどの様な道を進むのか、どのような未来が訪れるのかは分かりません。

ですが・・・どんな困難があったとしても蓮夜と有希那の二人、司達の仲間達と共に乗り越えて、最高の未来を手にすると思います。


本当にここまでお読み下さいましてありがとうございました!!!

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思い出を乗り越えて 桜蘭 @karascrow

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